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愛の物語 If~未来の僕たちへ~  作者: タムタン
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試練 2

息切れが止まらない、まるで全身の血が煮えたぎっているかのようだ。しかし、体は、足は、止まらない。動悸で心臓が壊れそうだとしても。


ノリタケ「うそだ。」


ノリタケは思考が回らない、口からは同じ言葉しか出てこない。まるで壊れたおもちゃのように。


ノリタケ「うそだ、ウソだウソだウソだ、嘘だ‼」


ノリタケは両親から教わった隠密術や技術、教えなど脳から放り出していた。あそこにはノリタケにとっての全て、友、家族、仲間がいるはず。必死に冷静になろうとも、思考を回そうとも、現在のノリタケは最悪な想定しかできなかった。もし、本当に村が火事だったら、もし極悪非道の山賊どもから襲われているとしたら、もし魔物の仕業だとしたら、もし、アマリアの身に何かがあったとしたら。


ノリタケ「はぁはぁ…、いや!!」


突然ノリタケは全力で頭を振る、頭の中にまとわりつく思考を振り落とすかのように。そしてまっすぐ、前を見据えつぶやく。


ノリタケ「きっと、きっと大丈夫だ‼みんな、きっと…。」


ノリタケは過去に絶体絶命な状況に陥ったことが幾度となく存在する。しかし、ノリタケは今、生きている、何とかなっている。その経験がノリタケを少しばかりか冷静にさせる。

只々頭には家族同然の村民、タクジ、マナコ、カコ、そしてアマリアの顔を思い浮かべ、彼らの身の安全を信じて走り続けた、何よりを速く走り続けた。運命のいたずらか、それが絶望の始まりとなるのを知らずに。



ノリタケは口から臓器が飛び出そうであった。それはまるで風のような速さで木々を抜けていることもあるし、村の危機からくる緊張、恐怖諸々で精神的、身体的に大きな不快感をもたらす。ノリタケは今、そんなものは気になっていない。一刻も早くあの煙の正体、そして原因を探ろうと走り続ける。この森を抜けるにはノリタケの身体能力をもってしてもある程度時間がかかる。ノリタケはやみくもに走り続けるが、なかなか外の光が見えない。ノリタケは己の勘に頼り、視覚より聴覚、聴覚より嗅覚を頼ってとにかく走った。前は見えなかったが、早く進めるような気がした。しかし、前が見えないこと、事実をすぐには視認できないということ、後にそれがほんの一瞬の休息、安らぎであったということを後々気づくこととなる。急に木々がなくなった。ようやく森を抜けることが出来たのだ。しかし、妙に明るい。もうとっくに日が暮れているはずなのに。ノリタケは重さを感じながらも息を整えながら顔を上げる。ノリタケの目に入ったのは鮮やかに入り混じる赤とオレンジのコントラスト、そしてそれに覆われる見慣れた村であった。


「ノリタケ‼」


いつも聞きなれた、とても安心する、しかし不安にさいなまれているような声が聞こえてきた。アマリアだ。その瞬間、ノリタケは少しだけ不快感が和らいだ。


ノリタケ「アマリア‼」


ノリタケは必死に声の元へ走り出す。そこには家にたたずむアマリアの姿があった。


アマリア「ノリタケ‼」


アマリアも一瞬家を離れるか迷いながらも耐えきれずノリタケのほうへ駆け出す。ノリタケは必死にアマリアに抱き着き、不安に涙を流した。アマリアはそんなノリタケの頭をなで、そして村のほうを眺める。


ノリタケ「村で何があったの?」


ノリタケは少し落ち着きを取り戻してアマリアの目を見る。アマリアはノリタケを落ち貸せようと優しく微笑みながらも焦燥感が隠しきれていない。


アマリア「わからない、ここからでは見えないわ。突然村から火が上がって、でも私はこの家から離れては魔物から村を守れないし。」


ノリタケはうつむいた。そして意を決したかのようにもう一度アマリアを抱きしめ、そして立ち上がった。


ノリタケ「僕が村を見てくる。」


ノリタケは不安だった。いままでの生活、日常が崩壊してしまうことが。しかし、何より大切な村の人々の命の危機、じっとしてはいられなかった。アマリアは血相を変えて止めようとする。


アマリア「そんな、危険よ!」


ノリタケ「仕方がない!!」


ノリタケと同様にアマリアも不安で押しつぶされそうだ。長年寄り添った村が今まさに焼失しつつあり、ここに縛り付けられるのももどかしくて仕方がなかった。その中で冷静さも失ってしまっている。


ノリタケ「僕は大丈夫だから、アマリアはここで魔物から守ってくれる?」


ノリタケはアマリアに諭しながらも全身に水を浴び、村に向かう準備を進める。


ノリタケ「みんなが無事だったらここを避難場所にしなくちゃいけないしね」


ノリタケは息を整える。


アマリア「いや…、いや‼もう、いなくならないで‼」


アマリアは泣き叫ぶ。その声にノリタケは振り返った。こんなアマリアは初めてである。


アマリア「もう嫌なの、いつも私の大切な人たちはそうやっていなくなる。もう、一人は嫌なの…」


アマリアは膝をついて泣き始めてしまった。アマリアは長い間存在し続けているが、常に人間のそばにいたらしく、その人間たちは皆急にアマリアの前から消え失せていったそうだ。彼女の何より恐ろしいものは孤独、その恐怖に彼女は柄にもなく冷静さを失ってしまっていたのである。


ノリタケ「アマリア」


ノリタケは膝をつき、もう一度アマリアを抱きしめる。アマリアはまるで小動物のように震えていた。こんな時でもノリタケはアマリアのことを愛おしいと思った。


ノリタケ「僕は違うよ、絶対にいなくなったりしない。危なくなったらすぐに逃げるから、お願い、行かして。」


アマリアの耳元でそっとささやく。ノリタケはアマリアを一人にしないと昔から心に誓っている。今も例外ではない。もし最悪な事態が村に起こっていたとしても、ここに二度と住めないようなことが起こっていたとしてもアマリアのそばからは離れないと誓っている。


アマリア「…それなら」


アマリアはノリタケを離し、ノリタケの胸にそっと触れる。その瞬間全身が暖かくなり、血の巡りを感じられた。その瞬間アマリアの体は半透明となり、実体がなくなった。


ノリタケ「アマリア!?何を…」


アマリアはノリタケの口に指をあてる。


アマリア「なんともないわ、少し多くの力を使っただけ。待てばすぐに戻るわ」


とアマリアはそういいながら体を小さくする。すると実体が空間へ戻った。


アマリア「ノリタケ、あなたはまだ若いし未熟よ。危ないと思ったらすぐに逃げなさい、そして助けを呼びなさい。かならず私が助けに行くから、絶対に。」


ノリタケ「うん、わかった。でもなるべくここを離れないで。」


アマリア「ええ、わかっているわ」


アマリアは不安げながらもノリタケに微笑む。


アマリア「行ってらっしゃい、ノリタケ。」


ノリタケも微笑み返す。そしてノリタケは振り向くことなく村へ駆け出した。





ここの辺りでこの物語の空気感が分かったかもしれませんが、全部こんな感じというわけではありません笑

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