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森の中

 ――ほんっと、うちの殿下には困ったものです。相手は怪我人ですよ? 自覚ありますか?


 ――うるさい、声が大きい。アシュレイが起きる。


 ――いえいえ、黙りませんよ。言わせて頂きますけどね。もとはと言えば殿下の一目ぼれで、わがままでこんな遠くまであの方を連れてきているんですからね! それが、守り通すこともできずに危険な目に合わせて。その挙句、介抱しているうちに変な気を起こしただなんて……ケダモノですね!


 ――違う、誤解だ。何もしていない。血を失い過ぎて体温が下がった相手には、ああやって肌を合わせて熱を与えるのが一番効率が良いし、水だって自力で飲めなかったから口移しをしただけで!!


 ――理性飛びかけていたくせに。えっち。


 ゆめうつつ、遠くで誰かが何かを話している。

 声は聞こえるものの、内容はよく頭に入ってこない。


(片方はエグバードさま……? 相手は……たしか……、ライアスさん?)


 エグバードの従者の男性の声のような気がする。

 声の調子から、どうもエグバードが怒られているようだが、はっきりしたことがわからない。

 聞いているつもりでも、意識が浮かび上がっている時間は本当に短いらしく、会話がぶつぶつと途切れる。


 たまに目を開けると、エグバードがそばにいて、何か言っている。蜂蜜と混ぜ合わせたような甘い水を少しずつ飲ませてくれたり、髪を撫でてくれたり。


(大きな手……優しくて気持ち良い……)


 何か言いたいのに、何も言えないまま眠りに落ちる、その繰り返し。


「ここ……」


 ようやく声が出たのは、最初に会話してからどのくらいたってからのことだろう。


「ああ、今日は少し元気そうだな。ここは森の中で見つけた小屋だ。あの城を出てから三日経ってるんだが、お前の怪我のこともあるから留まっていた。随従たちとは合流できたんだが、何人かは街に向かわせている。ここは俺とライアスと……」


 機嫌が良さそうに話してくれるエグバード。ドアが開かれていて、明るい光が差し込んでいる。いまは昼間らしい。


「追手は」

「今のところは大丈夫だ。アリシア姫が見逃してくれた……とは考えていないが、泳がされているのかもしれない。姫の気持ちがまだ俺にあるかは不明だが、もし襲撃があったら俺が盾になって君を守る。今度は……」


 エグバードは、アシュレイの力の入っていない手を両手で握りしめて、自分の唇の近くに寄せた。


「調子の良いことを言っていると思うだろうが、守る」


 その言葉を聞いた瞬間、アシュレイは反射的に身を起こした。

 自分ではそのつもりだったが、脇腹に力が入らずにずるりと体勢が崩れ、エグバードに抱き留められる。

 藁を重ねたうえに布を敷いただけのような簡易ベッドで、エグバードは床に膝をついていた。

 あたりはガランとしていて、何もない。


「どうした、突然」


 しっかりと胸に抱き寄せられているせいで、声が体に直接響いてくる。

 アシュレイは立ち眩みのような眩暈に襲われて、目を閉ざしながら答えた。


「守る、という言葉に……」


 反応しました。


(守られている場合ではないので)


 最後までうまく言えないまま、呼吸を整えてもう一度口を開く。


「怪我は……。私は動けるように、なります、か?」


 ふふっとエグバードが笑う気配があった。


「それだけ話せるなら大丈夫だ。もう一番危ないところは脱しただろう。次に目覚めたときには何か少しでも食べろ。動けるようになったらここを出発する」


(ああ、私がいるから、こんないつ敵の襲撃があるとも知れない場所から動けないのか……)


 意識が途切れそうになりながら、アシュレイは一言呟いた。


「申し訳ありません……」


 閉じたままの瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちたのを感じながら、どうすることもできずに今一度眠りに落ちた。


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