15話
映画館を出ると周りは薄暗くなり始めていた。
「あー。結構いい映画でしたね。私ああいうエンディング好きなんです」
――嘘だけど。映画の内容はあんまり入って来ないままエンディングまで見ちゃったから、ネタバレくらったみたいになっちゃったんだけどさ……。
駅まで歩いている途中でおなかがぐうと鳴った。そう言えば碌に昼休憩も摂らないままだったことを思い出した。
このまま帰って何かを作るのも面倒だし、食べて帰るにしても金曜の夜にひとりは寂しすぎる。
「先輩、時間があればラーメンでも食べて帰りません?」
「じゃぁ駅前のラーメン屋でも行くか」
「いいですね」
店内は金曜の夕方ということもあって、帰宅前の会社員で賑わっていた。
カウンターテーブルに着くと、ほのかはビールとラーメンを注文し、真木はそこにチャーハンも追加した。同じ隣同士に座るにしても映画館と違って真っ暗な中食事をするわけでもないので、先ほどのような緊張感はなくなっていた。
ふたりはビールを注文すると間もなくして席に届けられる。そして「お疲れ様でした」と言ってカツンとビールジョッキを合わせた。
「火曜日にはデザインが完成して、エンジニアに渡せそうです。納期も予定していたよりも3日間のズレで収まったので良かったですよ」
「そうだな、あと一息頑張れよ」
「はい! 任せてください!」
間もなくしてラーメンがテーブルに置かれた。そして仕事の話もそこそこに、ほのかは気になっていたことを切り出した。
「この間……先輩が助けてくれた日、どこかに行くためにあそこを通りがかったんですか?」
「――まぁな」
「彼女さんですか? 先輩も隅におけないなぁ」
真木が電話越しに“祥子”という名前を出していたのがどうも気になっていたのだ。
「前に付き合ってた人だな」
——あぁ、前に振られたって言ってた人か。まだ連絡取り合ってるんだ。それってどっちかが未練あるとかなのかな?
好奇心に駆られるままに質問を続ける。
「それって先輩はまだその人に未練があるとかなんですか?」
「……どうだろうな」
少し間を溜めた後にそう答える。
——はぐらかした⁉
真木が素直に答えてくれるとは思わなかったし、ましてや表情から心を読み取れるほどその手の学を修めているわけでもない。
「でも未練の気持ち分かります。私もずっと前に振られてるけど、まだその人の事好きなんですよね。見ない振りしてても見ちゃうと言いますか……」
「開発部の飯塚と言ったか? いつも下の名前で呼んでる」
「そうそう。幸也です。大学から一緒なんで付き合いは長いんですけど、そんなふうに見られてないみたいで」
長話をしていたせいでスープはすっかり冷め、麺も伸びきっていたが、ほのかにとっては丁度いい温度になっていた。
それをずりずりと啜る間、真木は黙ってビールを流し込んだ。




