因縁が生まれたのです
トジカが受付のところに着くと、そこにいた受付嬢が何やら面倒くさそうな様子で彼女のことを見ていた。
トジカは疑問に思いつつも、特に気にせず受付嬢へ話しかけた。
「冒険者登録をお願いするのです」
「あー、はいはい。えっと、……じゃあこれに諸々を書いて。説明は面倒だからこれをしっかり見てやってね」
受付嬢はそう言って書類を一枚取り出し、トジカに渡した。
トジカは書類に書かれていることを一通り見ると、名前だけ書いて受付嬢に返した。
「早いね。……あれ? ちょっと、出身地とか年齢とか、他にも色々書いてないところだらけじゃん」
「名前以外は任意って書いてあります」
「いや、まあそうなんだけどさ。えー、どうしよう?」
ここでは冒険者になりたい者には書類に記入してもらうことになっている。内容としては名前・出身地・年齢・戦闘経験・使える魔法などである。そしてそこから主に戦闘経験・使える魔法を参考にして冒険者に相応しいかどうかをギルド長が判断する。
つまりここでトジカが書かされた書類というのはギルド長が冒険者に相応しいかどうかを判断する大事なものであり、これがまともに書かれていない者は冒険者になることが難しくなる。特に戦闘経験・使える魔法が書かれていないなどもっての外であった。
受付嬢はそれを分かっていたからもう少しなんか書かせようと思っていた。だが彼女は生粋の省エネ人間であった。やることは増やさない。やるべきことだけやる。だからこそさっきもいつものをグリズのいびり、トジカのグリズ殴り飛ばしのことに何も言わなかった。
以上のことから彼女は、
「まっ、いいか」
トジカにもう少し何か書かせようとしなかった。
「ただしこれで落ちても私に文句言わないでね」
「文句なんか言わないですから、大丈夫です」
「そっ、じゃあこれで出しておくわよ」
「お願いします」
「それと早ければ今日のうちに結果が出るから明日も一応ここに来てね」
「分かったです」
トジカはそう言ってギルドを出て行った。
その頃グリズはようやく立ち上がることができるようになっていた。
そしてそんな彼へ、ひょろひょろとした男が近づいてきた。男は緑色の液体が入った瓶を差し出しながら、グリズへ話しかけた。
「良いモンくらったな。回復ポーションでも飲むか? 俺の新作だよ。試しに飲んでみろ。てか飲め飲め飲め」
「うるせぇ、マド。お前の作ったポーションなんか絶対に飲まねぇよ。どうせ今回のも何か変な効能が付いてんだろ」
「変なとは失礼な! 今回のは飲むだけで傷は急激に治り、その上見えないもの聞こえないものまで見えるようになる自信作だぞ! 効果は私で体験済み。見事なお花畑だった、いや食い物だったか? まあ、とても素晴らしいものが見えてくるぞ!」
「それ、ほんとにヤバイヤツじゃないか……」
「このポーションは通常とは違う作り方をしていてな!!」
「誰に説明してんだ? おい」
マドはポーションの説明を誰もいないところへかなり興奮しながらし始めた。いつもの発作である。その様子にグリズは呆れつつ、この男いつか国に捕まったりしないだろうかと不安を覚えた。
突然落ち着きを取り戻し、
「あれは見かけによらずかなり強そうだな。不意打ちだったとはいえお前を一発で仕留めるとは」
「急に落ち着くな! びっくりするだろ。……だがそれは違う」
「?」
「いくら俺でもガキみたいな相手だとしても警戒はする。その上でこれだ」
「それは恐ろしいな」
「それにしても彼女、ポーションの試飲してくれますかね。飲みますかね? 飲んでくれますかね? どうですがっ!」
さすがにこれ以上はなんかまずそうと思ったグリズは、また興奮してきたマドの頭へ拳を振り下ろし、無理やり止めた。その後マドを近くにいた冒険者に渡し、彼の家へ運ばせた。
そしてだいぶ回復したグリズは自身の定位置である扉の脇の椅子に座って呟いた。
「まあ、本気でやれば勝てると思うがな」
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