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拡張世界の覚醒者  作者: ブリル・バーナード
第一章 白き探索者との出会い 編
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第2話 インストール



()ったぁ……」


 痛めた腰を撫でて老人のようにヨロヨロと立ち上がる。


「ここはどこだ? 空間崩落に巻き込まれたのなら【拡張世界】のはずなんだが……」


 涙で潤んだ視界に映るのは無機質な白い部屋だ。明らかに人工の施設。どこか手術室や研究施設を思い起こす清潔ながら人を不安にさせるただの閉鎖空間である。

 空間崩落の大穴はどこにも存在しない。修復されてしまったに違いない。

 壁の一面だけ黒い。マジックミラーというやつだろうか? いや、反射してないから鏡じゃないな。

 なんというか、画面のパネル?


「うおっ!? 光った!」


 俺が心の中で疑問に思った瞬間、黒い壁がブォンと音を立てて明るくなった。

 案の定、電子画面だったようだ。

 読めない文字の羅列。それが次々と現れては消えていく。

 まるでパソコンが起動したときのように――


 <※※※※※※※※※※※※※>


 画面に記号が表示されたまま止まった。

 俺にはただの記号にしか見えない。アラビア文字だろうか? いやでも、点字のようにも見えるし……そもそも俺はアラビア文字も点字も読めないぞ。


『ジジ……キュイ~ン! ジジガガッ! *****!』

「うおっ! なんだコレ! バグったか?」


 突然、どこからともなく耳をつんざく雑音が聞こえてきた。その音はただの雑音から機械の音、信号音、そして言語のような音へと変化する。

 俺にはさっぱりわからないが。


「おーい! 誰かいるのか? って、うるさい! 音量をもう少し下げてくれ。頭に響く」


 耳を塞いでも脳に直接突き刺さる感じだ。うるさいったらありゃしない。


『ア゛ァ……アァ、ああ……』


 数分かけて、音が次第に俺が知っているものに近づいていった。言語、それも日本語にだ。

 音声が突然、流ちょうな日本語に切り替わる。


『所長候補者の言語様式(パターン)学習(ラーニング)しました』

「はい?」


 感情のない平坦な音声と同時に画面に日本語が表示される。


『ようこそ、所長候補者様。当施設の所有者(オーナー)登録を行ってください』

「えーっと、どういうことだ? これは夢か?」

『当施設の所有者(オーナー)登録を行ってください』


 繰り返される音声。

 これは拒否しても登録するまで無限に続くパターンだったりして。

 人間は想像以上のことが起こると逆に冷静になるらしい。


「君は誰だ?」


 ダメもとで質問してみる。すると、返答があった。


『当施設の管理AIです』

「管理AI……ここはどこなんだ? 当施設とはなんだ?」

『現在地は経年劣化による情報(データ)の破損によって不明。当施設は【次元解析特務研究所】です。あなたに所有者(オーナー)登録を要請します』

「次元解析特務研究所ねぇ……格好いいな」


 燻っていた中学二年生の心が刺激された。

 男はいくつになっても浪漫に憧れる少年なのだ!


所有者(オーナー)登録は必ずしないといけないのか?」

『否定。しかし、登録しなければ当施設のシステムを使用することは不可能です』

「移動はおろか、ドアが開閉しないからこの部屋の外に出ることも船外に出ることも不可能だったり?」

『肯定。現在は登録過程(プロセス)のみ起動しています』


 ふむ。実質的に強制登録の流れだな。登録しなかったら俺はここで餓死してしまうだろう。

 これはあれだ。落ちた先は拡張世界ではなくて異世界なのかもしれない。何度か地球に戻れるか念じてみたが何も起きない。

 中世の魔法世界に勇者として呼ばれたのでもない。魔王でもない。ダンジョンマスターでも巻き込まれ召喚というやつでもない。ステータスも表示されない。そもそも神様に出会っていない。

 参ったな。地球には最愛の妹がいるのに。俺が行方不明になったら泣くだろうなぁ…………泣いてくれるよね?


「はぁ……わかったよ。所有者(オーナー)とやらに登録する。どうすればいいんだ?」


 最優先事項は何が何でも生き残ること。生きていれば何とかなる。地球に帰れる手段が得られるかもしれない。

 こういう場合の小説は、大抵帰還不可能だったりするが……ダメだ俺! ネガティブに考えるな! レッツ、ポジティブシンキング!


『案内に従って進んでください』

「りょーかい」


 画面上に映し出されるこの研究所と思しきマップ。

 プシュッと空気が抜ける音がして、壁に通路が現れた。すごい技術だ。

 案内に従って何もない無機質な廊下を進んでいくと、何やらSFチックな機械が設置された部屋にたどり着いた。

 病院のMRIというか、SF映画によく登場するガラス的な透明な素材で覆われた筐体だ。誰かがコールドスリープしていそう。

 幸い、誰もいないが。


「これに入ればいいんだな?」

『肯定』

「失礼するぞー」


 えぇい! 男は度胸!

 恐る恐る中に入って寝転ぶ。このままコールドスリープしてしまいそうな恐怖と不安がある。せめて痛くありませんように。

 音もなく筐体が閉まり、透明なガラス的なものに文字が浮かび上がる。

 なるほど。これも電子画面なのか。いや、ホログラムだっけ?


精査(スキャン)


 光がピャーと俺の全身をスキャンする。コピー用紙になった気分。

 すぐに俺の裸の全身像がホログラムとなって浮かび上がった。

 肉体年齢17。身長、体重、その他病気の有無など、俺自身が知らない詳細な情報も表示される。

 ふむふむ。身体に少し擦り傷や腰の打撲があるようだ。多分、空間震動で転んだ時に出来たものだろう。

 アレの詳細な長さや太さの情報は載せなくていいから……。通常時と最大時の情報もいらん! さ、最後に射精した日もわかる、だと!?

 そんなのを知ってどうしろって言うんだ。

 あ、無精子症ではない? 子種は元気いっぱい? それは良かったです。安心しました。


所有者(オーナー)の生体情報及び魔力波形を登録しました。所有者(オーナー)の名称を音声にてご登録ください】


空島(そらじま)飛兎(とびと)


【ソラジマ・トビト。名称を登録しました。以後、あなたを当施設の所有者(オーナー)として認めます】


【続いて、所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様に各種拡張機能をインストールします】


「はい? 拡張機能のインストール? 拡張アプリか? おわっ! 水が!」


 首をかしげると同時に、筐体内にソーダのような水色の水が侵入してきた。

 逃げようとするが筐体の開け方がわからない。ガンガン叩くがびくともしない。

 瞬く間に俺は溺れた。


「おぼぼぼぼっ! 溺れる! 死ぬ! 助けてくれっ! ユナ、ごめん! お兄ちゃんはこれまでのようだ。あばばばばっ!」


 俺は地球の愛する妹へと届くように祈り、情けなく空気を求めて喘ぐ。

 と、その時、俺は気付いた。


「あれ? 苦しくない。どういうことだ?」


 確かに俺の身体は水色の液体の中に沈んでいる。お風呂に入っているかのような浮遊している感覚があるのだ。若干の液体の抵抗を感じる。

 でも、冷たさは感じないし呼吸もできる。全然苦しくない。

 この液体は……ふむ、飲めないのか。不思議だ。

 人体に拡張アプリケーションをインストールするときにはこれを経験するのか? インストールしたことが無いから俺にはわからん。


「よしっ。俺の脳みそでは理解できない不思議液体として納得しよう。ご都合主義万歳! サイエンスフィクション最高! いや、ノンフィクションか」


 死ぬような危険はなさそうだ。

 それもそうか。所有者(オーナー)登録をしたのに殺すわけがない。


「さて、何が起こるのかな?」


【拡張機能のインストールのため、所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様を睡眠(スリープ)モードへと移行します】


「はぇ? ぐぅ……」


 睡眠(スリープ)モードだと!? このまま何百年もコールドスリープしないよな!?

 そう焦った俺だったが、行動を起こす前に水色の液体で満たされた中で、麻酔を打ったかのように数秒で意識がなくなった。








所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様の睡眠を確認。これから拡張機能をインストールします。インストールプログラムを起動】



所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様の魔力容量及び空き領域を測定します】



【測定中……】

【測定中……】

【測定中……】

【測定中……】



【測定、完了しました。所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様へインストールする拡張機能を選別……決定しました】



【拡張技能(スキル)アプリケーション『概念翻訳』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】



【インストール、完了しました】



【拡張技能(スキル)アプリケーション『完全記憶』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】



【インストール、完了しました】



【拡張知識アプリケーション『次元解析特務研究所の取扱説明』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】



【インストール、完了しました】



【拡張技能(スキル)アプリケーション『自己診断』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】



【インストール、完了しました】



【続いて、特殊能力(アビリティ)拡張アプリケーション『精神防壁』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】



【インストール、完了しました】



【特殊能力(アビリティ)拡張アプリケーション『順応体』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】




【インストール、完了しました】



【特殊能力(アビリティ)拡張アプリケーション『銀の鍵(ザ・シルバーキー)』をインストールします】



【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】

【インストール中……】



【インストール、完了しました】



【容量上限に達しました。以後、拡張機能を追加する場合は、アンインストールを行うか、容量を増やしてから行ってください】



【以上で拡張機能のインストールプログラムを終了します】



【続いて、メディカルプログラムを起動。所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様の身体の不調を取り除きます】



【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】

【実行中……】




【完了しました。メディカルプログラムを終了します】








【全ての作業の終了を確認。所有者(オーナー)ソラジマ・トビト様、覚醒してください】


お読みいただきありがとうございました。

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