32話
「コンペ用のプレゼンテーションですか?」
夏も終わりに近づいたころチーム全員がチーフの元に集まっていた。
「株式会社デルタオーシャンっていう、国内のリゾートホテルの会社なんだ。中規模ウェブサイトになるから、ページ数もそこそこになるんだよね」
話しを聞くに、クライアント側は複数のウェブ制作会社に仕事の見積もりを出していて、その中から金額、デザイン等の面からベストの物をピックアップするようだった。
依頼を受けられれば大きいが、選ばれなければ複数のデザインにかけた時間分損失になる。そこで新人ながら、ほのかに白羽の矢が立ったのだ。
というのも先輩3人は既に大きなプロジェクトを複数件抱えていて、そちらを最優先にしているためスケジュール管理が難しい。
チーフも当然そんな時間は取れない。
由香里はウェブサイトのデザインよりもウェブ広告のデザインを中心に制作しているので、ウェブサイトのデザインについてはほのかより経験が浅かった。
「そんなことで、山崎さんやってもらえるかな? 納期は2週間後で、納品の際にはクライアント側に一緒に出向いてもらいたいんだ。もちろんプレゼンは僕がするけど……どう?」
ほのかの緊張が一気に高まった。今までに受けたことが無い大きな案件となる。扱う金額も相当のものなので、大きなプレッシャーを感じた。
「やります。必ずいいデザインを作ってみせます!」
チーフは緊張したほのかの顔を見てから、真木の顔を見た。
「僕もサポートに入れるときは入るけど、真木くんもサポートしてあげて。山崎さんもそんなに緊張しなくても大丈夫だよ。要領はいつもの通りだからさ」
流石チーフはメンタル面のケアを忘れない。
「じゃぁ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
コーヒーを淹れてから席に戻ると、先ずチームで管理しているカレンダーを開いた。
チーフが既に『山崎』と書かれた欄に2週間先まで色を塗りつぶして、9月の半ば頃まで予定を入れていた。
他にも平行して1件仕事があったが、それは自動的に直属上司である真木に振り分けられている。部全体を巻き込んでのプロジェクトであるため、ミスはできない。
「大丈夫だよ、山崎さん。これは部のプロジェクトであって君個人の仕事じゃないんだ。それに受注済みじゃなくて、あくまでコンペだからもっと肩の力抜いていいよ」
「岡本チーフ……そうですね、ありがとうございます」
そしてチーフからUSBメモリスティックをひとつ手渡された。
「先方の資料。今営業部が持ってきた時に言ってたんだけど、かなり量多いらしいけど……大丈夫?」
「了解です。確認してみます」
手渡されたそれを開いてみると、膨大な資料が入っていた。
どうやら営業部が先方から手渡された資料をそのまま横に流したもののようで、使えるものも要らない物も十把一絡げになっていて、かなり骨が折れそうである。
とりあえず先方が要りそうな情報、求めていそうなデザイン、コンセプトを考える。
その後メインページを始め、企業情報紹介ページや、関連情報を載せる場所など、ざっと見積もって30ページのデザインとなる。
ほのかの戦いの2週間が始まった。




