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偽りの花嫁

 もともと、この結婚はエグバードの「一目ぼれ」による。

 辺境の小国マールに、たまたまエグバード王子の旅の一行が通りがかり、歓待の宴で顔を合わせたレイナを見初めたのだ。

 アシュレイは、ただの姫付き護衛の少女騎士に過ぎない。

 その後、国を去ったエグバードから結婚の申し込みが届く。

 彼を気に入っていた王は喜んで話を進めたが、いざレイナが輿入れするという段になって問題が発生した。


 ――わたくし、エグバード様とはどうしても結婚できない。好きなひとがいるの。


 レイナに打ち明けられる前から、アシュレイも薄々察してはいた。

 騎士団長のオズワルド。四十歳にもなるというのに、降るほどある縁談を断り続けて、独身を貫いているマールきっての武人。

 彼がレイナに注ぐまなざし。

 レイナが彼を見上げるときの熱っぽさ。


(いつかそんな日がくるのではないかと思っていたけれど)


 レイナは一団の護衛にオズワルドを指名。エグバードの国まで旅をしてきた。そしていざ国境を越えて出迎えと落ち合う直前になって。

 失踪してしまった。

 幼馴染であり、護衛としてずっと共に過ごしてきたアシュレイに、一言も告げることなく。


(姫を失った一団がどんな責めを負うのか、わかっていても二人は止まれなかった。恋に生きる道を選んでしまった……)


 アシュレイ自身は、レイナを責める気持ちはなかった。

 たとえいっとき恋に身を焦がしてすべてに背を向けても、この先の道行きは決して平坦ではないに違いない。

 敢えてその道を進んだレイナの無事と幸福を、友人として願わずにはいられなかった。


 一方で、エグバードへの申し開きはどうすべきか。

 並びに、両国間で今後この件がどのような外交問題に発展するか、頭を痛めていたのだが。

 レイナに会う日を待ちわびていたと、迎えに先駆けて単身国境に現れたエグバードは、とりたてて驚くことも落胆することもなく、あろうことか笑って言ったのだ。


 ――レイナ姫の顔を知るのは、俺を含めて数人だけだ。口留めすれば事足りる。君がレイナ姫の代わりになればいい。我が国の使節が到着する前に、その灰色の髪を栗色に染めて、姫のドレスを身に着けて。君がレイナであることは、俺が保証する。そのまま俺の国に来て妻となれ。


 ――私は姫ではありませんが……!? 身代わりとはいえ、正式に婚姻を結んでしまえばおいそれと「別人でした」というわけには……。殿下はそれでよろしいのですか!?


 一目ぼれの姫君を妻にと望み、いったんは受諾の旨を伝えられていながら、これほどの裏切りに遭い。

 それでもなお、レイナの幸せを願って、その失踪をかばおうと言うのであろうか。

 愕然としたアシュレイに、エグバードは余裕の表情を崩さずに告げた。


 ――それ以外に方法はないだろう。君を連れ帰って、父に紹介する。おとなしく俺の妻となれ。


 拒めるはずもないアシュレイに、さらに駄目押しの一言。「君は俺から逃げるなよ」と。

 その結果、王のお付きもマールの一団も全員が口をつぐむこととなり、アシュレイはレイナ姫として輿入れをした。

 そして、エグバードと婚姻の儀まで執り行ってしまった。


(これは偽りの結婚。エグバード様が愛しているのは私ではなく、レイナ様。だけどその愛の深さゆえに彼はレイナ様を許し、私を妻として迎え入れてしまった……)

 誓いの口づけだけは本当に触れるか触れないかで済ませていたが、エグバードは以降、アシュレイの体に指一本触れることはなかった。

 そのまま、王族の勤めとして夫婦揃って外遊に出ることになり、まさかの騙し討ちにあってこの有様。


 ――しかし君はもう少し何かやれるのかと思っていたんだが。仮にも『レイナ姫』の……だろう?


 先程の言葉は、つまり「ただの姫君の身代わりではなく、護衛騎士だったんだろう?」という意味に他ならない。


(そうだ。私の本分は「護り、戦う」こと。レイナ様がお側にいない今、エグバード様を守らなければいけなかったのに……!)


 諦めている場合ではない。

 どうにかして、ここから抜け出す術を見つけなければ。


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