25話
天気予報の通り、昼前には雨が止んだ。空には台風一過の青空が、千切れた雲の間から見えていた。
12時前に出社すると半数の社員は明日に振り替えるため、今日は休暇を取っているようだった。いつもよりもまばらなオフィスで、ほのかと真木は並んで仕事をしていた。
流石に日が伸びたと言えど、7時半にもなると辺りはすっかり暗くなった。残っている社員もほんの数人になり、残っていたチーフも「ふたりはまだやって帰るの?」と訊いてきた。
「納期が月曜なので、もう少しやってから帰ります」
ほのかがそう返事をすると、チーフは「お疲れさん」と言って先に帰っていく。
それから暫くふたり無言で作業をしていたが、そのうちに真木も鞄を持って席を立った。間もなく階段を降りる姿がガラス戸越しから見えなくなった。
――何!? 気まずいからって、帰るなら何か言って帰りなさいよ……。
ひとり残されたほのかは、ようやくデザインの総仕上げをして片づけることができた。後は週明けに上司である真木と、チーフのふたりから確認をもらって、クライアントに納品するだけだ。
うーんと大きな伸びをひとつして、時計を確認した。
「もう10時かぁ」
ひとりぼやいていると、ヒタッと頬に冷たい物が触れた。
「ひやっ!」
振り返ると真木がいる。
「お疲れさん」と差し出された物を見ると、アイスラテが彼の手から差し出されていた。
「え!? 買いに行ってくれてたんですか? 嬉しいです!」
受け取ったコーヒーを飲むと疲れが少し取れた気がした。そしてそれを飲みながら、「そうだ」と完成したばかりのデザインを見せて、彼の確認を取った。
「どうですか? Goですか?」
にやにやと嬉しそうにスクリーンを真木の方に少し傾けて見せる。仕事用の眼鏡をしていなかった真木は少し食い入るように画面に近づいて細かい部分を確認した。
その間ハラハラしながらほのかも同じように見入る。
そして彼は「うーん、まぁそうだな。オッケーかな」と言って少し微笑んだ。
緊張が溶けて「はあ」とひとつ大きなため息を着くと、「ありがとうございました」と真木の方を見た。立ったまま腰をかがめている真木と、椅子に座っているほのかの目線が合うと、心臓がひとつ大きく跳ね上がる。その一瞬の時間がとても長く感じられた。
相変わらず目の前の男は動揺してそうな顔を全く見せない。そのくせにほのかの頭を優しく撫でると、その指先は彼女の頬を流れ、やがて細い顎をくいっと持ち上げる。そしてそうすることが当たり前かのように、彼女のふっくらとした唇に彼のそれを重ねてきた。
かくいうほのかも、全く抵抗することなくそれを素直に受け入れ、静かに目を閉じた。




