27話
熱海に着いたチーム員はバスから降りると、すぐそばから心地よい潮騒が聞こえてきた。男性社員の何人かは「ウェミダー!!!!」と言いながら、子どものようにはしゃいでいる。
ほのかも持ってきた小さなバッグを持って、会社から乗ってきたチャーターバスから降りた。
以前に一度冬の熱海には来たことがあったが、夏のさんさんとした太陽に照らされるこの土地は初めてで、海を見ながらおもわず「うわぁ」とはにかんだ。
普段オフィスではパンツしか履かないほのかだったが、今日はマキシ丈のスカート姿で気分も完全にホリデーモードになっていた。
同期の由香里や先輩女子社員の三國と写真を撮ったり、キャッキャウフフしたりした後に案内された部屋に入った。
通された部屋は海が見える日あたりの良い部屋だった。老舗の旅館と聞いていたので内装は古くなっているかと思ったが、数年前に館内を改装したらしくモダンな造りになっていた。
「ほのかちゃんってモデル体系だよね」
水着を身に着けて海に行く準備をしている時に由香里が話しかけてきた。ほのかが着ていたのはビキニタイプのものではなく、クラシックスタイルのワンピース水着だった。背中が大きく開いたそれはなかなか攻めのものだった。
「何言ってんの、由香里ちゃん!」
思わず手に持っていた服をさっと着る。
「ほう、見せたい相手でもいたの?」
悪乗りして三國も話しに混ざってきた。
「エンジニアの飯塚君でしょ?」
「いや、好きだった時もありますけど今は本当にただの友だちだよ」
「じゃぁ真木さん?」
三國にそう言われ「え……」と肯定とも否定とも言えない返事をしてしまった。それが却って引くぐらい無いと捉えられたようだった。
「そうよね、彼はないわ。暗いし、変わってるし」
やはり自分より長く真木を見てきた先輩も、彼に対する評価は安定の変わり者だった。
旅館から徒歩で行ける海水浴場には既に色とりどりのビーチパラソルが建てられて、それだけで楽しませてくれる。
宿泊先の旅館がパラソルを用意してくれてあったので、早速その日陰に滑り込んだ。
隣のパラソルには岡本チーフと真木が腰を下ろしたが、チーフはみんなの写真を撮りに直ぐにその場を離れた。
「先輩、やっぱり泳がないんですか?」
「泳がないな」
そう言いながら彼は鞄から本を取り出すと、横になってそれを読み始めた。ほのかも密閉袋に入れたスマホを取り出すと、うつぶせになって電子書籍を読み始めた。
海で泳ぐのも楽しいが、こうやって海の音を聞きながら本を読むのが一番好きだった。
「お前は泳がなくていいのか?」
目線を本に向けたまま真木が尋ねる。そう言われてほのかは確かにみんなで来ている時まで本に没頭する必要はないなと思い、持っていたスマホをビーチバッグにしまった。
そして海岸を一度見た後、隣で本を読んでいる男を見て「じゃぁ、はい」と言って手を差し出した。
「何?」
「先輩も行きましょう」
「何で?」
「だって岡本チーフが呼んでますよ。集合写真撮るって……」
そう言うと「ちっ」と舌打ちが聞こえてきたので、強引に腕を引っ張ってパラソルから引っこ抜いた。ほのかに半ば強引に連れられて来る姿を見て、チームメイトのうちの何人かはふたりが上司と部下以上の関係ではないかと勘ぐった。




