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恋愛初心者、恋をする  作者: 織田 智
恋人初心者
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34話

「はっ!」


 自宅の机に伏したまま寝てしまったようで、木曜の明け方目を覚ました。


 PCのマウスを動かすと、スクリーンがパッと点いて昨日の作業の進捗を確認する。総数32ページ。その中の数ページは他のチームメイトがサポートして作成したが、ほのかにとって大きな2週間にようやく終わりが見えてきた。


 ベランダを開けると白んだばかりの東京の空が、ビルの隙間から少しだけ見える。その空に向かって「よっしゃー!」とガッツポーズをした。


 暦は9月に変ったものの、昼間は相変わらず蒸し暑い。熱せられ始めたコンクリートジャングルを踏み分けて、10時前に出社した。

 出社するなりチーフの席に真っ先に向かい、最後の確認をしてもらう。


「岡本チーフ、終わりました。明日のプレゼンには万全で臨めます!」


 颯爽と鞄から取り出したポータブルHDDを差し出して、自信満々に言った。

 チーフはというと、「お疲れ様」と言って受け取った後、すぐさまそれを確認する。


 進捗は毎日報告してあったので、細かい部分の確認は済んでいた。再度見直しと、抜けているページが無いか確認し終わると、チーフからすぐにオッケーのサインが来た。


 もう一度小さくガッツポーズをしてみる。


「ヤマは終わりましたー。あとは先方の担当さんに連絡を取って、明日の14時からプレゼンをして終わりです」

 由香里や三國も「お疲れー」と言って明日のプレゼンを全力で応援した。西浦クリエイトのデザインが選ばれるかどうかは分からないが、ここまでやったのだ。ほのかの喜びははひとしおだった。


 この2週間残業が溜まりに溜まっていたので、15時に帰れと言われたので早々に帰宅して明日に備えることにする。





 翌朝営業部の2名と、岡本チーフ、そしてほのかの4人は株式会社デルタオーシャンの前に来ていた。営業部の担当の内ひとりは和秀と、彼の先輩部員と一緒について来ていたようだった。和秀を連れているのは中川という真木と同期の先輩だった。


 そして今日はこの中川がメインでプレゼンされる予定だ。


 ビルの前に立ち、そびえるその大きな建物を見上げた。とてもではないが、その全貌を捉えることはできず、思わず「はぁぁ」とため息が出るばかりだ。


 そんな大企業に赴いた4人はいつもカジュアルな服装でも、今日ばかりはフォーマルな格好をしているせいで、より緊張感が高まる。


 14時10分前。広いエントランスの中にある受付の前に立つとその日に面会の予約を取った者だと中川が告げた。だが、受付でアポイントメントを確認すると、受付の女性がスクリーンに向かって少し怪訝な顔をしたのが見えた。


「すみません、こちらにはアポが入ってきていないようなのですが、担当の者に直接連絡を取りますね」


 少し不穏な空気が流れる。


 

 どういうことなのかと誰もが疑問に思ったが、その場にいる誰もその問いに答えることはできない。


 待たされること20分、ようやく担当していた広報の廣島と名乗る女性と、企画部の男が玄関先まで降りて来た。廣島はほのかと連絡をこまめにとっていた相手だったので、彼女は少し親近感を覚えた。


 当然そこにいる全員が、そのよそよそしい雰囲気を感じ取って訝しんだ。正直、指定の時間通りに来て、アポが取れていないことについて一刻も早く説明してほしいと思っている。


「何かあったのでしょうか。ご都合が悪いようでしたら、日を改めますが……」


 真っ先に口を開いたのは中川だった。


「あの……申し訳ありません!!」


 次に口を開いたのは廣島だった。

 彼女の大きな声が玄関ホールに反響する。


「実は企画部の方でもう既に依頼する企業が決まっていたようなのです。先方ともその……契約を既に交わした状態でして……(ひとえ)に私共の情報共有が出来ておらず、御社にご迷惑をおかけしました」



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