36話
「チームの完走と、山崎さんの成長にかんぱーい」
チーフの音頭で夕方早々に始まった宴会。見事に閑散とした個室居酒屋で集まったチーム6人で乾杯していた。
差し出されたビールを一気に煽って、そのジョッキをガンっと机に叩きつける。
そして何かを決心したようにほのかがみんなに伝えたかったことを口にした。
「今回のプロジェクトのメインに私を選んでくれてありがとうございました。……みんなの期待には添えなかったけど、仕上がった時は本当に嬉しかった」
みんなが彼女の方を一斉に見る。相変わらず厳しそうな顔をして、眉間に皺を寄せていた。
「ほのかちゃん……泣いてもいいよ」
三國にそっと言われて少しウルっとしそうになるが、握っていたビールジョッキに更に力を込めて再度口を開いた。
「腹立つ……ほんと私たちの仕事舐めてんのかと思いました。なんだよ、社内でちゃんと連絡共有しておけよ!!!! お陰で1週間棒に振ったじゃん!!!! こちだって暇じゃねぇーくぁwせdrftgyふじこlp」
散々荒ぶった後、落ち着きを取り戻したほのかの眉間の皺はすっかり綺麗に伸ばされていた。
いい感じの時間になる頃には連日徹夜が響いて酔った勢いで疲れも一緒に開放されてしまい、うとうと居眠りを始めてしまう。
「山崎さんもこんなだし、今日はもう解散しようか」
チーフがそういうと、みんなもそろそろと帰る準備を始めた。
「おい、帰るぞ」
真木が座った姿勢のまま俯いていたほのかの鼻をむにっとつまんで起こすと、「ふぁ」と情けない声を出して目を覚ます。
「え、寝ちゃってました!?」
「ほんの数分だけだから」
急いで立ち上がると、少し足元がふらついた。それを真木が抱き留めて支えると、どうしようもなく恥ずかしくなる。
「はい、そこ。いちゃいちゃしてないで帰るよ」
チーフが他のメンバーを先に行かせ、チーフがふたりを待っていると案の定ひっついていた。
「いや、誤解です!」
恥ずかしくて否定するが、何の説得力も持たなかった。
支払いを済ませ店の前で二軒目に行くかどうか話していたが、ほのかはさすがに眠気の限界がすぐそこまで迫っていたので、タクシーを拾って帰ることにする。
「じゃぁ、僕たちはまだ適当に飲んでるから、山崎さんをちゃんと送っていってあげて」
「言われなくても分かってますから」
真木はチーフが飛ばしてくるウインクを鬱陶しく思いながらも、ほのかをタクシーに詰め込んで自分も乗り込んだ。
首都高速へ向かって車を走らせてもらう。
「おい、住所は?」
真木がほのかを見ると既に眠りの中に落ちていた。幸せそうに眠る彼女を見て、あきれたため息をつき、運転手に自分の家の住所を告げた。
このパターンはもう3回目だ。自分の肩に頭を乗せて眠る顔を見て真木からも少し微笑みがこぼれる。




