56話
翌朝ほのかの家に泊った莉子は言っていた通り、真木と会うことになった。駅前にあるファミレスで待ち合せをしてランチを一緒に食べる予定をしていたのだが、莉子はちょっと買いたいものがあるからと後で合流することになった。
莉子がどこかに行ってすぐに真木がやってくる。
「あれ、ほのかひとりなの? 友だちも一緒って言ってなかったっけ?」
「あ、先輩。わざわざ駅まで来てもらってすみません。莉子……友だちは何か買いたいものがあるから先に店に入っててくれって」
仕方ないので先に店内に入って、とりあえずドリンクだけ注文すると、それが運ばれてくる頃に莉子が戻ってきた。
4人掛けのブーステーブルだったので、ほのかの横に滑り込むようにして彼女が座った。そして真木を見て会釈して見せる。
「はじめまして! 赤井莉子と申します」
「どうも、真木悠介です」
「わざわざここまでお越しくださってありがとうございます」
「いえ、それより今ほのかから聞いたけど、昨日は楽しかったみたいで良かった」
共通の話題などないので気まずくならないか心配したが、話し上手な莉子はそんなこと微塵も感じさせず、滑らかに話題を次から次へと運んでいく。
こういったところは見習いたいものだ。
「でもよかった。この子がぱんつ一枚で見ず知らずの人の家に泊ったって聞かされた時はどうしようかと思ったので……。しかも免許証まで失くしたとかいうから、正直変な人だったらどうしようかと最初思ったんです。でもそれが真木さんで、安心しました」
「あの時は流石に俺も焦ったので」
――いやぁー!!!! やめてー!
もうすぐ1年前の出来事になろうとしているほのかの黒歴史を掘り起こされて、羞恥心で押しつぶされそうになるが、考えてみればあの一件がなければ今日もただの上司と部下という関係だけだったかもしれない。
3人は昼食を摂り終わり、ファミレスを後にすると莉子は「またね」と言ってふたりと別れようとした。
「あ、そうだった!」
行こうとした矢先、手に持っていた紙袋をほのかに手渡す。
「これは私からプレゼント。ふたりで一緒に使ってね」
そう言ってピンクのラッピングを見せる。
「それから、もうひとつの方も私のお勧めのを入れといたから」
「え、これ買いに行ってくれてたの? わざわざありがとう莉子!」
「ありがとうございます」
そういって荷物を受け取ると、莉子はじゃぁねと踵を返して人ごみの中に消えていった。
「いい友だちだな」
「はい! 先輩も会ってくれてありがとうございました」
ふたりは自然な流れで真木の家に向かった。電車で一駅。家に向かう道すがら、後で何か映画でも見ようと話しをすると、あっという間に彼の家に着いた。
荷物を置きながら、折角なので莉子にもらった袋を開けることにする。
手さげの紙袋の中には、更にラッピングされた2つの袋が入っていた。ひとつ目をとって開封すると、莉子お勧めの入浴剤がいくつも入っていた。中には泡ぶろになるタイプのものもあって「一緒に使って」という莉子の言葉が悪魔的な響きに聞こえた。
「ほのかの友だちの赤井さんって気が利くな」
そう言いながら、もうひとつの方の袋を開封していた真木がさっと取り出して見せた。
ぱっと取り出したるは黒っぽい箱と、何かのチューブ。
「それは何ですか?」
「コンドームとローション」
「!!!!!!!!!?(●ω●;) 」
びっくりしすぎて言葉にならなかった。今まで目にしたことのないものが自分に突きつけられていて、あの子は何を考えてるのかと叫びたくなる。
そしてお勧めと言っていたのは、は“お勧めのラブグッズ”のことだったのかと改めて認識した。
「じゃぁ折角だし風呂入れよう」
「風呂って一緒に入るんですか!?」
口をわなわなと震わせながら真木の袖を引っ張る。
「映画見終わる頃に溜まるように設定しとくから、心の準備をするように」
――どうしよう! 逃げたい!!




