帰るまでがクエストです①
トジカは魔石を手でいじりながら、川で血を流すカイリを待っていた。
「多分大丈夫だと思うけど、割ったりしないでよ」
「大丈夫です」
そう言いながらトジカは魔石でお手玉をし始めた。
カイリは横目でそれを見ながら、服を洗っていった。ゴブリンの血は、時間がたつとなかなか付いた血が落ちなくなる上、臭いはかなりきつくなってくる。その臭いが好きだという人もいるが、カイリはそういう人種ではなく、そしてきれい好きな人間のため、入念に洗っていた。ちなみにトジカは汚れさえ落ちればそれでいいということだったから、洗うのがすぐに終わった。
「カイリ~、まだ~?」
「もう少しだけ待ってて。……よしっ、できた。トジカ、終わったよ」
カイリがトジカのほうを向くと、彼女は何やら警戒しだしていた。
「どうしたの?」
「多分いるのです。……二体、いや四体、こっちを狙ってるのです」
その言葉でカイリの体に緊張が走った。さっきのあれはカイリが気づく間もなくトジカがさっさとゴブリンを倒してしまったため、あまりに現実感がなく何も感じなった。だが今はそうではなかった。いるというのがわかってしまった。しかも四体だ。たとえトジカがいくら強くても、四体が一斉に襲いかかってきたら、自分のほうにも来てしまうだろう。そしたら、もしかしたら死んでしまうかもしれない。
カイリは死ぬかもしれないという想像がさらに想像させてしまい、体が震え、顔色も悪くなり始めてしまっていた。そして呼吸も荒くなり、目が回り始め、
「カイリ、大丈夫です」
だがそのときカイリの肩に手がのせられた。
トジカはカイリの前に来て、彼の肩へ手をのせ、笑っていた。
「カイリは私の仲間です。だから私がしっかりと守るのです。だからカイリはそんな顔をしなくても大丈夫なのです」
のせられた手は特別暖かくはなかった。だが、今の彼にとってそれはとても頼もしく暖かく感じられた。そして少しずつ彼の顔色は元に戻っていった。
そのとき、ミシッという音が川の向こう側にある林から聞こえてきた。
トジカはカイリから離れ、音の林の反対側である、道のほうを見た。
「えっ、トジカ、音がしたのはそっちじゃないよ」
「そうですね。……だけどいるのはこっちなのです。変な気配がこっちからするのです」
そう言うとトジカは足元にあった石を何もいない道のほうへ投げた。
投げられた石は空気中で止まり、何かの悲鳴が鳴り、地面に落ちた。
するとさっきまではそこにいなかったはずなのに、何か煙が出たかのように空気が歪むと四体の魔獣が出てきた。
先ほどの音は魔獣の魔法によるおとりの音だった。
魔獣は馬のような体で、爪は鋭く尖り、頭蓋骨のような顔を持ち、口からは細長い舌が垂れていた。トジカの投げた石が当たったであろう魔獣は、少し興奮しているのか、息が荒くなっていた。
「キメラホースだ……」
「キメラホースですか?」
「そう、キメラホース。自分の体の色を自在に変えられ、しかも魔法が使えるタイプの魔獣だ。……だけどキメラホースはここら辺にはいないはずなのに、どうしているんだ……」
「なるほどです。ではさっさと倒しますか」
そう言ってトジカは石を何個か拾ってポッケヘ突っ込んだ。
「いや無理だよ! いくら君が魔法無しでも強い規格外だとしても、これは無理だよ! それにそいつの舌には毒があるんだ……肉弾戦の君とは相性が悪い!」
「そうなのですか、了解なのです。カイリは安心して見ててください」
トジカはまず石を一つキメラホースたちに向けて投げた。石は当たらず、回避される。そしてキメラホースたちがトジカへ向けて走りながら、猛毒の舌を伸ばす。トジカはそれを最低限の動きで避けていく。
キメラホースが吠えると衝撃波が発生し、トジカに襲い掛かった。彼女はそれを空気を殴ることで衝撃波を発生させ、相殺させた。
そしてトジカは石を取り出し、投げていく。あまりのスピードで投げられるため、キメラホースは完全に避けることができず、石が当たっていく。石はキメラホースを貫き、命を奪っていく。
「すごい……」
カイリはそれしか言うことができなかった。
そうしてあまり時間がたたないうちに最後の一匹が倒れた。
トジカはカイリの方へ振り向くと誇らしそうに言った。
「ざっとこんなもんなのです」
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