第一章 冒険のはじまり 1.未知の世界
静寂の世界。それは自然から生成される普段人間が認知することがないような音、風が草葉をなびかせる音、水が滴りおちる音でさえも響かせる、そんな神聖なる空間。ノリタケはそんな世界に一人存在していた。暗闇で周りには人はいない。いるとしたら地を這う虫、死肉をむさぼるネズミ、そして、そこら中に転がる腐敗した人間の死体の数々のみである。
お世辞にも衛生環境が良いとは言えない空間であった。ノリタケはゆっくり起き上がろうとするが、何かにそれを憚られる。ノリタケは現在意識が朦朧とし、現在自分が置かれている環境をすぐには把握できるような状態ではなかった。しかし時間がたつにつれ、ゆっくりと意識が回復し、そこからまるで鈍器で殴られたかのような頭痛、または全身を切り刻まれたかのような痛みを認知した。
ノリ「いってえ…」
ノリタケはゆっくりと片手をあげてみる。小さな噛み傷だらけだ、おそらくネズミの仕業であろう。感覚的には違和感はあるが何とか動くようだ。しかし、そんなことよりも気になることがあった。通常なら暗くて見えづらくとも少し毛の生えた肌色の肌が見えるはずなのだが、
ノリ「なんだ?この毛」
そう、ノリタケの腕は茶色い毛で覆われていたのだ。それだけではない。まるで岩のようにごつく大きな手に、小さいナイフが五本くっついたかのような爪、人間のものとはとても思えないような腕らしきものが見えたのだ。
ノリ「こ、これは…。」
ノリタケは動けなかった。頭痛も全身が思うように動けないのもあったが、自身がもしかしたらもう人間ではない、それも自身が見たこともないような生物になっているかもしれないという未知の不安、恐怖に囚われてしまっているのだ。
ノリタケの目からはまた涙があふれる。これは現実なのか、果てしない悪夢の中ではないのか、いつ夢から覚めるのか、そんな考えが延々とノリタケの頭の中を回り続けた。
しかし、考える間に頭は次第に冴えていき、ここは現実であるということをノリタケ自身に思い知らせていく。ノリタケは何も考えられなくなっていった。考えれば考えるほど辛くなり、ふと爪を見ては考えてはいけないことが頭によぎってしまう。しかし、彼は死ぬ、自害するという選択肢だけはないと、強く考えていた。考えることが出来た。なぜなら、
ノリ「アマリア…。アマリア、会いたいよ。」
頭の中には彼女の姿が、顔が、笑顔が、浮かんでくるからだ。彼女と約束した、決して一人にはしない。それだけが現在彼の唯一の心の支えとなっていた。
ノリ「……帰ろう、家に。」
ノリタケはゆっくりと体を起こす。真っ暗で自身の体はよく見えないが、やはり現在自身の体は人間とはかけ離れた作りとなっていることが改めてよく分かった。
足が異様に長く、脛、太ももがしっかりしていて、他の動物に例えるならまるで狼の足で二足立ちしているかのようだった。
しかし、自分の体をしばらく観察している間にもう一つ大きな変化に気づいた。現在いるこの空間には照明が存在しない上に明かりが入ってくるような窓一つない。そう、明かりがなくても己の体が見えているのだ。つまり、己の網膜にも何か変化があったということ。
ノリ「これは…、本当に俺なのか」
自分で不安になるほどの変わりようであった。アマリアに自分だと気づいてもらえるか、それがなによりの不安であったが、ここにいては何も変わらないとノリタケは動き出すのであった。
ノリ「これは…すごいな。」
己の両手を眺めながらノリタケは現在自分のポテンシャルに驚かされていた。自分というかこの体といったほうが正しいものであるが。
ノリタケはとにかく目覚めた空間から逃れようと手探りで扉を探った。いくら夜行性動物の目らしきものを手に入れたとはいえ、すべてが明るい状態のように見えるわけではない。ぼんやりと物の輪郭しか見えず、半径1 m以内でないとはっきりとは視認できないのである。
それでもノリタケは少しの隙間を何としてでも見つけ出そうと必死に探り続ける。すると、一瞬何かに爪が入った。そう、わずかながらに隙間があったのだ。ノリタケは必死にこじ開けようとする。しかし、どんなに爪を突っ込もうとしても向こう側には届かない。ノリタケはだんだんイライラしてきた。暗みによる恐怖感、ここから出られないのではないかという焦燥感、これらがノリタケの冷静さを奪っていく。
ノリ「ああ!くっそ」
耐えきれなくなりノリタケはこぶしを振りかぶる。そして振り下ろした瞬間、地響きがした。ノリタケは驚きさっと頭を抱えるが、待ってもハウンド以外何も起こらない。すっと頭を上げると驚くことが起こっていた。細く少ないながらも光が差し込んでいるのだ。
ノリ「ま、まさか…」
ノリタケは深呼吸をして立ち上がる。光が漏れだす壁の前に立って正面を見据える。ようやく希望が見えた、その光はノリタケにとって天からの導きにしか見えなかった。
ノリ「アマリア、今帰るよ」
ノリタケは深呼吸をする、そして最後に大きく息を吸い、
ノリ「うぉぉぉぉぉーーーー‼」
全体重をこぶしにのせて壁を殴った。
ノリタケはすぐには目を向けられなかった。この光は本来弱い光であるはずなのに今のノリタケにとってはまぶしくて仕方がなかった。
ようやく第一章が始まりました、長かったですねー笑
しかしまだまだ冒険は始まっていません!ここからどんどん広大な世界が開けていくはずです!
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