ギルド長です
トジカが冒険者ギルドへやってきた日の夜、受付嬢――ちなみに彼女の名前はノンと言う――はギルド長室にいた。
部屋の奥には机が置かれ、そこに一人の男がいた。男の名はイノズ・サシン。「冒険者ギルド 獣の巣」のギルド長をやっている男だ。実力主義の冒険者たちをまとめる存在ということもありかなりの強さを持っている。
サシンは石を一個、一個積み上げており、今はちょうど十二個目が積まれたところだった。
「新人か~、久しぶりに入ることになるな。前入ったのはいつだっけ」
「半年前に三人入りました。二人は死んでしまいましたけど。てか、彼女本当に冒険者にするですか? 書類名前しか書いていませんよ」
「別にいいよ。どうせそれ、新しく冒険者になったヤツがすぐ死んだり、なんか問題起こしてここの評判を落とすのを防ぐためだし。彼女グリズ倒したんでしょ。なら十分実力はあるよ」
「それはそうですけど」
「じゃあ問題ないんじゃないの」
「いや、ですが彼女絶対なんかワケありですよ。絶対なんか変なことになりますよ。面倒ごとです」
「それは君の予測かい?」
「はい」
サシンは黙り込み、十三個目の石を積み上げようとする。ノンはそれを黙って見ている。
石と石が接触し、積み上げられた石が不安定そうに少し揺れ、そのまま崩れていく。石は机の上に音を立てて散らばっていく。サシンは何か閃いたような顔をして持っていた石を机に置いた。
「半年前に入った三人のうちの生き残りの一人、彼に彼女のことを監視してもらおう。それで何か怪しいことをしてたり、問題を起こしてたら報告してもらおう」
「大丈夫ですか? 彼、確かそこまで強くないというか、雑魚過ぎて実戦では戦えないレベルのはずですが」
「だからこそだよ。このまま弱いままってのはあまり良くない。新人冒険者はいつまでも新人のままではいけない。強くならないと。そして強くなりたいなら強いやつの近くにいて、そいつのことを観察する、それが一番だ。うん、監視と育成ができてお得じゃん」
「はあ、そうなんですかね? まああなたがそう決めたなら私はただそれに従い、決定を伝えるだけですけど」
「よし、じゃあローエス・トジカが冒険者になることを認める。ただしカイリ君と一緒に行動をすることで決定」
ノンは決定を聞くと、次に事務報告をしていった。サシンはそれを聞き終わると、
「ああ、そうそう僕もそのトジカちゃんに会ってみたいから、明日来たらここに連れてきて」
「はい、わかりました」
ノンは仕事が増えたことで不機嫌そうな顔になりそうになるのを抑えるが、声は不満そうに返事をし、部屋を出ていった。
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