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三千年の旅  作者: 水面ひかる
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第三話 ヒミコノオモイ

「それで嶺は、最終的にどうしたいんじゃ?」


卑弥呼にそう問い詰められたのが三日前の話だ。


 永遠の時を彷徨うかもしれないと半ば諦めかけていた僕の状況が一変する、そんな可能性がこの弥生時代で生まれようとしていた。


「気付いておるか?わしが嶺の存在を認知している時点で、お主はもうこの時代の歴史に干渉していることになるんじゃぞ」


背筋に寒いものが走った。そうだ、僕が歴史介入してしまうと日本史そのものの流れが変わってしまうかもしれない。歴史が変わるということは、未来の僕が生まれることの無い別な未来に書き換わってしまう恐れがあるわけだ。迂闊だった。詰みかけていた状況を打開しようと卑弥呼に会いに来たことで、逆に自ら詰みに王手をかけてしまったかもしれない。


 そもそも卑弥呼が僕の存在を認知できるのは、単純に巫女としての格が高く、霊感が鋭いからだそうだ。


「ん?ということは、僕以外にも幽霊っているのか?」

「もちろんおるぞ。最近はこの邪馬台国も平和続きでおかしな幽霊は見かけんがな。お主以外は」


一言余計なんだよ。僕が不機嫌そうな顔をしたのを見て、悪いと思ったのか「まあまあ」となだめすかすようして、それから、


「安心せい、わしはお主が置かれた状況を一応正しく理解しているつもりじゃ。嶺がこの時代によほど甚大な干渉をしない限り、わしの力で微調整をして歴史が本来辿るべき順路を進むようにしてやる」

「言っていることはわかるけど、そんなことができるのか?」

「誰にものを申しておる!わしは邪馬台国の女王、卑弥呼ぞ」


自信満々のドヤ顔で、任せておけと言わんばかりに小さな拳で自分の胸をドンと叩く卑弥呼。まあそこまで言うなら信用して任せるしかないが…それにしても邪馬台国の女王ってのがこんなに親しみやすい感じの人物だったとは…。


「わしの顔に何かついておるか?」

「あ、いや…、どうして僕みたいな得体の知れない一介の幽霊にそこまで親切にしてくれるのかなって…」


卑弥呼は一瞬僕から目をそらし少し俯いて黙っていたが、やがて顔を上げると、


「神託があったのじゃ、『お主を助けよ』とな」

「神様が?僕を?」

「そうじゃ。それにしてもこのような平凡で軟弱そうな男がどうして…」


最後の方は聞き取りにくかったので「今なんて?」と聞いてみたが、卑弥呼は慌てて「こちらのことじゃ!気にするでない!」と話を濁されてしまった。


「わしは女王の執務があるから行くぞ。嶺は自由に散歩でもしていてくれ」


いそいそと部屋を出ていこうとする卑弥呼であったが、思い出したように振り返ると、


「それとお主は一介の幽霊ではないぞ。何せ一部とはいえ八尺瓊勾玉の所有者じゃ。神器の力の使い方を誤れば歴史介入どころの騒ぎではないぞ。くれぐれも気をつけよ」


鼻息を荒くしてそう言い残すと、今度こそズカズカを音を立てながら王宮の女王の間へと向かって行った。部屋の前ですれ違ったであろう侍女が小声で「今日の卑弥呼様はいかがなされたのかしら」と独り言をつぶやくのが聞こえた。


「散歩と言ってもなぁ」


卑弥呼の居室に取り残された僕は急に手持ち無沙汰になってしまった。


 筵の上にゴロンと転がるような姿勢を取ってみた。実際、寝転がったから体が楽になるということではない。だが気分の問題で、こうすると何となく思考が捗るような気がするのだ。


「最終的にどうしたいか、か……」、それは僕の物語に終わりがあることを前提とした話だ。どうしたいか、と問われればやりたいことは決まっている。元の時代に戻って核戦争の無い世界線で普通に平和に暮らしたい。だがそれは夢物語だ。今でも十分夢物語なのだけれどもな。夢のまた夢。

 それを実現しようとするといくつかの高いハードルをクリアしなくてはいけない。まず一つ目に、僕が歴史の流れを一切変えないように気を付けながら20XX年まで時を進んでいくこと。二つ目に核が東京に落ちる歴史だけは何としても改変しなくてはならないこと。三つ目は、20XX年の僕に、今ここにいる僕の精神が融合すること。

 はっきり言ってそこにたどり着くロードマップが全く思い浮かばない。思考が停止しかけたその時、先ほど聞いた卑弥呼の『お主を助けよ』という言葉を思い出した。彼女に相談すれば何かいいアイデアをくれるだろうか。だけど歴史に影響を与えてはいけない身で、そこまで他人に頼ってしまうのはいかがなものだろう。僕には返せるものが何もない。卑弥呼の個人的な厚意でここ(邪馬台国)に置いてもらっている恩だってある。


「せめて、『これ』の使い道でもはっきりとわかればなあ」


八尺瓊勾玉を取り出し、目の前にかざしてみせた。念でも込めれば何か力が発動するのだろうか。考えがあまりにも安直だけどやってみる価値はあるか…。待て待て!今しがた卑弥呼に釘を刺されたばかりではないか。ひとりの人間を過去に飛ばしたオーパーツだぞ。うっかり神器の未知の力を解放して「やっちゃった」で済まされるものではない。


 ただ、現状で抱えている問題を解決する鍵になるのは間違いなく勾玉であるだろうし、それ以外に糸口が見つからない。過去に遡る力…時空を超える力…。仮に、仮にだぞ、勾玉の力が歴史を自由に飛び回れるものだとして、だ。うまく力を制御できれば一気に現代に戻ることはできるだろうか。

 仮説に仮説を重ねる思考を繰り返しても埒が明かない。『正確な』とまではいかなくとも、『信憑性の高い』レベルでの原理と方法論を探し出さなくては。


 卑弥呼も実のところ、これが本物の勾玉で、僕を過去に送った根源だということ以外はほとんどわからないみたいなことを言っていたしな。

先が思いやられる、もう慣れっこだけど。





三日後 ―


ふと気になった事があったので、僕は卑弥呼に聞いてみた。


「なあ、卑弥呼って兄弟はいないのか?弟とか」


彼女は小さな弥生土器の中から、今日のおやつの小さな木の実を取り出すと、それをほおばりポリポリと音を立てて食べていた。


「弟?そんなものはおらんぞ。いきなりどうしたのじゃ」

「いや、未来に伝わっている記録にはね『卑弥呼は人々の前には姿を見せず、夫ももたずに、弟と思われる人物が卑弥呼の言葉を人々に伝えた』って書かれているけど、それらしい人を見かけたことが無いからさ」

「ほう、わしはそのような謎多き女王として伝わっておるのか、面白いのう。まあ確かに、王宮で謁見を受ける際は簾越しであるし、神託を伝えるのも家臣を挟んでおるからな、あながち間違ってはおらんぞ」


そう言って、また木の実をパクリと口に入れた。

「夫はおらんぞー、適齢期を迎えて絶賛大募集じゃが、なかなか見合う奴が現れん」

棒読み口調でそう宣うと、今度は二個同時に口に投げ入れた。食べすぎだろ。やや呆れてその様子を眺めていた僕に「お前も食うか」と木の実を差し出してきたが、「いや、食べられないし」と秒で遠慮させてもらった。

 王宮での卑弥呼の様子を見に行ったこともあるけど、こう、何というか…自室にいる時の卑弥呼ってカジュアルすぎてギャップが激しいというか…。顔に派手さは無いのだけれども端正に整っているので美人だし、言い寄る男の一人や二人はいそうなものだけど、女王でいる時のあのオーラがなかなか男性を近づけないかもしれないなあ。


「聞きにくいんだけど、卑弥呼って何歳…?」

「わしは十六歳じゃ、もう立派な大人じゃぞ」

「はあ!?」


もっと年上だと思っていた、少なくとも僕よりは。まさか年下だったとは。


「何じゃ、何かおかしいことがあるか」

「いや、だって…十六歳で女王だなんて早すぎないか?」


彼女は不思議そうな顔をした。

「十六ならもう人生の半分は過ぎておろうに、早すぎることなどあるか。そりゃ嶺のように悠久の時を過ごしてきた者からしてみれば、たかが三十年の人生など短く感じるであろうが…」


それとは関係なしに、現代人である僕の感覚がずれ過ぎていたようだ。弥生時代の平均寿命は男女ともに30歳前後と言われている。しかもそれは生まれてから15歳まで生きることができた者の間での平均寿命だ。実際は幼年期を生き延びること自体が困難だったので、全体の平均寿命はさらに短くなるのだ。


 あまりに短い人生ではないか。


 僕の表情の変化を目ざとく見つけて悟ったのだろう。

「そうか、わしはお主に寂しい思いをさせてしまうかもしれんのう」

と、しみじみと独り言のように言った。だがすぐに、

「そうじゃ、嶺。未来のことをたくさんわしに話して聞かせよ。わしはお主が暮らしていた時代のことを知りたい。神託を受けずとも先の世界ことが知れるなんて、このような面白きことが他にあろうか」

急に明るく振る舞い、話題を変えようとしてきた。


「でも、そんなことをしたら歴史が変わってしまうんじゃないか?」

「案ずるでない!わしがお主の時代のことを知っても、わしは進むべき歴史を違えたりはせぬ!わしの女王としての力と、嶺の未来に誓ってもよい。ほれ!早よう聞かせよ!」





二カ月後 —


 その日の執務を終えた卑弥呼が、頭でお湯が沸かせるのではないかと思えるような勢いで居室に戻ってきた。


「まったく!わしの鬼道を何じゃと思うとるのじゃ!巷におるその辺の巫女がする占いとは本質が違うのじゃぞ!!」


触れてはいけないオーラをメラメラと滾らせている。仕事で何かあったらしい。僕は夜風にでも当たってこようと、そーっと壁を通り抜けて部屋を出ようとしたのだが、それに気づいた卑弥呼が、


「風に当たることもできんのに何処へ行こうと申すのじゃ?」


ギロリと鋭い視線を向けてきた。あ、はい。話を聞けということですね。

 それからというもの、先日邪馬台国に新たに属するようになった小国の首長が謁見に際して、「娘が飼っている犬が子犬を産んだのでどんな名前をつけたら良いか卑弥呼様に占っていただきたい」などと、勘違いも甚だしい嘆願をしてきたことに対する愚痴を延々と聞かされることになった。そのあたりは早送りで省略する。


「貢物だけはしかともらい受けたがな!」


フン!と鼻息をついたところでようやく噴火が治まったようだ。


「その、鬼道てのは簡単にできることじゃないのか?」

「そうか、嶺には教えておらんかったの」


卑弥呼は急に冷静になったかと思うと、姿勢を正しまっすぐに僕を見た。そこにあったのは先ほどまで愚痴をこぼしていたどこにでもいそうな若い女性ではなく、まさしく女王の風格を纏った為政者の顔であった。


「鬼道はわしの命を削る」

「…え…?」

「神と交信するのじゃ、それはもう生命力を消費しまくるに決まっておろう。一回の鬼道でわしの寿命がいかほど縮むかは、正確には知らんがな」


 沈黙の時間が重たくのしかかった。卑弥呼が、女王としての責務を文字通り命がけで果たそうとしていることを、僕はこのときはじめて知ったんだ。


「だからな、わしは嶺がいてくれるおかげでたいそう助かっておる」


話のつながりが見えない。「どういうこと?」と尋ねると、彼女は静かに語りだした。


「わしは邪馬台国の女王じゃ、この国でわしより偉い者はおらぬ。家臣も、侍女も、民も皆わしのことを偉大な超能力を持つ女王として見ておる。正直、気の休まることなどなかった。この国ために、民のためにわしはいつだって女王として振舞わねばならぬのじゃ」


卑弥呼は立ち上がると部屋の裏手の戸を開け、外の空気を吸い込むと夜空を見上げた。その日は満月だった。青白い月明かりが卑弥呼の顔を優しく照らす。彼女は続けた。


「時々考えておったのじゃ、もし女王でなかったとしたらわしの人生はどのようなものであったであろうかと。もちろんそれは叶わぬ夢じゃった。わしはわしの責務から逃げ出すことも投げ出すこともできぬ。わしがいなければ隣国の狗奴国が再びこの邪馬台国に攻め入り戦になる。そうすればたくさんの民が死ぬ…。愚痴などこぼせる相手もおらんかった。」


僕は彼女の背中をじっと見つめていた。卑弥呼の頬を伝う一筋の涙は、僕からは決して見えなかったし見せなかった。それは彼女の、僕に対する必死の強がりだったのだろう。


「だがな、ひょんなことからお主が現れた。死してなお今より千年以上も昔の世界からやってきて、そしてこれから二千年先の未来をも知り尽くしている嶺、お主じゃ。わしは心底安堵したぞ、ああ、わしよりもずっと、ずーっと『特別』な者がおったんじゃな、と。嶺に比べたらわしなんぞ、ちょっとだけ変わった力を持つ普通の人間じゃ」


「僕は君こそ特別だと思っていた。でも、もしかしたら君の言う通りなのかもな」

「そうに決まっておるわい。だからな、お主とこうして一緒にいて話している時だけは、わしは特別な女王ではなく、この時代を生きる普通の女子でいられるんじゃ。お主はわしの願いを叶えてくれた。おかげでわしは覚悟を決めて、明日も、その次の日も女王としての務めを果たすことができる」


体が…いや、心が震えているのを感じる。これは恐怖なのか、唯一の理解者を失ってしまうことに対しての。卑弥呼がいなくなるということは、僕を僕として認識してくれる人がいなくなるということだ。僕はまた無に戻ってしまう。


「鬼道を…鬼道をやめるわけにはいかないのか…」

「できぬ」


即答だった。


「わしは女王じゃ。そうでなくなれば嶺、お主を救うこともできぬのだぞ」

「わかっている!それでも!」


卑弥呼が鬼道をやめることは即ち邪馬台国の衰退を意味する。だが本来邪馬台国が滅びるのはまだ先の話で、今ここで卑弥呼が生き方を変えることは、彼女の言う通り僕の魂を消滅させることに繋がるのだ。しかし…!


「嶺、お主は優しい男じゃ。初めてわしのもとを訪れた日、お主は未来で起こった出来事を語ってくれたな。その時わしはわかったぞ、この男は友やか弱きもののために必死に行動できる善き心を持った者なのじゃと。そうでなくては天照さまが助けよと申されるはずもあるまい。ただ、少し向こう見ずで抜けたところはあるがな」

「だから…いつも一言余計なんだよ…」


わっはっはと卑弥呼は声をあげて笑った。


「よいか嶺、鬼道を続けようが続けまいが、わしはいつか寿命を迎えて死ぬ、それは変わらぬのじゃ。お互い悔いのない道を歩みたいと思わんか。だからもう少しわしの愚痴に付き合え。なに、お主の見た目は十八歳かもしれんが、実際は精神年齢千歳の仙人じゃろ。わしのような小娘の我儘を聞き入れるくらいの懐の深さは持ち合わせていよう」


その小娘に子どものように諭されている自分が限りなく情けなく思えてきた。

でも、そのおかげで目が覚めた。自分のやるべきことを再確認することができた。必ず勾玉の謎を解いて、未来の世界を核の炎から守ってみせる。僕のこれまでの千年の歩みと、卑弥呼の助力を無駄にしないためにも。





一週間後 ―


 僕はいよいよ決意を固めて、今後どうしていくべきかを卑弥呼に相談することにした。まず、最終目的は20XX年の核の落下を防ぐこと。それ以外の大きな歴史干渉や歴史改変は極力行わないこと。そして、そのために八尺瓊勾玉の力の解明と原理について明らかにすることだ。


「よう申した!!」


卑弥呼はパンと膝を打った。「お主にも生きるための具体的な目的ができたのじゃな」と、喜んでくれた。


「現状では不安要素しか無いどね。それにもうひとつ、気がかりなことがあるんだ」

「何じゃ、申してみよ」

「僕は自身の存在を守るために歴史への干渉を控えているし、そうしなくてはいけない。それでいて核ミサイルが落ちる未来だけは変えようとしている。すると本来ミサイルが落ちた先に生きのびている世界線の人たちがいるはずで、僕の行動でその人たちが消えてしまう可能性があるんだ。」


つまりはすべて僕のエゴである、と。僕のやろうとしていることが善い行いであるという自信がまったく持てなかったのだ。

 だがそんなモヤモヤを吹き飛ばすかのように、


「良いのではないか?」


あっけらかんと卑弥呼が言った。


「嶺の体験した時間よりも先の話は、お主にとって白紙も同然じゃ。未来視を売りとするわしが言うのもなんじゃが、世界線とは多くの人々の選択や自然界の法則の糸によって紡ぎだされるものであろう?お主が自分の時代を救うという選択も、その一本の糸に過ぎぬ。

まあ嶺よりも先の未来人でも現れれば話は別じゃが、そんなことは起こらんじゃろ。そもそも、お主が守りたいものは自分のことだけではあるまい」


そうだ、僕が守りたいのは家族の命、翔やクラスの友人たち、先生、ゆうちゃんやゆうちゃんのお母さんが笑って暮らせる未来…。ただのエゴではないのかもしれない。


「己が歩む先に新しい世界を作るのじゃ。それくらいの責任を背負う覚悟を持て」


その叱咤激励に、魂が鼓舞されたのを強く感じた。


 もうひとつ具体的に相談しなければならないことがあった。勾玉についてだ。


 勾玉が僕に及ぼした影響について改めて考えてみたところ、見落としがあったことに気付いた。実は勾玉の発動した力は2種類あるのではないかと思ったのだ。

 ひとつは僕を過去に飛ばした時空転移能力。もうひとつは僕を生前の記憶と理性を残したまま幽体として存在させる力、言い換えるなら魂を保存する力だ。死んだら幽霊になるという話は(現実味があるかどうかはさておき)ありふれていたので、この件については勾玉は関係していないのではないかと思っていた。しかし単なる幽霊にしては(我ながら)いろいろと規格外な部分があると客観視したところ、もしかしたら勾玉の力が作用しているのではと疑い始めたのだ。

 それらの推測については卑弥呼も「ふうむ、存外当たっておるやもしれんのう」と同意してくれた。

 次に勾玉の力の発動条件だ。正直ここから先は推論と呼ぶには根拠の薄い話になってしまう。そもそも時空を超える力というものがあるとして、その現象を引き起こすのに必要なエネルギーは莫大な量であると考えられる。神器である勾玉に初めからそれだけのエネルギーが内包されていていつでも引き出せるということも有りうるかもしれないけど、僕は核爆発のエネルギーを勾玉が時空転移エネルギーに変換したのではないかと考えた。

 つまりこの神器は外部のエネルギーを変換して他のエネルギー、今のところは時空転移と魂の保存に転用するためのアーティファクトなのではないか、と。


「嶺、お主…」


卑弥呼は目を丸くしていた。


「考えの抜けている男と思うていたが、かなりの切れ者かもしれんな!」

「だから一言余計だっての!」


わっはっは、と彼女は高笑いした。


「だとすると、腑に落ちない点がひとつあるんだ。時空転移が核のエネルギーを転用して発動したとして、魂の保存は何のエネルギーを使っているのかなって…」


「『想いの力』…ではないのか?嶺の、生きたい、このままでは終われない、という想いの力じゃ」


そういう発想がすぐにポンと思い浮かんで、まことしやかな説得力を持って言えてしまうところが卑弥呼の真に魅力的なところだと思った。口から出まかせのようであって、実は本質を射抜いている。それでいて他者に希望を与える言霊、これこそが日本の夜明けに現れた邪馬台国の女王の人柄なのだと。現代に戻ることができたならば、僕は彼女の真実の姿を胸を張って伝えることができるだろう。





五年八カ月後 ―


「嶺、見よ。この美しき黄金色の原を」


卑弥呼と僕は、かつて彼女が流れ星を見たあの丘の上に立っていた。眼下には邪馬台国が有する広大な水田が広がり、首を垂れるほどに成長した稲穂が夕日を跳ね返し、まさに卑弥呼の言う通り金色の大平原となっていた。


「こんな雄大な景色、僕の時代で見たこと無かったよ」

「そうじゃろう、そうじゃろう」


卑弥呼は満足げだ。


「お主の気晴らしになると思うてな、気に入ってくれたなら嬉しいぞ」


いやあ、どちらかというと卑弥呼の気晴らしに付き合わされているような気もするのだけど、それは敢えて言わないでおこう。

 この丘に来るまでの道すがら、すれ違う人々は皆卑弥呼のことを讃えていた。雨が降るのも、日が照るのも、災害が起こるのも、すべて彼女が予見できるからこそ、この国の民は安心して豊かな生活を営むことができるのだ。


 優しく吹き抜ける秋風が心地よい、僕が生身であればきっとそう感じただろう。


「わしはこの国が、邪馬台国が好きじゃ。邪馬台国の民が好きじゃ」


そう語る卑弥呼の顔はとても穏やかだった。


「わしはこれからもこの国と、民を守りたい」

「できるさ。卑弥呼なら」


卑弥呼は力強く頷いた。


「嶺、聞いてほしいことがある。お主が来た日に鬼道で受けた神託のことじゃ。実はな、お主には話していなかったが、天照さまよりもうひとつ良き知らせをいただいておったのじゃ」

初耳だった。「神様は何て?」

「それはな…」

言いかけたところで、遠くから慌てた様子で卑弥呼を呼ぶ声が聞こえた。


「卑弥呼様ぁ!!難升米が、難升米が大陸より戻りましたぞ!!魏の遣いと共に!!早く王宮にお戻りくださいませ!!」


一瞬呆けていたが、フゥとため息をつき「仕方ないのう」と苦笑いをすると、卑弥呼は急いで王宮へと戻って行ってしまった。神託の話は聞けずじまいだった。


 魏国と交流を持つことで、邪馬台国は倭国、つまり日本の中心的な国としての地位を確立し、さらなる拡大と発展を遂げた。このときに魏より送られた親魏倭王の金印は現代には残されていなかったが、まさかタイムスリップが功を奏して当時の実物を見ることができようとは思いもよらなかった。


「やれやれ、肩の荷が少し降りたわい」


居室に戻った卑弥呼はその小柄な体にもかかわらずドカッという勢いで腰を下ろした。それほどまでに魏という大国との外交は体力と神経をすり減らすものだったのだろう。


「難升米もようやってくれた、重く取り立ててやらね…コホッ…」珍しく卑弥呼が咳き込んでいる。「大丈夫か?」と声を掛けると、口元を抑えていた袖口に目線を落としていた卑弥呼は、


「少し外すぞ。お主も少し頭を休めておけ、勾玉に関する伝承の研究で考えが煮詰まっておろう」


そう言うと足早に部屋を出て行ってしまった。


 確かに、僕はこの数年間で神話に所縁のある土地を訪れては伝承について調査をしていた。幽霊とコミュニケーションを取れる人間などほとんどいないので調査は難航したが、かろうじて各地の巫女の力を頼りに可能な限りの情報を集めようとした。

 収穫があったとすれば、八尺瓊勾玉は元々はいくつもの霊石を繋げていたもので、天孫降臨の後に神々の諍いのさ中にバラバラに各地に散ってしまったが、確かに存在するという話を聞けたことだった。その話を信じるならば、僕が持っている勾玉と同じ力を持った物がまだいくつかあるということになる。もしそれらを集めることができたとしたら…


「あるいは核爆発のエネルギーを複数の勾玉ですべて吸収して、次元転移で遠くの宇宙に逃がすことだってできるかもしれない」


つまり歴史の旅の中で、またひとつ『残りの勾玉を集める』という具体的な中間目標が定まったのだ。これは本当に大きな一歩だった。

 やはり邪馬台国を訪れたのは正解だった。卑弥呼には感謝してもしきれない。僕はあの日からの出来事を、ひとつずつ懐かしむように思い返していた。



 一時間ほどして卑弥呼が戻ってきた。やはり顔色が優れない。嫌な予感がした。スッと、無言のまま僕の真正面に正座し、俯いたまましばし黙っていた。「どうか何も言わないでほしい」という思いが膨らんでいく。

 だが、しっかりとした口調で彼女は告げた。


「神託を受けた。わしの命は長くてあと三年だそうじゃ」


 希望と絶望は交互に訪れる。





二年六カ月後 ―


 卑弥呼は最後の時を迎えようとしていた。

あれ以来、卑弥呼は病と闘いながらも女王としての役目を放棄することなく勤め上げた。もちろん鬼道もためらうことなく行い続けた。それが病の進行を早めたことは間違いない。


 病床に伏せる彼女を取り囲むようにして、邪馬台国の重臣たちが女王から最期の遺言を受け取っていた。部屋の外からは侍女たちのすすり泣く声が聞こえる。重臣たちの面持ちはみな暗く沈んでいた。女王がいなくなってはこの国はどうなってしまうのかと不安をこぼす者もいた。

 卑弥呼は自分の死後、再び狗奴国が攻めてくることを予言し、それにどう備えればよいのかを具体的に指示した。もちろん、一度は男性の王が擁立されるが、その後再び女王によってこの国が治められることも織り込み済みだ。だが、歴史改変に繋がらぬよう、そのことは家臣たちには伏せたままにしておいた。


「少し疲れたわい。皆の者。わしは休みたいから席をはずせ」


 人払いが済むと静けさが戻り、そこには卑弥呼と僕の二人だけが残った。


「こんな情けない姿ですまんのう」


力ない声で語りかけてくる彼女は、確かに病との戦いで顔はやつれ、体はやせ細りはしていたが、小学生の頃に読んだ歴史漫画のような老婆の姿ではなく、女王たる威厳とあの端正な美しさは欠片も失われてはいなかった。


「何じゃ…嶺の方が情けない顔をしておるではないか。フフ、おっと余計な一言じゃったか」

「もう…慣れたさ…」

わっはっは、と弱々しくも、楽しそうに笑う卑弥呼。そして目を閉じ穏やかに大きく深呼吸すると、彼女はそっと語りだした。


「以前、天照さまからもうひとつ神託を受けたという話をしたであろう。あの時は言いそびれてしまって、今になってこの話をするかどうか随分と悩んだのじゃがな…、

悔いは残しとうないので聞いては貰えぬか。


神のお告げはこうであった。


『八尺瓊勾玉を持つ死者が遥か先の世より時代を遡りてこの国を訪れる。その者を助けよ。そしてお前の想いが通じたとき、魂の契りによってその者はお前の良き夫となるであろう』


にわかには信じ難かったが、鬼道で授かった神託は決して外れぬ。

しかしどこの馬の骨とも知れん男、それも幽霊ときたもんじゃ。そんな奴が我が夫になるなんて、さすがにわしにも選ぶ権利があろう。

とりあえずわしは困っているお主を助けるという使命だけは果たし、その上で人物を見極めようと思うておった。

じゃがお主は思いのほか良い男で、わしの心の支えになってくれた。次第にわしがお主に惹かれるようになっておったのには気付いておったかどうかは知らぬ。お主も相当な鈍感じゃが、わしも負けじと天邪鬼じゃからの。

生身のわしと霊体のおぬしがどう添い遂げればよいのか皆目見当もつかんかったが、それでも共に過ごした日々は本当に楽しかったぞ。心の繋がりがあればそれで良かった。ついぞ口には出せなかったが、わしはお主を生涯の伴侶だと思うておったぞ。」


その告白をただ黙って受け止めることしかできなかった。

頬を伝う涙など感じることはできなかったが、確かに流れ落ちたそれたそれは床に落ちる前に幻のように消え、床を濡らすことは無かった。

死には慣れていると思っていた。幼いころに亡くなった祖父母の死、中学生の頃に体験した愛犬の死、過酷な環境の中でいともたやすく訪れる縄文人たちの死…。自分自身の死でさえ超越してきたはずなのに、それでも今、目の前にいる一人の人間が迎えようとしている命の終わりは、耐えがたき悲しみと苦痛の津波となって僕を押し流そうとしている。


「…嶺の生きる時代を見てみたかったな…そして…」


 そしてどうしよう。一緒に学校に通ってみようか、好奇心旺盛な卑弥呼なら何でも吸収してしまいそうだな。そして帰り道に一緒に寄り道をしておいしいものを食べながらたくさん話をするんだ。そしてその後は展望台から夜景を見に行くのも悪くないな。自分の足元に実際の星空にも劣らないきれいな星の海が広がっているのにきっと驚くに違いない。そして…

 続く言の葉に淡い期待を抱く僕のもとに代わりに訪れたのは、無残にも静寂の方であった。

 ハッと卑弥呼の顔を見ると、彼女は既に安らかな笑顔で永き眠りについていた。


 元々無いはずの全身の力が抜けて落ちた。いつか喉の渇きや呼吸困難を疑似的に体感したのと同じように、僕の精神が強くそう思うほどに現実のように感じてしまうのだ。


 不意に彼女の体から立ち昇るものがあった。

 青白く光るそれはやがて人の形を成し、よく知っている清くまっすぐな眼差しで僕を見つめた。

 卑弥呼の魂であった。


(これから先、わしがいなくとも嶺は歴史の先へ進まねばならぬ)


魂の声が伝わってくる。その仄かな光は横たわる本体から抜けて離れ、徐々に宙へと浮いていく。僕からどんどん遠ざかっていくように。


(しっかり頑張るのじゃぞ)


あの日、星を読んでいた時と同じ表情で、彼女は天を仰いだ。


(ああ、嶺…高天原が見える…)


天界への入り口が開いている。巨大な門の奥から放たれる強烈な光に向かって、己の魂が吸い込まれていく運命を卑弥呼はただ受け入れようとしていた。天へ昇っていく、高く昇っていく…


世界とひとつになるため、この小さな命の光はより大きな光に溶け込んでゆくのだ…


さようなら、愛しい人…





(…どうしたことじゃ?)


卑弥呼の魂は、己が高天原に引き寄せられる速度に変化が起こった事に気づいた。遅くなった…いや遅いというよりも、完全に現世で止まっているではないか。何が起こっているのかわからなかった。

 死した者の魂が現世にとどまることなく天界かもしくは黄泉の国へと誘われるは、生命の循環の摂理。自然の摂理を司るは神、その神の意志に逆らって自らの魂が現世に留まろうとしているとは何事か。

 ただひとつ思い当たることがあった。摂理に対抗しうる力を秘めた神の作りし神器を持ち、自らが生命の循環から外れし存在、悠久の時の流れを進む者!


(嶺!?何をしておるのじゃ!?)


僕は八尺瓊勾玉を天にかざし、両の腕を卑弥呼の魂に向け、必死に彼女を現世に繋ぎとめようとしていた。

 卑弥呼は言っていた、僕を魂のままこの世に存在させているエネルギーの根源は、想いの力であると。ならば僕が彼女をここに留めたいと強く想えば、勾玉は必ず応えてくれる!

これが正しい事なのかどうかはどうでもいい。僕に与えられた運命と勾玉は、今さまにこの瞬間、こう使うためにこそあったのだと、他の誰がそれは間違っていると、思い違いだと、偶然だと、こじつけだと言ったとしてもそんなことはどうでもいい!


「ふざけるな…僕をこんな気持ちにさせて…それで自分だけ逝ってしまうなんて!」


(駄目じゃ!嶺!そのようなことをしたら歴史が変わってしまうかもしれん、そうすればお主が消えてしまうかもしれん…わしはその方が耐えられん!もうよい、止めよ!わしをこのまま高天原へ逝かせるのじゃ!!)


「嫌だ!たとえ歴史が変わろうとも、絶対に修正してやる!僕だって消えたくない、消えてなるものか!いつか君が言ってくれた、そうだ、僕がこれから進むべき歴史を、新しい世界を作ってやる!」


勾玉の光が増幅されていく。掌の向こうに直径1mほどの緑色をした光の魔紋が浮かび上がった。そこに描かれている文字や記号が何の方程式を意味するのかは正直わからないし、今はそれを考えている余裕などない。僕は叫び続けた。


「絶対に逝かせない、逃がさないぞ!僕は、君を失いたくないんだ…だから今度は僕が…想いを届ける!」


 刹那!


 天界の入り口から無数の長い光の腕が伸びて卑弥呼の魂の全身を掴んだ。あたかも『この女の命運はもう尽きた、この女の魂は神の御許へと連れてゆく』というように。これこそが輪廻転生、命の循環の摂理の働きの一部であった。神々しくも畏れを抱かせる抗い難き運命の力によって、じりじりと卑弥呼の魂が再び天界へと引き寄せられていく。


 僕はずっと自分のことを無力だと思っていた。歴史に介入することもできず、ただ時に流されるままの幽霊。だけど卑弥呼はぼくを支えだと言ってくれた。僕は無力じゃなかった。今は小さな力かもしれないけど…この神器と…卑弥呼の「想いの力」を借りることができれば…!!


 彼女の魂を救済するのは死なんかじゃない!この僕だ!


「卑弥呼!僕は君が好きだ!これからも君を支えたいし君に支えてほしい!だから…誓ってくれ、これからも僕と一緒にいてくれると!!魂の契約だ!!」


(嶺…!!)


卑弥呼の魂の半身はもう高天原の門に吸い込まれていた。胸から上だけが現世にとどまろうとしているが、さらに4、5本伸びてきた白い光の腕が、普通ではありえない形に関節を曲げつつも彼女の肩と頭をがっしりと捉え、まさに全身を猛烈な光の渦に沈めようとしていた。


(わしは…)


 かすかに伝わっていた…そしてついにその想いははっきりと届けられた。


「わしは嶺と共にいたい!!これからもずっと、何千年だって、この世界が消える瞬間までそなたと一緒にいる!!それが、わしの想いじゃ!!」


 その切なる願いが勾玉を震わせた瞬間、魔紋の直径がグンと2倍ほどに広がり、さらに幾重にも出現した魔紋たちがエネルギーを収束するかのように回転を始めた。はじめはゆっくりと、やがて高速に…。

 ついに溢れ出した魂の力は、何千もの青白き光となって門に向かって曲線を描くように放たれた。その想いの奔流は卑弥呼を押さえつけていた腕たちを貫き、それらはガラスが割れるかの如く粉々に砕け散って、そして霧散した。


 解放された卑弥呼は、天界の門が収束して閉じていく様を見守っていた。何を思っていたのだろう、今彼女の心には様々な感情が入り混じって渦巻いているに違いない。ただ、後悔だけは絶対にさせない。僕は彼女の横に立ち、同じように高天原への道が消えゆくのを見ながら、そっと彼女の肩に手を置いた。


「魂同士だと触れ合えるのじゃな」


 卑弥呼は僕の手に自分の手を重ねてそう言った。それは僕もこのとき初めて気づいたことだった。驚いた、てっきりすり抜けるものとばかり思っていて、形だけそういう気分にしようと思っていたのに。


「その…なんじゃ…あそこまで赤裸々に語ってしまった後だと恥ずかしいな」


もじもじしながら頬を赤らめる彼女の姿など初めて見る。スマホがあったら録画しておきたかったくらいだ。そこには女王らしさのかけらも無かった。でも、これこそが彼女の望んだ自分であり、僕が欲しかったものだ。


「改めてこれからもよろしくな、嶺!」


 この笑顔をもう一度見られた、それが一番うれしかった。





 今だから言えるが僕には何となく確信があった。卑弥呼は「鬼道の神託は絶対に外れない」と言った。だとすると卑弥呼の想いが僕に届いたのは彼女の死に際で合って、僕が彼女の夫になるのはそれから先のことだ。卑弥呼と、そして神を信じるのであれば、『魂の契約』を結ぶことによって僕たちの新しい関係はここから始まるはずだ、と。


 魂となった卑弥呼の姿は死んだ時の年齢ではなく、僕と同じ十八歳くらいまで巻き戻されていた。どういう原理かはわからないけど、僕か、または彼女自身が考える「卑弥呼の力が最も強かった時」の状態に、勾玉が戻してくれたのではないかと考えている。これに関しては本人も「嶺だけ歳を取らない姿でいられるのが癪であったが、これでわしも若さを保てるというものじゃ」とたいそう喜んでいた。


 原理と言えば、僕と似たような存在になった卑弥呼ではあったが、かなり異なるルールが適用されているみたいだ。

 まず、八尺瓊勾玉の持ち主はあくまで僕であって、卑弥呼の意志ではその力は制御できないということ。卑弥呼が魂として姿を見せることができるのは、僕が霊石の力を発動している時であって、普段は勾玉の中に魂が収納される状態になる。もちろんその状態でも意思の疎通はできるのだけれども。

 決定的に異なるのは、僕が勾玉より呼び出した卑弥呼は現世の物に触れるなどの物理的な影響を与えることができてしまうことだった。これについては彼女ともよくよく話し合ったが、最重要取扱注意の現象につき、くれぐれも安易にポルターガイスト現象を起こさないようにしようという結論に至った。




一年四カ月後 ―


 新しい女王「壱与」のもとで一応の平和を取り戻した邪馬台国は、再びかつての活気を取り戻そうとしていた。卑弥呼と同じ「鬼道」を使える彼女はその予言の力を示すことによって、狗奴国との休戦協定を結び、さらに協力関係を築くことにさえ成功した。こうして邪馬台国はやがて大和王権にその政権を委譲するまでは、今しばらく日本の歴史の中に存続することとなる。やがて消えゆく運命であったとしても、この日本という国の礎となった輝かしい事実は後世に語り継がれるだろう。


 卑弥呼はかつての丘の上で、そんな平和を取り戻した祖国を眺めながら言った。


「のう嶺、壱与はよう頑張っておる。あの娘が天寿を全うしたあかつきに、わしとそなたの娘として迎え入れてやるというのはどうじゃ?」

「よ、養子縁組?それは、ええと…僕はまだ十八だし…」

「千百十八の間違いではないのか?何が十八じゃ、それはわしの方じゃ。」


いやいや、卑弥呼だって本当は二十台半ば…などとは言えるはずもなく。言ったら間違いなく首を絞められる。幽霊が幽霊に呪い殺されるなんて話はごめんだ。

 でもまあ、家族が増えるのもいいか、と思った。卑弥呼の我儘を受け入れるのは、僕の役目だからな。


「三人での歴史旅か、賑やかになりそうだなあ」




 弥生時代における僕の物語はこれをもって一応の結末を迎える。それは史実には決して語られない物語だ。この先も、決して僕たちは時代の表舞台に出ることは無い。その裏で、表舞台よりもはるかに奇異な事件に巻き込まれようとも。


おそらく多くの方が想像している卑弥呼とは全く違う彼女を書くことができたと思っています。僕の文章力ではこれが限界ですが、書きたいものが書けて満足しています。長くなってしまったことで、やや力尽きた感はありますが続きは必ず書きます。


ファンタジー色が強くなってきことで、次の話を書くのに難易度が爆上がりです(自業自得)。少し発想力と語彙力とやる気をチャージする時間をください。とはいえ、書いているのがとても楽しいのですぐに復活するとは思います。

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