8話
「明日から連休ですねー。真木先輩何か予定とかはあるんですか?」
夕方17時になり、帰り支度を始めながらほのかは真木に声をかけた。
「ゲームだな」
やっぱりというか、見た目通りというか、真木はインドア派のようだ。
「私も好きですよ、ゲーム。出かけたくない日はゲームしたり、映画見たり、漫画読んだり……インドア最高ですね。出かけるのも好きだけど……」
「そういや、こないだウェブ開発の同期と飲みに行くって話ししてたな。また飲みすぎんなよ」
度重なる醜態を晒しているほのかは「うっ」と口つぐんでしまって、何も言えなくなった。
「休み中でもいいから、酔いつぶれる前に電話すれば迎えに行ってやらなくもないけどな」
真木はそう言って付箋にさらさらと何かを書いた。それをほのかの額に貼り付ける。貼り付けられたものを手に取って、ちらりと見ると電話番号が書かれていた。
「私、先輩の番号はもう既に持ってますよ」
「それは仕事用のだろ。これはプライベート用の携帯番号。休みの日は仕事用の電話には、よっぽどじゃないと出ないからな」
——なんと。またどこかで酔いつぶれるとでも思ってるな。
番号を渡されたほのかはすぐでスマホを取り出して、ぷちぷちと入力をした。
「へへ、先輩の番号ゲットだぜ」
入力された画面を見せて、少しふざけてみせた。それを見せられた真木はほのかの頭を軽くチョップして「飲みすぎんなよ」と再度言って立ち上がり、ボディバッグを肩からかけてオフィスを後にした。
連休初日に幸也たちと約束してあった同期親睦会のために、予約してあったダイニング居酒屋に来ていた。17時を回り当たりはうっすらと暗くなってきていて、繁華街を歩く人の数も少し増えてきていた。
予約してあった席に通されたほのかは、既に座っていた数人の同期に挨拶をした。中にはまともに話したこともない人たちもいたので、自己紹介も兼ねて所属している部署の話しもした。最終的には5人集まって、会社の話でもちきりになる。
「ほのかは何飲む?」
「うーん。今日はモクテルでいいや」
向かいの席に座っていた幸也が乾杯のためにメニューを差し出してくる。だが、度重なる失敗を経験している彼女は酒を控えた。
ふたりが話しているのを聞いた人は「何でふたりは部署も違うのにそんなに仲がいいの?」と聞いてきた。その度に「大学が同じだったから」と言って回る。
なんだかただ仲がいいというのに理由が必要なのはどうしてだろうとも思った。
「てか山崎さんの上司ってすっごい怖いって聞いたんだけど、本当に厳しいの?」
なんとなく予想していた質問。
「まぁ、厳しいっちゃそうだけど、すごく優しいところもあるんだけどなぁ……」
――てか、何で先輩をフォローしてんだ、私?
そんな質問もいくつか潜りぬけて、少し疲れてきた頃にほのかは化粧室へと席を立った。そこで鏡を見ていると、スマホにの着信音が響く。画面を見ると真木から「飲みすぎるなよ」とSMSメッセージが入っている。
それを見て思わずふふっと笑みがこぼれ、すかさず「今日はノンアルなので大丈夫ですよ」と返信しておく。返信のメッセージを打ちながら、そのやり取りになぜか安心感を覚えた事を自覚した。