戦闘です
一晩たち、トジカは受付嬢のノンに言われた通り、ギルドに来ていた。
ギルドの中は昨日と同じように騒がしかったが、トジカが入ってきたのを見た途端騒がしさは消えた。彼女がグリズを殴り飛ばしたことはもう噂になっており、その場にいなかった冒険者の耳にも入っていた。
殴り飛ばされたグリズというと、彼はいつもの定位置に座り込み目を瞑っていた。
トジカはグリズに気が付いたが、とくに話しかけることもせず、ただ「もう回復してる。思ったよりも強いんだな」と思うだけだった。
「トジカさんこんにちは」
「どうもです」
「結果についてはもう出たんだけど、ちょっと待っていてもらえる?」
「良いですけど。どうしてですか?」
「ちょっと人待ち」
「?」
ノンは詳しい説明はせず、言いたいことだけ言うと眠り始めてしまった。トジカはどれくらい待てばいいのかわからなかったから、ひとまずここから動かないことにした。何もしないのも退屈だったからか、天井を見上げて木目の数を数え始めた。
そこへ身の程知らずがやってきた。
昨日のことを聞いた、その場にいなかった冒険者の男がトジカをからかおうとしていた。男は自称ギルド内最強を謡っており、グリズが殴り飛ばされたのを聞いて、それをやったトジカを少し捻り潰してやれば自身の強さが広まると考えていた。
「ねー、君君。グリズを倒したんだって?」
「グリズ?」
「ああ、昨日君が殴り飛ばしたヤツだよ。あの図体が大きいだけの男」
「あれですか。まあ、はい。ムカついたので殴り飛ばしましたが。それが何ですか?」
「へっ、いやいやあの男はね、俺よりは弱いとはいえ、そこそこ強いやつなんだよ。だからさ、そんなグリズを倒したヤツとね、ちょっと戦ってみたくてね」
「なぜ戦わなくてはいけないんですか? 意味が分かり」
トジカが言葉を言い切る前に男は【ライトニング】を放った。雷でできた槍がトジカへ向かっていくが、彼女はそれを腕を振るうことで吹き飛ばした。
男は楽しそうな顔をして、
「へ~、思ったよりも強そうじゃん。じゃあこれはどうかな! 【フレア】!」
魔法を放っていった。
トジカは足を思いっきり振り下ろし、その風圧で迫りくる炎を霧散させた。
「後ろに人がいるんですが……」
「君がそこから動かなければ当たらないよ。【フレアボム】!」
トジカは魔法を迎撃しつつ、後ろを見た。ノンはもう起きていたが、動こうとする様子はなかったが、明らかにここでやるなと迷惑そうな顔をしていた。
トジカはひとまず男を外に吹き飛ばすために、パワーを調整しだした。
それに対して一切反撃してこないトジカを見て男はますます調子づいて叫びだした。
「どうしたんだ! まさか怖気付いたのか? 魔法の一つでも放って来いよ。まあ、俺を傷つけることはできないがな!」
そしてどんどん放たれる魔法は増えていく。近くにいた冒険者巻き込まれないようにと避難をしだしたり、魔法で防壁をつくったりしていた。
「へっ、これで最後だ! 【ハイブースト・フレア】!!」
男は今までで放った魔法の中でも一際強力な魔法を放った。
炎は段々と大きくなり、地面を焦がしながらトジカへ迫っていった。
男はさすがに調子に乗ってやりすぎたかなと考えたが、これで自分の強さが広がるならそれでいいと考えた。
一方のトジカは逃げようとはしなかった。確かにすごそうだ。こんなの食らえばひとたまりもなさそう。そう考えたうえで避けなかった。というよりも彼女にとって攻撃を避けるという行為は不要なことだった。
炎がトジカへぶつかり一気に燃え上がる。魔法で防御したとしても普通の人であれば大けがを負ってしまうだろう。だが……
「ありゃりゃ、殺しちゃったかな? 俺が強すぎたか~。ごめんね~」
「おい」
「なんだよガキに負けた、グ・リ・ズ……」
「防御を取っておけ」
「あん? あっ、もしかして今度はお前が相手してくれんの? いいぜいいぜ来いよ。あっ、だけど俺お前より強いからあの子同様殺しちゃったら」
「違う。あんなんで倒せるわけがないだろ」
グリズの言葉に男は答えることはできなかった。なぜなら吹っ飛ばされていたからだ。男は空中を奇麗に舞っていた。なぜ生きているんだと男は疑問に思ったが、おそらく自身の全魔力で何とかしてあの攻撃を防ぎ、グリズと話しているうちに静かに近寄って、自分に一撃を与えたんだろうと結論付けた。
男は着地し、トジカを見た。着ていた服はところどころ焦げていた。
「何とか生き残って俺に一撃お見舞いしたみたいだが、残念だったな。俺は無傷。お前は魔力ゼロ。俺の勝ちだなっ!」
「……」
「何とか言ったらどうだ」
「……ちょっと手加減しすぎたのです」
「は? 一撃入れただけで調子に乗ってんじゃねーぞ!」
周りにいた冒険者たちはさすがにもうやばいと男を止めようとしたが、男が怒り叫びながら再びトジカへ向けて【ハイブースト・フレア】を放つほうが早かった。詠唱がなかったため先ほどと比べれば威力はかなり落ちているが、それでも人を殺すには十分な火力だった。
トジカは男に向かって走りながら、魔法を天井へ蹴り飛ばした。
「ちょっと歯を食いしばってください」
そして、その光景に唖然としている男の顔面へ拳がめり込んだ。
「えっ、ちょまっ」
そう間抜けな声だけを残し、男は顔面を崩壊させながら扉の方へ殴り飛ばされた。
そのとき扉がゆっくりと開き、なんともひ弱そうな青年が入ってきた。青年は足元に転がる男と焦げ跡だらけの部屋を見て驚きながら、
「な、なにこれ?」
そう呟いた。
青年を見たノンは彼を見ると、
「カイリ君、こっち来て。あとトジカちゃんも」
トジカと青年――カイリを呼んだ。
二人が来ると、ノンは二人へ向けていった。
「これから二人には一緒に冒険者をしてもらうから」
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