43話
新横浜駅で下車してから更に在来線で15分の所にその会社はあり、その内装はカラフルで主に年齢層の低い顧客にフォーカスを絞っているのが伺える。
会議室でミーティングアプリを起動してオフィスのチーフと繋げば準備完了だ。
だが約束の時間になってもチーフがログインする気配がない。先方も準備を終わらせ、こちらの準備だけが終わらないとなると申し訳が立たず、痺れを切らしたほのかは彼のデスクの電話に直接コールして呼び出そうとした。
「はい。西浦クリエート、ウェブデザイン部です」と外線を取る声が受話器の向こうから聞こえたが、その声は紛れもなく真木のものだった。
「山崎です。岡本チーフはそちらに見えますか? もうミーティングの時間なのですが、ログインされていないようなので……」
焦ったようにほのかが訴えると、電話の向こう側から言いにくそうに「まだ前の会議が終わってなくて戻ってきてないんだ」と言う。
それを聞き、一瞬頭が真っ白になってどうしたらいいのか分からなくなったが、時間は止まってくれない。停止しかけた思考を無理やりフル回転させて、今自分が何をやるべきか考えた。
「山崎、俺が何とか代役を務めるから、このままチャットルームを繋いでろ。だけど、アジェンダの分からない部分はフォローを頼む」
「分かりました。それでは準備が整い次第ログインをお願いします」
そう言って電話を切って間もなく、セットアップしたタブレットに真木の画像が流れた。
「大変お待たせいたしました。ウェブデザイン部チーフの岡本に変りまして真木が出席させていただきます」
それを見た中川は一瞬驚いた後心配そうな表情になったが、当然「お前で大丈夫なのか」とは声に出さず、平然を装いながら会議を始めた。
会議で主に話されることはウェブサイトの①コンセプトと、②納期、そして③コストについてだ。そして②、③に関しては営業部から説明されるつもりでいたが、コンセプトについてはチーフから話されるはずであった。
チーフを待つにも、いきなり納期や値段を提示するのは不躾すぎる。否応なしにほのかメインでその話しを進行させなくてはいけないのは明白であった。
「それではこちらはわたくし、山崎から説明させていただきます。御社では10代、20代をターゲットに絞り、プチプラコスメからワンランク上の製品のラインナップは私自身も拝見させていただきました。……というか、私も愛用しているものもいくつかございました」
すると先方からも「ありがとうございます」と笑顔で返され、少しは場が和む。そして一呼吸置いてからまた話しを進めていく。
「そこでこちらからもいくつかお伺い頂きたいのですが、ウェブサイトをリニューアルする上でどのようなデザインで構成をしたいなど、ご希望はございますか」
先方からの要望をパソコンに入力していき、色やフォントに至るまで可能な限り煮詰めていく。
「で、このデザインを担当してくれるのは誰になるの?」
取引相手の中でも一番の年配の者が質問してきた。見た感部長か何かの役員なのか、50代半ば頃のように伺える。その男は会議開始早々に「IT関連のことはよく分からない」と言っていたので、少し骨が折れそうかも知れないとロックオンしていたが、その人がようやく口を開いた。
言葉選びを間違えないように話していく。
「わたくしが担当することになるかと思います。よろしくお願いいたします」
「君が? 若く見えるけど、今入社してどれぐらいなの?」
――お、経歴でジャッジするタイプかな?
「今年の4月から入社したばかりですが、現在では私がメインでデザインを手がけたものも満足頂いております。御社の顔を作るという大切な作業ですので、不安を持たれるのはお察し致しますが、御社の希望に沿ったものをデザインさせていただきますので、どうかご安心ください」
とは言ったものの、先方の男はかなり怪訝な顔つきでこちらを見ている。そしてスクリーンに映った真木を見て「君にお願いできない?」と訊いてくる。
だがスケジュールが詰まった真木に、新たにプロジェクトを差し込む余裕など作れるわけもなく、「それは……」とほのかが言いかける。
だが、スクリーンの中の男は「かしこまりました」と二つ返事を返した。そしてこう続ける。
「わたくしの名前でプロジェクトを進めましょう」
そう折れるしかなかった。
その後納期と費用の話しを中川から説明するために、進行役をほのかからテイクオーバーした。
そうして何とか無事にミーティングが終了した。3人がようやく一息つけたのは、新横浜の駅に戻る途中のタクシーの中だった。
「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、助かったな。」
一番緊張していたのは、この企画を取りしきっていた中川なのは言わずもがな分かった。タクシーに乗り込んだ途端、ネクタイを緩めて気持ちを落ち着かせていた。
「先輩と、真木さんは同期なんですよね。あの人そんなに仕事出来るんですか?」
「あぁ、悠介? アイツは優秀だよ。仕事は早いし、マルチスキルだし、それに他の部署の流れも考えながら動くから仕事やりやすいんだよな」
自分の彼氏である以前に上司が褒められるのは何となく誇らしいものだ。ほのかはひとり助手席に座り、ふたりに気づかれないようにはにかむ頬をぺしっと押さえた。




