未知の世界(2)
外の空間は薄暗くまた静寂に包まれていた。
ノリ「化け物のような力だ」
見つめている両手をぐっと握ったり開いたりして呆然としていた。運よく周りには人間の気配がない。
どうやらここは下水道のようでここに謎の紋章の軍団は遺体を遺棄しているようだった。左右を見ると先ほどノリタケが閉じ込められた部屋のようにドアを密閉された部屋が並んでおり、中からは死臭が漂っていた。ここでノリタケは気づく
ノリタケ「嗅覚が、鋭くなってる?」
それだけではない、聴覚は1キロ先の水滴が落ちる音すら聞き逃さず、視覚は壁の隙間の隙間まで見ることが可能であった。
ノリタケは身震いをする。己が本当に得体のしれないものになってしまった。少なくても人間ではない。ノリタケは走り出した。
水滴の音がする方向へ行くとやはり水が通る通路へ出た。ノリタケは恐る恐る水面を覗き込む、そこにはノリタケではなく獣が映り込んでいた。毛むくじゃらな顔、鋭い眼光、突き出している鼻と口、頭上に反り立つ耳それはまるで
ノリタケ「オオカミ…?」
そう、まるで膝立ちをしているオオカミがそこには映っていた。
ノリタケ「…獣人?」
この世界の人族にはいくつかの種類が存在し、獣人はそのうちの1つである。彼が知る限りの獣人の特徴は集団行動の特性がなく、知能を持つものもいるが、物によっては他種族どころか同種族と意思疎通が出来ない、更にその場合思考は人間より獣のほうが近いので近寄ると襲ってくることがあるということのみであった。
ノリ「な、なんで…」
ノリタケは頭を抱える。ヒュマニが突然獣人になるなんて聞いたことがなかった。しかも魔素を使って幻影を作るというわけでなく骨格から変わるだなんて。ノリタケは両手をついてうなだれる。そして自身の更なる変化に気づいた。水が、青く見えないのだ。それだけではない、世界全てが白と黒にしか見えない。いままでは長い間暗い世界にいたせいで、もしくはこの建物自体が白と黒のみしか存在しないのではないかと考えていたが、そうではなかった。ノリタケの世界には色彩が失われてしまったのだ。
ノリ「…ア、アマリア、アマリアならきっと…何とかしてくれる…そうだ、そうだよ…」
ノリタケはゆっくり立ち上がり歩き出す。己の帰るべきあの場所、わが家へ。
下水道内にはやはり見張りなどいなかった。当然であろう、ノリタケはいままで死体か害虫、ネズミにしか出会っていない。おそらくここはそういう場所なのであろう。ノリタケ達を襲った被虐な殺人集団、そしておそらくノリタケの体をこうしてしまった原因、もしくは故意でこうしたのか、現段階ではノリタケには何もわからない。しかし、ノリタケはあの瞬間、空間は忘れもしない。どんな格好をしていたか、そしてあの紋章、あれは明らかにノリタケもどこかで見たことがある紋章であった。だがノリタケはいかんせん学問を学んだことは生きている間にこれっぽっちもない。なぜなら脳が受け入れないからである。戦いのスキルもすべて体で覚え、何回も傷つきながら身に着けてきたそんなノリタケが紋章の一つ覚えているはずもない。しかし逆に考えると頭が悪いノリタケでも記憶にわずかに残っているほど有名な紋章、少し探ればわかるはずである。そしてノリタケは瞬間的な記憶力は良い、このためノリタケはアマリアに会い、この紋章を見たことないか聞いてみようと考えていた。会えればの話であるが。
風の音が大きくなる。
ノリ「外?…外だ!」
ノリタケは走り出す。ようやくこの薄暗くじめじめした死臭だらけの空間から抜け出せる。それだけでもうれしかった。また何より今、自分は生きている。アマリアの約束を少なからず守ることが出来る。ノリタケはなりふり構わず風の音がするほうへ走りだした。その瞬間…壁の一部が吹き飛んだ。
ノリ「うわっ!?」
ノリタケはその勢いで吹き飛ばされ、壁に全身を打ち付けられる。
ノリ「う…、い、いてぇ」
ノリタケはゆっくりと視界を上げる。そこには、魔物がいた。
ノリ「え…な、なんでここに」
魔物とはノリタケやアマリア、村の人々が特に恐れており、アマリアが常に結界を張って村を隠し続けるためにあの家を離れらなかった原因である。
ノリタケは茫然とした。魔物は森の中でしか見たことがなく、こんなところで遭遇するとは思ってもいなかった。しかしそんなに長くぼーっとはできなかった。魔物が咆哮を上げる。ノリタケは条件反射のように走り出す。ノリタケにとって魔物は天敵、まともに向かい合おうとは考えなかった。魔物は追いかけてくる、しかし角を曲がった瞬間、そこには出口があった。ノリタケは下水道から飛び出す。そこは森であった。森はノリタケのフィールドといっても過言ではない。更に今のノリタケには人間離れした身体能力がある。あっという間に魔物を撒いていった。
ノリ「あ、あぶなかった。」
ノリタケは胸をほっとなでおろす。しかし安心したのもつかの間、
「ごぉぉぉぉ」
地響きのような咆哮が聞こえる。振り向くと魔物がこちらに向かってくる気配がした。しかし、様子がおかしい。明らかに動きが遅いのだ。ノリタケは木に登って様子をうかがう。そこには魔物がいるがなぜか足を引きずっているかのように歩いており、時折転倒している。
ノリ「…チャンスか?」
ノリタケは魔物の真上の木に飛び移る。魔物はさまざまな種類、形態がある。今回目の前にいる魔物は人型で人型のものは人間の数倍の大きさ、力を持っているが弱点も人間と同じ、つまり頸椎さえ当てられれば今のノリタケであれば簡単に殺せるはずである。
ノリタケは深呼吸をした。手の震えが止まらない、怖くて仕方がないのである。しかし、ここで倒さなければこの先この魔物が何人人間を襲うかわからない。
ノリタケは静かに飛び掛かり、魔物の頸椎に向けて噛みつく。しかし、簡単には歯は通らなかった。魔物は暴れてノリタケを振り飛ばす。ノリタケは何とか受け身をとりながらすぐに立ち上がって魔物を見る。その時には魔物はもう目の前に来ていて掴みかかってきた。ノリタケは必死に飛びのけて避ける。そしてすぐに体制を立て直して魔物のほうを見ると、また転倒をしていた。
ノリ「いまだ!!」
ノリタケはまた魔物に飛び掛かり背面にしがみついて頸椎に噛みつく。魔物は爪を立てながらノリタケを引き剥がそうとするが、ノリタケはどんなに傷つこうが離さない。
メリィィ!ブチィィ!と音を立てながら魔物の皮膚が引き裂かれる。そして止めにノリタケが頸椎に直接歯を立てるとそこから黒い液体が噴き出し、魔物の体がしぼんでいく。丁度人間サイズまでに。そして、魔物は動かなくなった。
ノリ「し、死んだ…のか?」
ノリタケはゆっくり慎重に魔物に近づく。すると、違和感あるものに気づいた。魔物はずっと片足を引きずっていた。その原因が判明した。魔物が引きずっていたであろう足には木製の環がはめられていた、そう、アンクレットである。その瞬間ノリタケに衝撃が走った。このアンクレットにはとても見覚えがあった。何度も何度も掘りなおし、ようやくうまくいったこのアンクレット、これは
ノリ「…カコに、カコにあげたはずの…」
そう、ノリタケがカコにプレゼントした、決して切れることのない、決して他には存在するはずのないノリタケが作ったレッセンジャスの木のアンクレットであった。
だいぶ久しぶりのような気がします笑
最近忙しくて書けませんでした。
次はいつになるかわかりません笑