ローエス・トジカです
着替え終わった少女はすぐに小屋を出て、街に入るつもりだった。だがなぜかまだ小屋の中におり、その上なんか甘くて、おいしくて、丸い形をして、サクサクしたモノを食べていた。その食べ物はさっき食べたサイレントウルフの肉の何倍も、いや比べるのもおこがましいいぐらいおいしかった。今まで少女が食べてきたものの中で一番と言っていいほどおいしいと感じていた。なんでも衛兵の手作りだそうだ。
少女の手はどんどんそれが盛られた皿へと伸ばされていく。そして手に取ったものを口に入れる。すると甘い味が口の中に広がっていく。サイレントウルフの肉の味など消し飛んでいた。
衛兵はそんな少女を微笑ましそうに眺めていた。
皿に盛られたものを全部食べると少女は満足そうな顔をして、
「食べ物ありがとうございます。おいしかったです」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるというものだよ」
衛兵はそう言うとしばらく黙り込んでしまった。少女は何もすることがなく退屈になってきた。その間衛兵は何か申し訳なさそうな顔をして、少女をチョロチョウロ見ていた。
「あの、そろそろ街に行きたいんですが」
「ああ、ごめんね、ただその前にちょっと悪いんだけどいくつか質問に答えてもらってもいいかな?」
「? いいですよ」
衛兵は書類とペンを持って、少女の前に座った。
「じゃあまずは、私の名前ね。私はジョン・エヘイ。君の名前は?」
「ローエス・トジカです」
「トジカちゃんね。トジカちゃん、君はどこから来たの?」
「あの森の向こうからです」
「何のためにこの街へ来たのかな?」
「冒険者になるためです」
「その歳でかい?」
「私、子供じゃないですよ。エヘイさん、人を見た目で判別しないでください」
「えっ、そうなの。……若い子がよく魔獣の森を抜けられたなと思ってたけど。じゃあもしかしたらちょっと失礼かもしれないけど年齢とか聞いても?」
「それは秘密です」
「あっ、そうなんだ……」
その後エヘイはトジカにどうでもいい質問を繰り返した。好きなモノは? 嫌いなモノは? 昨日は何をしていた? 昨日はどんな夢を見た? 今は何がしたい? そんな風にやっていって三十分ほど時間がたってようやくエヘイの質問は終わりを迎えた。
トジカはやけにどうでもいい質問が多く、そのせいで時間がかかったため、途中質問を無視して小屋を飛び出し、街に入ろうかと考えた。だがそれと同時にあのおいしい食べ物が皿に新しく盛られたため実行しなかった。
ちなみにあのおいしい食べ物は『クッキー』という名前のお菓子だとトジカは知った。
「いやー、時間かけてごめんね」
「良いのです。おかげでクッキーをたくさん食べれましたから。だけどこれ、何だったんですか?」
「ちょっとした調査……、みたいなもんだよ。最近ここらへんで邪教徒が出没してるみたいでね」
「邪教徒ですか?」
「そう、邪教徒。でねそういう奴らを街に入れてしまう前に入り口で邪教徒ではないかを確認をするっていうのを最近やってんだよ」
「そうなんですか」
「まあ、気にしなくてもいいよ。少し迷惑な人間っていうだけだから」
トジカとエヘイは少し話しながら街の入り口の前まで歩いて行った。
入口の所に着くとエヘイはトジカの前に立ち、姿勢を正して言った。
「ようこそ冒険者の街『アドベン』へ。トジカ、あなたの冒険者としてのご活躍をお祈りしております」
「はい、頑張るのです」
そうしてトジカはどんな面白いことが待っているのかと期待に胸を膨らませて、アドベンの入り口を潜った。
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