24話
次に目が覚めると8時を回っていた。寝過ごしたかと思って飛び起きたが、そう言えば半休になったのだと思い出した。
明け方一緒に眠っていた真木の姿が見えない。
「お……おはようございます」
そろりと寝室のドアを開けてリビングを見ると、コーヒーを読みながらタブレットで何かを読んでいた。
——この光景、デジャブ!
寝室のドアが開いたのに気づいて、タブレットからこちらの方に目を向けると「よく寝られたか?」と訊いてきた。
「お陰様で眠れました」
どんな顔をすればいいのか分からず、ほのかは目を泳がせる。対して彼は「コーヒー飲むよな?」と自然に訪ねてくる始末。やっぱり経験値の差を思い知らされる。「ありがとうございます」と言って返事をするが、それ以上の会話が続かない。
起き抜けにどんな会話をしていいのかも分からず、逃げるように洗面所に向かって顔を洗う。わざと冷たい水で顔を洗って気持ちだけでも落ち着かせた。
「今日社が休みになったの、メールで見たか?」
洗面所から戻ったほのかに真木が言う。仕事の話しをされると逃げ道が出来たみたいで落ち着いた。
「はい、午前中は自宅待機とのメールが部長からきたのは確認しました」
「今日が金曜だから、このまま週末だけど……今受けてるクライアントのデザイン提出って、月曜じゃなかったか?」
「あうっ……確かに。これじゃぁ必要とあらば明日埋め合わせ出勤ですね」
ほのかの為に淹れたコーヒーをテーブルに置くと、またダイニングテーブルの向かいの席に着いた。
―—気まずい……。
「昼出勤なんで、私コーヒーを頂いたらお暇しますね」
「そうだな、服は乾燥機に入れて乾いてるけど、靴はどうにもならんからな」
電車も今朝は始発から動いているようだった。スマホの天気予報でも昼から晴れ間が見えるとのことだったので、ここに長居する理由はなかった。
最初は気まずくて仕方なかったが、手の中の空になったカップを見ると少しもの淋しくなる。使った食器を洗ったら、昨日の服に着替えた。乾燥機に入れられなかったデニムパンツは生乾きで、何よりスニーカーは洗いたてのように濡れたままだった。当然気持ち悪いが、20分間家に帰るまでの我慢だ。
「悪いな。車があれば送って行けたんだけど……そんな格好で大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ない。それにこれ以上ご迷惑かけられません……ありがとうございました」
ほのかが振り返って真木に礼を言うと、彼は頭をがりがりと掻きながら「おう」とだけ言った。
「では後ほど会社で……」
そうして静かに扉を閉めた。
◆◆◆
ほのかが出ていった後取り残された真木はその場にぺたりとしゃがみ込んで、また頭をガシガシと掻く。彼女が出ていく際に思わず髪を撫でようとしてしまったやり場のない手だ。
差し出した手を咄嗟に自分の頭に当てがって誤魔化したが、思わず撫でたくなった気持ちまでは誤魔化しきれなかった。




