23話
ほのかの唇に柔らかいものが触れ、その瞬間びりっと甘い痺れが走った。そのくすぐったいような感覚に、思わず「んっ」と息が漏れてしまう。
ほのかのふっくらとした唇が真木のそれに包まれると、だんだんとどうしていいか分からなくなってきた。
一生懸命それに応えようとするが経験値が圧倒的に足りなさ過ぎて、唇の間を割って入ってきた舌に太刀打ちできずにいた。
停電で空調の効かない部屋は次第に蒸し暑くなり始め、密着している肌がじんわりと汗ばむ。ふたりの混ざりあった息がより激しさを増し、真木はほのかの頭の中を混乱させる。
――げ、限界だー!!
「ダメー! 限界です!」
掴んでいた真木の肩を思いっきり押すと、恥ずかしさが込みあがってきて顔をまともに見られない。
あまつさえ感情が高ぶりすぎて涙まで出てくる始末。
「キ……キスも初めてなので、恥ずかしくて死にそうです」
「そうだったのか……ごめん」
真っ暗な部屋の中にも関わらず、顔を抑えて真っ赤な顔を必死に隠す。
「嫌だった?」
顔を覆っている手に真木の手が重なる。ちらりと彼の顔を見ると何となく寂しがっている犬に見えて、それが何だか愛おしく思えた。
「嫌じゃないから腹が立ちます。もしまた先輩と同じ展開になっても、嫌だってならないのが嫌です」
真木はほのかの髪を手櫛で掬い、乾ききれていない髪に口づける。そしてもう一度しっかりとほのかを抱きしめると、ゆっくりと唇同士が触れ合う。
ほのかもそれに抗うことはなく、ゆっくりを目を閉じるのだった。
◇◆◇
目を開けると、辺りは既に明るくなり始めていた。夜中の間に電気は復活し、空調機を点けてあったので汗ばむこともない。だが窓を打ち付ける雨や風は昨日と同じように猛威を振るっている。
薄い掛け布団一枚を被った状態で目が覚めたほのかは慣れない感触に直ぐに気づいた。頭の下には腕が敷かれ、背中はぴったりとくっついてTシャツ越しでもその存在がよく感じられた。知った顔がそこにあるのを振り返って見ると、静かに微笑むのだった。
そうだと思いつき、スマホのスクリーンを確認する。社から「暴風警報のため、午前中は自宅待機命令」との文言をメールで確認すると、画面をオフにして心地よくのしかかる腕を更に抱き寄せてもう一度目を閉じる。
後頭部にちゅっという音が響き、髪に口づけられるとまた昨夜の事を思い出してしまう。
昨夜何度も口づけをした後に、突如パッと電気が戻りほのかは恥ずか死にそうになった。そんなほのかを見て真木が今度は額に唇を当てて、なだめるようなキスをした。
そして「もう寝よう」と言われ、「じゃぁ、私がソファーで寝ます」と返す。すると、「何もしないからベッドで寝よう」という流れになったのだ。
横になった時こそどうしようもなくどきどきしていたが、暫くすると仕事の疲れもあって眠ってしまっていた。隣で眠っている真木も言った通り何もしてはこなかったが、いつの間にか腕枕をされていた。
——これじゃぁまるで恋人同士じゃない……。




