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死んで何回目のことか忘れたか、悪霊や悪魔に対抗しよう!と信仰に目覚めたことがあった。

祓魔師や坊主になり、十字架や数珠ふりまわした人生。


その結果どうなったかってまぁ普通に殺されたよね。関係者になるということは厄介事が向こうから依頼として突っ込んでくるということだった。悪魔に地獄に追いやられ、お経は唱えきれずに悪霊暴走、というかそもそも効果あったんか?という話だ。御札はなんか汚れたりしてたけど、実際にきちんと対処できた!生き残れた!という実感はなかった。


その点、白魔法はすばらしい。

何故素晴らしいのか、説明しよう。


まず効果抜群!効果が目に見えてわかります!どんなゾンビも一瞬で遺骨に!


そして汎用性抜群!ゾンビだけではありません!悪霊も悪魔も鬼、ドラゴンまで!

ありとあらゆる敵に効果が発揮でき、その上なんと怪我や病気を直す回復魔法まで!


さらにさらに、なんといっても安全性の高さ!赤魔法の練習中にうっかり爆発を起こしてしまい大怪我したことはありませんか?

その点白魔法はどれだけ失敗しても怪我なし!ノーリスクなんです!!


「なんて優しい魔法なんだ・・・!これで俺は寿命を全うできる!」


「おいスピノザ!スケルトンきてるぞっ」


「はっはー!いくらでもくるがいい塵にしてくれるわ!成仏せぇ!」


白魔法パーンチ、ではないが持っていた杖で頭蓋骨を満塁ホームラン。声をかけてくれた今回一緒に依頼を受けてくれた男は呆れ返った表情で後片付けを始めていた。臨時のパーティではあるが、何度か組んだことのあるメンバーだ。勝手はわかっている。


師匠であるババア様によりいただいた仕込み杖を振り回して俺も俺がやらねばいけない後始末をする。主にモンスターを倒すと出る残滓、魔霧だかなんだかいうのを白魔法で浄化していくのだ。これにより澱んだ空気は晴れて、モンスターが発生しにくくなる。気分は空気清浄機。うんうん素晴らしい。倒したと思ったら復活、とかはとても怖いからね。2とか3に続いてしまうからね。いけない。せっかく助かったはずの被害者がもう一度同じ目にあったりするのすごく不憫だからね。まぁ俺は助かったこと基本ありませんけど。端役ですみませんねぇすぐ死んじゃいますよ。


「よし、緑の洞窟スケルトン15体だ。依頼完了、助かったぜスピノザ」


「おう、構わんよ」


白魔法士は珍しいので、こういう時そこそこいい値段で臨時パーティが組める。といっても俺は学生なので本当に希に冒険者ギルドに顔を出して、その時の気分で依頼を受けるので、小遣い稼ぎ程度なのだが。


「いやぁ、洞窟いくのにスピノザがいてラッキーだったぜ」


「ここいらで白魔法っつうとクレイドル兄妹だもんなぁ」


「はっはっはっもっと褒めていいぞ?ついでに魔道具はいかがかな」


ざらっと懐から自作の魔道具を見せたが、金がねぇと戦利品に骸骨を抱えた冒険者たちが首を振る。仕方ない。魔道具はどうしても値段が張るのだ。かなりお手頃価格なんだがな、俺のは。


ババア様の修行は熾烈を極めた。


「あたしゃ流離いの白魔法士!悪いがひと月で叩き込むよ!」


何やら有名な白魔法士らしいババア様に、両親はへへーとお辞儀をしてひと月だけ住み込み家庭教師のような扱いをしてくれた。基礎の基礎から応用のはじめまで、体力づくりなどを全て捨てて魔法の扱い方を教えてくれた。まだ学校にも入っていなかったので、本当に魔力を練ってみましょう、からはじまったのだ。こんなガキに丁寧に教えてくれたババア様には感謝が尽きない。スパルタだったがなんのその、俺は楽しくて仕方が無かった。


ババア様はひと月ぴったり、名残惜しむ暇もなくまた旅にでて辻ヒールをしまくるぜ!と馬で駆けていった。いつか魔道具でバイク作るよババア様、是非乗ってくれ・・・。


街で問題になっていたゾンビはもはや教科書扱い、俺の練習台となってくれ弟子期間であるひと月でゾンビは一掃され、解決してしまった。


俺はすっかり味をしめ、積年の恨みとばかりにゾンビやスケルトンというアンデッドモンスターを狩るため、冒険者登録を・・・したかったが年齢制限にひっかかり無理だった。


だが俺の情熱は絶えない、いくら白魔法といえど弱っちくては意味がない。

最強の白魔法士となるべきだ!!ファンタジー世界観とはいえゴーストだっているし呪術師だっているのだ、何が起こるかはわからない。ババア様があとの応用は教科書をみな、と直筆本を託してくれた。秘伝の書じゃねぇかババア様、大事にするよ。俺は擦り切れる程読み込み、鍛えた。鍛えたとも。毎朝、浄化の魔法を家中に撒き散らし、悪魔一匹いれるものかと両親、妹はもちろん使用人たちにも魔法をかけまくった。文字通り俺の家は聖域サンクチュアリとなっていたのだ。


冒険者登録をした後は、アンデッドは全て俺が狩る、と言わんばかりにはっちゃけてしまった。今までの俺は何故あんな者共に殺されていたのだ?なんて黄昏ながら大技を決めるのは楽しい。


「さて、シーカ俺が今まで教えたことは覚えているな?」


「もちろんですお兄様!お兄様が教えてくださった白魔法、もう治癒の魔法まで使えます!」


「あぁ、そうだ。白魔法は偉大だ。アンデットに容赦はしてはいけない。そしてもちろん忘れてはいけない、こっくりさんに誘われて放課後残ったりしちゃだめだぞ、まっすぐ帰ってきなさい。ウィジャボードなんて持ってくるアメリカ人がいるパーティなんて行かなくていいからな、肝試ししようなんて言ってくるやつも友人じゃありません。ハンディカメラを常に構えている奴がいたら尚更だからな。いいかい?墓場やお地蔵さん、名もしれないしめ縄が巻かれた石とか、とにかくイタズラをするような人間はそばに置いたらいけないよ、あとベビーシッターなんて頼まれても引き受けたらいけない。もちろん自室以外でうたた寝なんてしちゃいけない、それに」


「うふふ、お兄様心配性だわ」


兄の言葉にわけのわからない単語がたくさんあっても妹は慣れっこだ。

妹は、明日から高学年となり、俺と同じ校舎になるのだ。俺は17歳、シーカが15歳、危ない。とても死にやすい年齢だ。なんらかの事件に巻き込まれるのではないかと心配だ。なぜなら妹はとてもおっとりしているのだ。勇ましい戦うヒロインではないし、コンプレックスのある真面目ちゃんというホラー映画的に生き残るタイプではない。真っ先に死ぬビッチでないことだけが救いか。


だが人の心配ばかりもしていられない。俺は俺で面倒事に巻き込まれないようにしなければ。いくらファンタジー溢れる魔法学校といえど所詮は学校。思春期のガキってのはどの時代も、どの世界観でも不安定で危険なのだ。俺は白魔法を駆使してクラスの連中のメンタルケアをしているため、大丈夫だと言い切れるが、妹は問答無用で魔法をぶっぱなすようなことはしないので難しいだろう。不安だ・・・もうこれはいっそクラスの連中だけではなく学校全体に魔法をかけていこうか。朝のジョギングだと思えばなんてことはない。


「その真剣な顔、またとんでもないこと考えているな潔癖症」


「我が友よ、あんまりな言い方じゃないか日々冒険者として土に塗れる俺を潔癖症?」


「毎日教室に浄化魔法かけて生徒一人一人に正常化魔法かけるやつは十分潔癖症だ。あえていうなら呪詛アレルギーだ」


「呪詛なんて誰だって嫌いだろう」


後ろの席へ乱暴に座った友人は、呆れ返った顔をしている。俺のビビリ具合をしっかり把握しているくせに、綺麗好きなんて言葉でまとめようとするなんて雑なやつだ。


「そういえば西門の先にあるとうもろこし畑で」


「とうもろこし畑は嫌いだ。近づいてはいけない、死ぬぞ」


「相変わらずの意味のわからねぇ差別主義だぜ」


「偏見が命を守ることはある」


「妹が噂になってるぜ、とうもろこし畑で土スライム大量発生してたの全部浄化したって」


「流石我が妹、すっかりマスターしているな」


俺がいない時、俺の目の届かないところを俺が恐怖に陥れられる前になんとかしておいてくれるなんて最高だ。この世に白魔法士はもっと増やすべきだな。だいたい土スライムってミミズの仲間かな?って勘違いしそうになるのに大量に寄せ集まると全てを土くれに変えていく祟り神みたいな存在じゃねぇか。ほらみろ、とうもろこし畑は危険じゃないか。


「冒険者じゃお前ら兄妹の白魔法の腕は今更だけど、同級生には結構な衝撃だったみたいでな、聖女だって騒がれてる」


「・・・はぁ、聖女?」


って何だろうな。一応この世界にも教会とかあるが、聖人や奇跡の認定とかはしていなかった気がする。そもそも宗教がわりと根本的に違ったような。


首をかしげていると友人は、片頬だけ釣り上げて下手くそな笑みを作った。


「五年生に王子がいるの知ってるか」


「王子なんぞそこらじゅうにいるだろうが、七年にもおるわ」


「名前だけの木っ端王子共じゃねぇわ、継承権トップテンに入ってるやつが五年にいるんだよ。そいつがお前の妹を聖女として持ち上げた」


「・・・おい、俺は詳しくないんだが」


その聖女ってのに何の意味がある?と幾分真剣に聞けば、友人はため息を吐いて一枚の紙ペラを出してきた。質の悪い紙には文字がびっしりと書かれていて、新聞だということはわかった。しかもこれは号外だ。


復活した魔王に天誅を!

魔の森が広がりつつあることから魔王が復活したと見られているが、王家は既に迅速なる対応をしているとの話を関係者から手に入れた。王家は優秀なる王子を中心に討伐隊を組む予定となっており、追々は魔法学園の生徒から冒険者まで幅広く兵員を募集するとのことだ。既に第一騎士団、魔竜部隊、閃光のハーレーなど錚々たる顔ぶれが決定しており、この大規模な討伐軍は歴史に名を残すことだろう。


「・・・参加すんのかその王子」


「まだ狙ってる段階でしょ、でも聖女が傍にいるなら選ばれる可能性は高い」


眉間にシワが寄るのがわかる。目の前の友人も口元は笑っているが目は笑っていない。こいつの王家嫌いはなかなかのものだ。俺もあんま好きでもない。


「だいたい魔王復活って本当なのかよ。冒険者の中じゃ噂にもなってねぇけど」


「それはどうも本当っぽいんだよな。三年ぐらい前からどうも魔の森が広がってるらしい、この辺りが影響ないのはぶっちゃけお前とかがいるからだろ」


「俺?」


「優秀な魔法使いが多い上に白魔法士のお前がやたらめったら綺麗にしてるだろ」


あぁ、なるほど。そらそうだ、俺はありとあらゆるホラー要素の撲滅に心血を注いでいる。東に閉鎖された病棟があれば白魔法、西に怪しげな実験器具のある塔があれば白魔法。南に行方不明者多数の湖があれば白魔法、北にカルト信者の村があると聞けば白魔法。ただし白魔法をぶっぱなして浄化するだけで深く首を突っ込まない。首を突っ込んでこっちが危険な目にあったら嫌でしょう。広範囲白魔法をかけてもどうにもならないなら近づいてはいけない。


「ここらが魔の森の影響がないのは聖女が存在するからだって報告が上にいったらしい」


「はーーーん????シーカは五年生だぞ?今更すぎんだろ?」


全力で馬鹿にした顔をしてみるが、友人に向けたところで意味はない。友人は長くため息をついて、まぁとりあえず、と締めに入った。こいつは無駄なことは言わない。


「妹は面倒事に巻き込まれるのは確定だ」


お前はどうする?


そんな友人の忠告はありがたくも、至極正確なものだった。


二週間も経たないうちに、妹は一緒に帰宅しようと放課後に俺を訪ねてきた。

その様子はいつもの柔和な空気はなく、どこか堅い笑みに重いため息をついている。おそらくは王子関連だとは思われるが、噂話なんていうものに振り回されるのは大嫌いなのでどういう状況かわからない。噂話なんていうのは八割怖い話なのである。聞いたら移る系は本当勘弁しろや。


「お兄様、あの・・・これ」


「その封蝋・・・召喚状か」


ご立派な王家の紋章が入った封蝋に下品にも舌打ちをしそうになった。少し俯きがちな妹に視線で事情を話せと促せば、言いにくそうに召喚状をもらった経緯を話す。いつもはふわふわと笑う光を散りばめたような妹が、どこか申し訳なさをにじませている。


お前は聖女に違いないので魔王討伐のために滅私奉公しなければならない、モンスター湧き出る森へ騎士団とともに討伐隊へ同行しろ、これはとても名誉なことであり次期国王たるデレル王子の采配であり、覚えも良くなるうんたらかんたらえっさほいさどうこうと言われて了承させられたらしい。


まだ学生という身分であるのに強制的な徴兵、それも男の群れに突っ込ませる馬鹿がいるか。俺は危険だ、と顔をしかめた。妹の白魔法の腕は良くとも、それ以外はまだ授業で学んでいる途中であるし、圧倒的に実践経験が不足している。ましてやモンスターの件がなくとも野宿だのサバイバルをせざる得ない行軍についていくのさえ過酷だろう。聖女なんて名前ばかりに決まっている。馬に乗せてくれるかも怪しい。


「あの、その式典の召喚状を断っても討伐隊にはもう組み込まれているからって・・・」


「断れないだろうな、そりゃ・・・シーカ安心しろお前だけに押し付けないよ」


「お兄様・・・嬉しい。でもいいの、だってお兄様の嫌いな怖いものだわきっと」


「馬鹿いえ、このままじゃ怖くて眠れなさそうだから直接この手で叩きに行くんだ」


気にするな、と妹の頭を撫でて笑う。モンスターか何かしらないが、言ってしまえば戦争だ。そんなものに参加するなんて悪夢もいいところ、ましてや俺は旧日本軍だナチスの亡霊だのが大嫌いだ。


だが、俺には白魔法がある。


「この戦いで人がいっぱい死んで悪霊が大量発生だのいわくつきのホラースポットなんかが誕生するよりは、俺とお前で白魔法かけまくってやるほうが、よっぽど怖くないさ」


頼りにしてるぜ、といえば妹は嬉しそうに、もちろんと返事してくれた。



デレル王子だのいうやつに妹とともに挨拶へいき、白魔法を使える自分も妹のサポートのために討伐隊に参加させてもらうことを許可していただいた。


「おぬしもこの名誉に預かりたかったか」


くそガキが。

妹と同い年のくせにまだ成長期前なのか、小さい体格でふんぞりかえった金髪坊やは思いのほか直談判に来た俺と妹を快く受け入れてくれた。勢力が増えるのはいいことらしい。


「やっぱりそうなるよなぁ」


「生徒でも結構な人数が参加するそうだ。王子のご学友様らを筆頭にな。俺が参加してもなんらおかしくないだろ」


「そりゃそうだが、毎日毎日キュアをかけてくれてたお前がなくなったらこのクラスのやつらはどうなるんだか」


「ふん、安心しろ怨霊の群れになったとしても俺が成仏させてやる」


「オンリョウってのは悪魔だったか・・・白魔法勉強してみるかねぇ」


友人がどうでもよさそうな顔をして椅子の背もたれへ体重をかけた。この友人は討伐隊へは参加しないらしく、ごく普通の学校生活を送るらしい。日常とはいいものだな。

もし俺が心配だから討伐隊へ参加するなんて言ったら死亡フラグだから失せろというところだった。まぁこいつに限ってそんな親友ムーブないけどな。


「・・・いつ出発だ」


「来月」


盛大なパレードが終わってからの出発だ。パレードに参加するのは近衛隊や騎士団、一部の有名冒険者パーティだけでこちらは関係ないが、旅の準備には時間が多少かかる。丁度いいだろう。


「スピノザ、餞別だ」


手渡されたのは小さく平たい缶だった。中を見ると紙タバコが綺麗に並んでいる。珍しいと思った。この世界はタバコに年齢制限はないのでプレゼントとしてはおかしくないが、主流は葉巻だ。というか俺はタバコとか吸ったことないが?


「普通の煙草じゃない。ハーブや香草だ」


「ほーん?吸えるお香ってことか」


「お前が喜ぶ風にいうと悪魔祓いの煙だと」


「お前最高だな!!!」




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