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恋愛初心者、恋をする  作者: 織田 智
婚約初心者
83/114

79話

「頭痛い……」


 起き抜けに由香里が死にそうな顔をしながら旅行鞄をあさっている。


「二日酔い? 薬持ってる?」

「半分が優しさでできた薬があるので、それでなんとか凌げれば……」


 グダグダになっている由香里。しかしほのかも三國も何も言えない。なぜなら全員が大なり小なり二日酔いという爆弾を抱えていたのだった。


 「おはようございまーす」と疲れを残した言い方で挨拶をすると、先に座っていた開発部の先輩や、後から続々と入ってくる人も“飲み過ぎた”と顔に書いてあった。


そんな中みんなで話し合って夜に花火をしようと決めた以外は各々自由行動をしようということになったので、ほのかたちは6人で神宮に行こうとなった。




車で異動すること45分。夏休みで人が溢れる仲見世通りにたどり着いていた。


「人が多い……」

「夏休みの週末だからな」


 人が多い時に、同じように人が多い場所へ行きたくなるのはなぜなのだろうか。どちらかと言えばおうち好きのほのかにとっては辛いものがあった。


「私浅草寺もいったことないんですよ。人が多いのが苦手なんで」


 そうほのかが言うと、横にいた三國がわくわくした声で答える。


「本当に? じゃあ仲見世の雰囲気は新鮮だよね」


 確かにこんなに活気がある商店街も珍しい。これだけみんな神様になんやかんやお願いを聞いてもらおうとやってくるのに感心させられる。

 それほど人の悩みは尽きないものなのだろうと考えを巡らせた。


 本殿へと通じる橋を渡りながらほのかが「先輩は何かお願い事あるんですか?」と訊く。

 現実主義な彼が神頼みだなんてしなさそうなので、興味本位で尋ねたのだ。


「別にないかな」


 ——やっぱり。


「マキちゃんはエンタメの神様とかからご利益貰うといいよ」

「余計なお世話です」


 そんな話をしながら本殿にようやくたどり着く。満員電車のごとく人が込み合って、かつのろのろとしか列は進まない。

 しかし森に囲まれているので、東京で感じるようなストレスは無かった。


ようやく6人が本殿の前にたどり着き、全員が1列に並んだ。


真木の横に立ったほのかがちらりと真木の方を見ると、以外にも一礼二拍手してから何やらお祈りしているではないか。興味がないと言っていた割に、そこら辺は抑えている辺りが彼らしい。


 ほのかの祈願が終わって目を開けると、横に立っているのは知らない女の人に変わっていた。

他のみんなはまだ祈願中だったが、後ろがつかえているためさっさと横に異動した。


「先輩は何お願いしたんですか?」

「“今年の年末は去年みたいに怒涛のラッシュになりませんように“って。神頼みでも何でもいいからあんなきついのはもう暫く遠慮したいからな。そういうお前は?」

「仕事が上手くいくようにと、素敵な結婚生活になるようにってお願いしました!」


 ふふん、と得意げに言うと「結婚生活は来年だろ」と突っ込まれた。「別にいいけど」とも言われたが、確かに来年のお願いは来年した方がいいのか。


「では、また初詣に行きましょう」


 ほのかがそういうと「そうだな」とふっと笑いながら真木が言う。




 祈願が終わってからみんなで仲見世へ足を運び、抹茶のかき氷を食べたり、おみくじを引いたりして散々遊び尽くした。


「あぁーこのメンバーで来る社員旅行はこれで終わりか―」


 残念そうに由香里が言うものだから、ほのかもちらりと岡本の方を見る。


「別に会社だけがすべてじゃないんだからさ、本当に会いたかったらまたどこかで会えばいいんだしさ」


ほのかにそう言われて「そうだね」と言いながら、スマホを取り出した由香里はみんながスクリーンの中に入るように写真を一枚撮った。





陽西に傾きだした頃に車に乗り込み、ホテルに戻ったのは夕食の時間だった。すっかりお腹が空いていたのでそれらをきれいに平らげる。


「じゃぁ、みんな食べ終わったら昨日食べたバーベキューエリアで花火なー」


 開発部のチーフが指揮をとってみんなに案内する。


「大学生のサークル旅行みたい」と声が上がっているが、実際手持ち花火でもやってみると意外と面白いもので、キャッキャウフフしながら楽しんでいる様子が伺えた。


「先輩。線香花火しませんか?」


 消火係になっていた真木を見つけて、ほのかが誘う。


 差し出された花火を慎重に持ちながら火を点けると、ジジっと音を立てて丸くなり、やがて細かい火花が飛び散る。


「あ」と彼の声に目を向けると、赤い塊は地面に落ちていく。間もなくしてほのかの線香花火も同じように消えてしまった。

 あんなに小さな火だったのに、いざそれが消えてみると寂しさを感じるものだ。


「よく歌なんかでも喩えられますが、楽しい時間は花火みたいなものですね。後になって名残惜しんだり、華やかな思い出として思い出したりして。なんだか今がまるでずっと続くみたいに思えるけど、そうじゃないんですよね」

「『永遠の感覚』って奴だな」

「高村光太郎ではないですが、こう……心を揺さぶられるものを見ると、少し哲学的な考えをしてしまうのは何なんでしょうね」


 そう言って彼にもう一本差し出されたものを受け取ると、火を点けてからやがてそれが落ちていく様を見届けた。


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