冒険者ギルドです
「すごいですね。人がいっぱいです」
アドベンへ入ったトジカは、周りを見渡し若干興奮しながら目を見開いていた。
アドベンはエヘイが言っていたように、冒険者の街と呼ばれるだけあって数多くの冒険者らしき人が行きかっていた。それだけではなく店なども賑わっており、食堂からはたくさんの笑い声が、武具屋からは値切りをしようとしているのか、数字を叫びあっている声が聞こえてくる。
「えっと、冒険者ギルドは大きな道をまっすぐ行って……」
トジカはエヘイから聞いた冒険者ギルドの場所を復唱しながら、人混みの中へ入っていった。
彼女の体は小さいため、人混みに流されそうになった。目的地にたどり着かないということが起きないように、彼女は自分のパワーを周りの人が怪我しない範囲で最大限使い、人混みをかき分けていった。
途中おいしそうな肉の焼ける匂いがあり、目的を忘れそれに釣られそうになったが、今の彼女は実は一文無しであったため、何かを買うことはできない。それに加え、さっきクッキーをたくさん食べたことで腹が膨れていたため、すぐに目的を思い出し、冒険者ギルドへ向かっていった。
トジカが道を進んでいき、ようやく人混みを抜けると目の前に少し立派な感じの建物が現れた。その建物は二階建てで、入口にはジョッキのイラストが書かれた小さな看板が吊るされ、その上にデカデカと「冒険者ギルド 獣の巣」と書かれた看板があった。
中からはここに来る途中に聞こえた声よりも騒がしい声が漏れ出していた。
トジカは扉を押し開き、中へ入った。
料理を囲み、ジョッキを片手に飲み食いをする人たち。隅のほうで武器の手入れする人。テーブルに倒れ込み眠る人。掲示板を見ている人たち。トジカはそれらを見渡し、奥のほうに受付と書かれた看板を見つけた。
すると突然、扉近くにいた大柄な男立ち上がり、トジカの目の前に立った。
「ここはガキが来るような場所じゃない。冷やかしならさっさと帰れ」
「冷やかしじゃないです。冒険者になりにきたんです。……それに私はガキではないです」
「その見た目でか! はっ、それはすまなかった。だが、お前みたいな奴が冒険者になれるわけがない」
男は子馬鹿にしたように笑いながらそう言った。
ギルドの中にいた人たちは、なんだなんだと視線を二人の方へ向けた。
「おっ、またやってる!」
「『大熊』グリズのいびり」
「お嬢ちゃん~、怖くなったらお家へ帰ってもいいんだよ」
「馬鹿、お嬢ちゃんじゃないんだってよ」
「あの身長で! ならますますやめといた方が良いだろ」
「だなっ!」
「「「あっはっはっ!!」」」
トジカを馬鹿にした空気は一気に広がった。
トジカはどうでもよさそうな顔をし、周りのことなど無視してさっさと冒険者になろうと、男――周りからグリズと呼ばれていた――を避けて、受付に向かおうとした。
だがそれをグリズはトジカの前に立ちふさがることで止められた。
「邪魔なんですが」
「おう、それは悪いな」
グリズはニヤニヤと笑いながらそう言った。
トジカが避けて進もうとする。グリズが立ちふさがる。避けて進もうとする。立ちふさがる。避けて進もうとする。立ちふさがる。避けて進もうとする。立ちふさがる。
いい加減イライラしてきたトジカは荒々しい口調で言った。
「なんなんですか。邪魔なんですけど。いい加減どいてください」
「そんなに邪魔なら無理やり退かしてみたらどうだ? 冒険者になりたいならそれぐらいできるだろ」
ギルド内に笑いが一気に噴き出した。
「あんな子供みたいなやつにグリズさんを退かせるわけがないでしょ」
「あんたも人が悪いな」
「ふんっ、黙っとけ。冒険者ならこれくらいできなきゃ務まらん」
トジカは足を肩幅に広げ、右手に握りこぶしをつくる。そしてしっかりと死なない程度のタメをつくる。そして次の瞬間、
「分かりました。じゃあそうさせていただくのです」
「あん? あがっ!」
彼女がやったことはシンプルだった。思いっきり殴り飛ばす。本当は顔を殴りたかったが、身長の関係で腹を殴った。
グリズは近くのテーブルへ殴り飛ばされていた。
それはサイレントウルフのときに比べ何倍もパワーを落とされた拳だったが、勢いは一つのテーブルにぶつかるだけでは止まらず、二つ、三つと巻き込んでいく。それらのテーブルにいた人ももちろん巻き込まれた。ギルド内に響いていた笑い声はいつの間にか消えていた。
「へ~……」
「えっ、何してんだグリズ……」
「……」
「『大熊』がこんな小娘に」
先ほどまでとは完全に空気が入れ替わっていた。グリズが一瞬でやられたことに驚き、戸惑う者。冷静に何が起きたかを見ていた者。そもそも興味がない者。面白いと笑う者。三者三様であった。
「うぅ、がぁっ……」
肝心のグリズといえば、かろうじて意識を失っておらず低いうめき声を上げてるものの、立ち上がることはできていなかった。
それを見たトジカは満足そうな顔で、
「スッキリしたのです」
と言うと受付へ歩いて行った。
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