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衛兵です


「まずい……」


 少女はこんがり焼けたサイレントウルフの肉にかぶりつき、そう呟いた。

 口の中に広がる味は獣臭い上、粘り気のある苦い独特な肉の油のせいでお粗末にもおいしいと言えなかった。


「まあでも、久しぶりの食べ物ですし。……それにあの頃の食べ物に比べればましですね」


 少女はそう自分に言い聞かせながら、サイレントウルフの肉を食べ進めていった。ただし本当にまずいと感じたところは吐き捨てていた。

 そうやって食べ進めて1時間。少女はようやく完食することができた。

 吐き捨てた肉や骨、焼く前に無理やり剥いだサイレントウルフの毛皮は、近くに穴を掘り、そこへ埋めた。


「うぅ、まだまずい……」


 少女はまだ口の中で残り続けるサイレントウルフの肉の味を忘れようと無我夢中で走りだした。

 踏んだ地面には足跡が残り、目の前に現れた邪魔な木は腕で張り倒し、足でへし折っていく。途中魔獣に何回か遭遇したが、それに気づかず木と同じように張り倒されたり、へし折られていった。中には踏みつぶされてしまった魔獣もいた。そうしてどんどん加速しながら走っていき、ようやく肉の味が忘れてきたなと感じてきたとき、少女の目に頑丈そうな壁に囲まれた街が見えてきた。

 少女はスピードを落としていき、歩きながら町へ近づいて行った。

 

 段々と近づいていくと街の入り口のところに衛兵がいるのが見えてきた。少女は元気よく挨拶をしようとすると突然大声が聞こえてきた。


「君! どうしたんだそんな血だらけで! まさか魔獣の森に入ったのか!」


 少女は最初「どういうこと?」と少し考えてようやく今の自分はサイレントウルフの返り血を浴びたままであることに気づいた。

 衛兵は大声で叫び続けながら少女のもとへ駆け寄ってきた。


「どうして魔獣の森なんかに入ったんだ! そんなに傷だらけになって!」

「いや、これは傷じゃなくて」

「言い訳は良いから! 早くついてきて! 治療してあげるから!」

「そうじゃなくて」

「ほら、早く!」

「話を」

「もしかして歩けないのか! なら私が背負おう!」


 少女は少し勘違いをしている衛兵に背負られながら、彼の休憩所である小屋の中へ連れていかれた。


  *  *  *  *  *


「いや、すまない、すまない。まさか私の勘違いか」

「いえ、大丈夫ですよ」

「だが、まあ怪我がなくて良かった」


 小屋の中でいざ治療をしようとした衛兵はすぐに少女の体に傷はなく、ついている血が魔獣のモノであることに気づき、無理やり連れてきたことを謝罪していた。少女はそれに少し疲れたように返事をしていた。

 少女的にはこのまま街に入ってもよかったのだが、また衛兵のような勘違いをさせてしまわないように代えの服が欲しいと考えていた。


「あの、もしあればなのですが、何か着れるものはないですか?」

「替えの服だな。少し大きいかもしれないがあるぞ。少し待っててくれ」


 しばらくすると衛兵が服を持って戻ってきた。少女はそれを受け取り、服を広げサイズを少し確認し、そこまで大きすぎないことを確認した。そしてそのまま着替えようと、


「いや、待て待て待て!」

「ん、どうしたんです?」

「いや、どうしてそのまま着替えようとしているんだ! 私は男だぞ! 恥ずかしくないのか、というか私が恥ずかしい!」

「?そうですか」

「着替えを続けようとするな! 分かった私が出ていく。君は思う存分着替えなさい!」


 衛兵はそう言って顔を少し赤くしながら隣の部屋へ行った。

 残された少女は首を傾け、頭に疑問符を出していたが、すぐに着替えを再開した。

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