14話
映画館の中は主に学生の客で賑わっていた。その中に自分たち同様会社員らしき姿もちらほら混ざっている。
ふたりはチケットカウンターで見ようとしていた映画を販売員に告げる。
「現在そちらの映画は座席はほぼ埋まっておりまして、通常のお席のは離れた場所同士のご案内です。もしくは少しお値段は上がりますが、カップルシートをお取りすることはできますが……いかがなさいますか?」
「じゃぁカップルシートでお願いします」
間髪入れずに真木が答える。カップルシートという響きだけでなんとなくこそばゆくなる。思わず「私たち恋人同士じゃありません! 会社の上司と部下です!」と、カウンターのスタッフに訴えたい気持ちになった。
そんなこそばゆい気持ちを散らせるために、チケットの発行手続きをしてもらっている間ほのかが真木に話しかける。
「先輩にカップルシートっていう単語は合わないというか。それと……はい、半分の2000円です」
差し出されたお金を見て、「じゃぁ映画を見ながら飲むドリンク奢って」と受け取らなかった。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
間もなく上映時間というところで予約した場所に座る。通常のシートと違い、ソファーのようにくっついているタイプのカップルシートで、座ってみると外とスペースが狭いことに気づいた。売店で買ったドリンクを間にあるテーブルに置いて、距離感を確かめる。
シートはやんわり個室をイメージするような形になっているので、隣の席との間に壁が設けられていて逃げ場がない。これでは肩と肩が触れそうになる。
「あ、案外密着するようになってるんですね。使ったことがないので、ちょっとびっくりです」
「嫌だったか?」
「いえ、なんか……緊張するというか。変な感じです」
そんな会話をしていると映画が始まり、照明が落とされると手元が何も見えなくなった。緊張をほぐすために口を湿らそうとテーブルに手を伸ばすと、はしっとドリンク以外の何かを掴んだ。
掴んだものの温度から自分が真木の手を取ってしまったのだとすぐに気づいた。
「あの……すみません。アクシデントです」
握った手をぱっと話して、そろそろと自分の膝に引こうとした。すると、その手が再度引き戻されて真木にしっかりと掴まれる。
「握りたいならどうぞ」
緊張してしまっているほのかとは対照的に、真木は相変わらず飄々とした声色でからかうように言う。こんな所でも色々な経験値の差を示されて、地味に悔しくなる。
「握りません!」
奪われた手を自分の元に取り戻すと、隣の席で小刻みに肩が揺れていた。どうやら笑っているようだった。
——なんか先輩にからかわれて、面白がられてる!
握られた手がジンと熱くて、ほのかは、終始映画に集中できずにいた。




