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恋愛初心者、恋をする  作者: 織田 智
恋愛初心者
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3話

「これ、先月クラブに行って失くしたとばかり思ってました。なのに何で先輩が持ってて、今私の元にそれが返ってきたんですか? 軽くホラーです!」


 免許書を印籠のように差し出して、真木がなぜこれを持っていたのか問う。

 すると、真木は呆れたような顔で椅子に座ったままふんぞり返ってほのかを見上げた。


「先ず、アンタがクラブに行ったのかは知らないけど、その日俺はひとりでバーで飲んでたら、アンタが声を掛けてきたんだろ? 相当酔ってたから関わり合いになる前に帰ろうと思ったけど、自分の身の上話をするだけして俺の席で酔いつぶれて寝ちゃったから、仕方なく家に連れて帰ったんだけど」


 ——え? マ? いや、確かにテキーラを飲んでから記憶がぶっ飛んだ。ぶっ飛んだ後にそんなことになってんの? 何やってんの私!


 確かに記憶はない。記憶はないが、何だか自分が相当迷惑をかけた事になっている。


「アンタが強引に連れ込まれたとか言われないように、一応保身の為にムービー撮ってあるけど、見る?」


 真木のスマホのスクリーンから、酔った自分が映し出された。そして「西浦クリエートに内定もらったから、4月から新入社員なんです」と暴露していた。


 更に真木は家に帰ってからも潔白証明のためのムービーを撮った後眠ったらしいが、どうやら最初はリビングのソファーでほのかを寝かせたらしい。だが、明け方ベッドに潜り込んできたかと思ったら、あとは自分の知るところだった。

 

「その……先輩とは何も無かったですよね?」

「『何も』とは?」


 言いにくそうに口籠ったが、「だって服が……」と、小声でその時の状況をかい摘んで説明した。


「なに? お前脱いでたの?」


 「引くわー」とでも言いたげな顔でほのかを見る真木。失言をしたことによって目を逸らすしかないほのか。

暫く無言が続いた。


 その後話を聞くに、免許証はつい先日ベッドの下から発掘したらしいが、会社名をバカのように公表していたので警察署に届けず、社で返そうとして今に至ったとの事だ。


 それが自分の部下とは情け無い限りだが。


「本当に、申し訳ないです。いや、何をして償ったらいいか……」

「償いは仕事できっちりしてもらう。鬼のごとくこき使ってやるから、安心して後悔しながら反省してろ」

「あ……安心なんか出来ません」


 もうすでに真木の言葉通り、ほのかは後悔しながら反省をする。頭痛が激痛で痛くて、落胆してがっかりして肩を落とす勢いだ。


 ——なんかもう、明日からの仕事が嫌になったんだけど……。なんで、上司に私の裸体を晒してんのよ! ふざけんじゃねー自分!!


 頭はぐるぐる、ぐちゃぐちゃになってはいたものの、仕事はきちんとする。セクハラ前科持ちの上に仕事まで出来ないとなれば、本当に自分が嫌いになりそうだった。


 それだけは避けるために、課題にだされていたソフトウェアの勉強を必死でした。






 翌朝、昨日真木から渡された資料に目を通すために早く出社した。コアタイムは11時から15時なので大抵の人は8時から10時の間に出社する。


 現在7時前。まだ誰もいないオフィス。

 本日入社2日目。机には既に「見ておけ」と付箋が貼られたUSBディスクが3本置かれていた。


「鬼」


 ぼそっと呟いてから、PCの電源を入れた。そして①と書かれたスティックをPCに差し込んで、保存されていたドキュメントファイルを読む。


 ファイルのタイトルも『①』だったので分かりやすい。クリックして、書かれた文字をスクリーンに広げた。


 “俺が担当になって悪かったな。自分でも自分が教育係には向いていないのは自覚しているが、採用の際に提出された山崎のポートフォリオがすごく良かったから、デザイン部門に無理を言ってウェブデザイン部門に異動もらうように言った。もし2週間やってみて、無理そうなら元の部署に戻るように人事に言うから伝えてほしい。あと、先月のことはそこまで気にしなくていい。”


「先輩、私に口で言えないからって、こんな形で私にメッセージを残してくれていたなんて……」


 ——ヤバい。変な人すぎる。てか、口で直接言いなさいよ。言えないからメッセ―ジでなら伝えられる? 歌詞かな? しかもわざわざこんなファイルに入れて? それってなんだかさ……。



「真木先輩って拗らせてるよね」


 まだ誰もいないオフィスにほのかの声が響いた。

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