11話
「あ……おはようございます」
「おう」
連休が明けて初日。メールなどの確認のために就業時間よりも1時間も早く出社したほのかだったが、この上司にしてこの部下あり。ふたりは同じ考えであった。
「俺の教育が活きてきたようだな。感心、感心」
その日は夏日になりそうだと天気予報で言っていたので、髪を後ろでひとつに束ねていた。PCの電源を入れながら何となく真木の視線がその首元に注がれたのを感じたが、何も言われなかったので、こちらも気づかないふりをした。この間の首に付いた跡が残っていないかを調べたということは、言わずもがな分かったからだ。
――先輩、気にしてくれてたんだな。
「山崎、今月のスケジュール確認でミーティングがあるから、お前も来い。来月からは一からデザイン構成を任せようと思ってるからな」
出来ないとは言わせない鋭い目線に少し怖気づいてしまう。
「が、頑張ります!」
「今月は先月以上に厳しく行くから、そのつもりで」
――ひいぃ! やっぱり鬼だ!
初めて参加したミーティングでは営業、経理、ウェブ開発、デザインからそれぞれの代表と、全体のスケジュールを管理する社長秘書がミーティングに参加することになっている。
小さい会社であるため、常に迅速な動きが重視されている。だらだらと意味のない会議は誰のためにもならないと全員が分かってるからだ。
簡潔にクライアントの依頼内容、コンテンツ、予算、納期などを確認するだけの会議で、大体1時間もあれば終わりだ。少人数制だからか、会議というより確認作業に近い雰囲気すらある。
その企画会議に初めて足を踏み入れたほのかは、最初がちがちに緊張していたが、先輩たちが「名前は?」とか、「真木の下とかついてないよねー」とか話しを振ってくれたので、なんとか居場所を確保できた。
「じゃぁ、再来月からの企画会議にはこいつがメインで参加するから、よろしく」
――え? つまりどういうことだってばよ? 真木先輩抜きで、私が7月から他部署の先輩たちに囲まれてプレゼンして、企画実行すんの? 無理ゲーじゃない?
「了解」
「じゃぁ、解散」
――いや、私了解してないんだけど!
「先輩ェェ、そんな話聞いてませんでした。私まだ入社2月目のぺーぺーなんですよ?」
会議室から出て廊下を歩きながら会議で話されていたことを口にした。
「来月には3か月目になる」
「そうですけど……」
「じゃぁいつまで待てば自信が持てるんだ?半年か? 1年か? 3年か?」
「うーん……」
「こういうのは早いに越したことはないんだよ。それになにもひとりで会議に出ろとは言ってない。フォローするから」
「あ、そっか。なーんだ。先輩が一緒なら頑張れます!」
そうしてほのかは息まいて、やる気をアピールした。それを見た真木は歩きながら肘で彼女を小突きながら「あんまりやる気出しすぎて空回んなよ」と言う。




