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魔力がある、そんな世界らしい。

赤ん坊の頃、親の会話に耳を澄ませてそれを知った。


両親だろう人間が言った言葉を正確に記すならば、そろそろこの子にも魔力があるか儀式で確認してもらわないとね、だ。俺に魔力があるっていうのか、と上下に腕を振り回したが、よくわからない。


ひっかかるのは儀式という言葉だ。


この世界のことはまだよくわからない。だが魔力と儀式というワードに嫌な予想が頭をとびかった。不穏だ。自分にとっては地雷レベルの単語だ。それは今までの経験という悪夢。


そばに控える使用人と両親くらいの人間しか知らないものの、その魔力を使った行動はどこにも見られない。日常的に魔法をポンポン使う感じではないようだ。この時点で指を振ってしゃらんらと明るく陽気なアイドルに変身するような魔力ではなさそうだ。


右へ寝返り、鹿かなにか角の生えた動物の剥製がハンティングトロフィーとして壁掛けされているのをみる。左へ寝返り、額にいれられた古い地図のようなものを見つめる。体の位置を戻し、天井をみる。昼と夜を背景に、天使と女神が戯れている、知らない宗教画だ。


ふ、わかったぜ。

悪魔に捧げる生贄のパターンだろ。


それかあれだ、赤ん坊に悪魔取り付かせたりするんだろ!外道もいいとこだ!享年1歳かな?!はやい、はやすぎる、今までの転生人生の中でもぶっちぎりの短命さだ・・・それとも悪魔を飼ったまま生きるのかな、二重人格みたいになったりするのかも。そういえばそんな奴いた気がするわ、俺そいつに殺された気がするもん。


魔女のいる森に置いてかれたりするのか、それか悪魔信仰かな、もう初手ヤバイ家からはじまるの本当やめてほしい。


現在赤ん坊の身の上、俺は身も世もなく泣き喚いた。





映画は嫌いだった。

なんか古い映写機が白黒で出来の悪い狼人間なんかがワーッと子供を脅かしにくる映像の記憶が、たぶん最初だと思う。


確かその頃はまだそんなホラー映画に笑ったり、ビビってる友人をからかって楽しんでた。地味だけどかわいい女の子と、男三人ぐらいだったと思う。みんなで遊びに森の中へ入っていき、昼間なのに日が上手くさしこんでこない薄暗さ。怖いね、と言いながらも冒険気分で進み、お調子者のひとりが狼人間の真似なんかして、がおーっとビビリ君と女の子を脅かした。俺はたまたまソイツの横にいて、笑っていた。がおー。


次の瞬間に俺は血を派手に撒き散らして死んだ。


耳に残ったのは全員の絶叫だ。今思えば、あれ絶対狼人間出てきてましたね。背後いたね。俺が死んでみんな逃げ切れたのかなぁ、とたまに考える。そして俺は思った。


狼人間の映画みたから狼人間で死んだんじゃないですかね。


ドライブインシアターの記憶もある。あれは相当理不尽だったし、状況はさっぱり理解できなかった。今も一体何が起こっていたんだろうなぁ、と思うばかりだ。

広い駐車場とでかいスクリーン、自分の車の中という安全地帯に俺はリラックスしてロマンス映画に浸っていた。それをぶち壊したのは体当たりするかのような衝撃だ。手が痛いだろうに、バンバン力いっぱい窓を叩かれる。イラつきながら視線をやれば窓には汚れが手形になっていた。直感的に血だと思った。


泣きながら女の子二人が助けて、助けて!と叫ぶ。尋常ではない。何かに追われているなら車に入れてあげるべきか、と窓を開けて、後ろに乗れといえば転がり込むように乗り込み、車が上下に跳ねた。


仕方ない、出ようとアクセルを踏んで暫くすれば進む方向にピエロが立っていた。後部座席で悲鳴が上がる。あぁやばい、これ絶対やばい。そうはいっても轢いて逃げる度胸などはなく、避けようとすればどういう物理法則が働いたのかピエロは窓をぶち破って俺の首を捕らえていた。絶対見えない方向だというのに、俺は最期にスクリーンに映る女優の顔をみて死んだ。


とどのつまり、映画は嫌いだし、狼人間もピエロも嫌いである。


何度目の人生か、避けていた映画を見ざるをえなくなってしまった。しかもホラー映画だ。おかしいだろう、恋人とデートでどうしてホラー映画なんだ。恋愛映画もやっているよ、と勧めてみたが冷めた表情で、痒いんだよねぇそういうのと言われた。擦れてんな、とため息を吐いた。


そうしてはじまった映画は、記憶にある狼人間やドライブインシアターのスクリーンよりもよほど綺麗で、面白く、素晴らしかった。そう、素晴らしかった。見終えた後、俺は彼女が携帯を立ち上げている横でただ呆然と白いスクリーンを見上げていた。


「よく生き残ったな、エリー・・・」


もう号泣である。彼女にドン引きされるほどの感涙、それほど主人公のエリーは頑張って生き残っていた。地味で真面目なエリー、そそのかしてくる友人の言葉に強く反対もできずいわくつきの立ち入り禁止の館に一緒に入っていき、命の危機にさらされる。わかる、わかるぞ・・・真面目でいい、真面目でいいんだ。退屈な日常ってのは大切なもので、守るべきものなんだ。貴女そんなんだから彼氏に振られるのよ、なんて言葉に傷つく必要はないぞ。ティーンエイジャー、恋人なんていうのはスパイスであって、生きることに必須じゃないんだ、だから俺がこの後彼女に振られたことも気にすべきことではない。


即死トラップの回避、焦りながらも冷静に逃げる回るエリー。幽霊なのか殺人鬼なのかわからない犯人をきっちり観察する度胸、そして仲間を見捨てない。すばらしい。俺なら三回は死んでるし、よく見捨てられるし、だいたいの敵って無尽蔵の体力もってるからひ弱な俺はカモだよカモ。身体を鍛えた人生もあったけど仲間の盾になって死んだ気がする。


怪我をしたら悲鳴あげちまうし、エリーはよく我慢したな。痛かっただろうに・・・。まったく、これのどこがホラー映画なんだ感動巨編じゃないか。


俺は帰るその足でレンタルショップへ向かい、あらゆるホラー映画をレンタルした。見れば見るほど共感しかない。俺の走馬灯かなにか?と驚く程だ。ていうか俺何回死んでるんだよ。なんかもう転生してるのも普通に受け止めてたわ。普通の人間って転生した記憶なんてないんだっけ?と今更自覚してびっくりした。


「ははーん、こうやって生き残るのか。俺謎解きパートに参加できたことねぇわ」


乾いた笑いが漏れる。パソコンを流れるジャパニーズホラーはついに十数年前の火事の被害者こそが幽霊であると突き止めていた。冤罪をかけられ死人に口なしと殺された可哀想な幽霊、鎮めるにはどうしたらいいのか、と頭を付き合わせる男と女。お前らすごいなぁ、幽霊に追われながらそこまで動けるのかぁ・・・、俺は感心しながら、来世に活かそうと思った。


そして、おそらくその来世が今である。


たぶんな。いや何回か人生挟んでるかも。

そういえば前世は規模が違いすぎて手も足も出なかったんだった。霧に包まれた街と連絡が取れなくなったとかニュースがやっていて、嫌な予感がしているうちに俺の住んでいた街も霧に包まれ意識を失った。直前ぐらいに悪霊の霧とか命名されてた気がする。あれは何歳だったかな。


(俺・・・寿命を全うしたい)


遠い目になりながら、必死にハイハイをする。気分は匍匐前進する軍人だ。立派なドアのくせにうっかり開けっ放しにして使用人は消えたので、自宅をマッピング中だ。左を見て、右を見て、きちんとクリアリングしていく。


見れば見るほど〈それっぽい〉豪邸だ。外が見れないから、場所も、時代背景はわからないが、中世ヨーロッパなのだろうか。そうだとしたら最悪だ。魔女狩りはやめよう。怖い。20世紀の日本を体験したあとに17世紀ヨーロッパとか地獄だった。本物の魔女に殺された時より無実の女性が次々理不尽に殺されていく光景のほうが悪夢。ジャパンホラーあるあるの生きている人間のほうが怖いというのを痛感したな。


「まぁまぁまぁ、坊ちゃん!何故ここに!」


なんと、見つかってしまったか。クラシカルなメイド服を着用した女性に抱き上げられ、周辺調査が終了してしまった。このまま外へ散歩にでも行ってくれないかと考えたが、それを伝える術は思いつかない。口からは喃語が溢れるだけだ。女性は手馴れた様子で背中をポンポン叩いてくれる。


「ティモ、どうした」


「旦那様、申し訳ございません。坊ちゃんが脱走していたようで、こんなところに」


「なに、一人だったのか。怪我は」


「ご機嫌ですよ、ほら。寂しくてお二人に会いに来たのかもしれませんね」


今生の父と母がメイドの声に気づいて顔を出してくれた。遊んでくれたりはしないが、別に愛されてないというわけではないらしい。二人は笑って俺を抱き上げてくれた。そのまま部屋へ招き入れてくれるので丁度いいとばかりに部屋を観察する。


母はソファへ、父はゆっくりと部屋を歩いてくれた。行きたい方向へ手を伸ばせば、気になるのか?と寄ってくれる。便利だ。


「ほら、スピノザお庭だぞー」


青い空の下、中世から近世の折衷案のようなヨーロッパ風の建物が立ち並んでいるのはわかった。高い建物はあまりない、遠くに山が広がっているが、そこそこの街か。


というかスピノザって俺のことか。え、スピノザって苗字じゃない?名前なの。まぁ邪悪そうな名前じゃないからいいけど。ダミアンとかだったらちょっと色々疑っちゃうとこだったな。


「あら、今蹴ったわ」


「本当かい、ほらスピ、妹も元気だ」


「ふふふ、弟かもしれないわ」


ソファに座ったままの母親がにこやかにお腹をさすっている。ゆったりとしたドレスだったので気付かなかったがお腹が大きい。なるほど、妊婦だったか。母親の近くに下ろされたので、恐る恐るお腹に触れれば、ぽんと軽い反応。うむ、いい子が生まれますように。悪魔が乗り移ってるとかダメだぞ。正直子供とかすぐ幽霊にとりつかれるし怖い歌をうたいだしたりするし、あんま近づきたくないけど家族ならきっと平気。殺さないでね。


「ねぇ貴方、魔力の確認はこの子が生まれたときに一緒にしましょうか」


「それもそうだな、今年の儀式参加者は多そうだし」


あ、街ぐるみの儀式ですか。洗礼みたいな感じだったりするのなら、平気かな。いやキリスト教あるのか?この世界。少し安心すると幼い身体は睡魔の誘惑に負けはじめた。父親がメイドにゆりかごを持ってこさせ、俺はなんとも高そうな木の香りに包まれる。


この、眠る時って・・・毎度死ぬ瞬間みたいで嫌いだよ。


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