51話
16時になる前に待ち合わせの場所に着くと、少し早すぎたかと時計を見る。クリスマスともあってカップルの数が多いのは気のせいではないだろう。
電光掲示板で彼が乗ってきそうな電車を確認しながら辺りをきょろきょろしていると、ちょうど構内からこちらに向かって歩いてくるところだった。
「待った?」
「30秒待ちました」
「ではお詫びに夕食を御馳走させてください」
奢られることに慣れていので、そう言われてもさもありなんと素直に好意を受けづらい。「ワリカンでお願いします!」というのも変だし、「ではお言葉に甘えて」と言うのも厚かましい気がしてしまう。
「では……その後でバーに行きましょう。そこは私めが御馳走します」
「ジャズバーがいい」
「了解です」
話しをしながらふたりはデパートの中に入に吸い込まれる人の群れの中に混ざって同じように店内に流れていく。
◆◆◆
「先輩は何が欲しいですか?」
「は? 何の話し?」
仕事の合間の昼休憩中にほのかが真木に訊いた。何の前情報も無く「何が欲しい」と訊かれても何を指しているのか全く掴めなかった真木は怪訝な顔で質問主を見る。
「もうすぐクリスマスなのですが、サプライズで闇雲に何かプレゼントするよりも本当に欲しがっている物をプレゼントした方が効率いいじゃないですか」
「お前の意見にしては尤もだな」
ひとこと多いが、それならいっしょに買い物に行こうという約束になった。
「それならお前も何か欲しいもの決めとけよ」と言われたので暫く悩んだ挙句、これがというモノをピックアップしておいた。
◆◆◆
「先輩は何が欲しいか決めてきましたか?」
エントランスを抜けて人の流れに乗りながら、何階に行くか決めなければならない。
「俺のは雑貨だけど、ほのかが欲しいのを先に見に行こう」
「私のは……このまま1階ですね」
1階はいわゆる高級ブランド店が軒を連ねているので、この時期最も人が多い場所となっていた。その中で人の波に乗りながら移動するが、ふたりが足を止めたのは比較的人だかりが少ないところだった。
「これ?」
「そうです! 質感も試したかったので、オンラインでは買いづらくって」
店員と少し離して一番気になっていたパーカーのペンを試し書きさせてもらう。
手にしてみて最初に思ったことは、ずしりと重いそれは今まで手にしてきたペンとはまるで印象が違う。書き味も好みで、ペンを滑らせば綺麗にインクが伸びた。
色はシルバーを基調にしていたが、その中でもホワイト、ブラック、ピンクの3種類があり、ほのかはピンクを選んだ。
「これでいいの?」
「はい。これがいいです」
真木は分かったと頷き、「じゃぁ、これのピンクとブラックを1本ずつお願いします。すみませんが、支払いは別で」と店員に告げた。
店員は「かしこまりました」と頷き、早速梱包作業を始める。
「え!? 先輩もこれにするんですか?」
「お揃いとかバカっぽいところもいいかなって思った」
バカっぽい。確かにバカみたいだが、悪くはないなとも思った。
店員が戻ってくると商品を確認し、真木はほのかに、そしてほのかは彼の分を支払った。自分で自分の分を買っても何ら変わりはないのだが、”プレゼント”という事実が大事なのだ。
「もともとは何が欲しかったんですか?」
「年末だし、手帳が欲しいと思ってた」
そういう現実的なところは如何にも真木っぽいなと思った。……というかそれはクリスマスのプレゼントではなく、ただの買い物なのではいか。
しかし折角いいペンを買ったので、この際手帳も買うことにしたが、ここでもやっぱりお揃いの色違いを買うことにした。
ふたりして色違いの全く同じ商品を持って喜んでいるなんて、つくづくバカで幸せ者だ。




