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愛の物語 If~未来の僕たちへ~  作者: タムタン
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試練 1

 あまり優れぬ天候であった。神の化身とされる太陽が顔を隠し、突き抜けるような青い空を雲が覆う。若者三人はいつもの通り村の畑を手伝っているのに対し、ノリタケは彼自身の日常へと戻ることとなった。ノリタケは生まれつき身体能力に恵まれており、村の中でもトップクラスの筋力を持つ。そのため、ノリタケの仕事は森の中で狩り、木材や木の実などの資源採取など自身の身体能力や筋力を生かした仕事を行っている。しかし、森の中にはノリタケ一人では太刀打ちできないような魔物が散在する。そのため、毎度アマリアに全身に時間制限付きの認識阻害の魔法をかけてもらい、更にノリタケ自身が自分の気配を一切消して最大2時間以内には村に帰るという命がけの役割をノリタケは毎日のように果たしている。この役割は両親から引き継いだものであり、ノリタケの父と母はノリタケが幼いころに森の中で帰らぬ人とになってしまったが、ノリタケはそんな二人を誇りに思いながらこの役割を一人で全うし続けている。


アマリア「完治したら早速行くのね」


アマリアはいつものようにノリタケに認識阻害の魔法をかけながらため息をつく。アマリアは彼の両親の代から見守り続けているが、二人が帰らなかった日を今でも忘れられずにいるようだ。


ノリタケ「仕方がないよ、これは僕しかできないことだからね。僕以外が行ったらこの前みたいな怪我なんかじゃすまないだろうし、それにこの仕事は父と母の形見だしね」


ノリタケはアマリアに優しく微笑みかけ、前回の二の舞にならぬよう今までよりさらに入念に準備を進める。


アマリア「私が攻撃できるような手段を持ってたらな、役に立てるのに」


ノリタケ「そしたらアマリア消えちゃうかもしれないんでしょ?いやだよそんなの」


先ほど述べたようにアマリアの体は魔素でできている。そのため、認識阻害やシールドなど魔素のまま展開できるものは簡単に使用できるのであるが、魔素を別の分子に変化させる攻撃手段での魔素の使用はアマリア自身もその分子に変化してしまう可能性がある大変リスクの高い行為なのである。ノリタケ自身は使用している光景を目撃したことはないのだが、生前ノリタケの両親が目撃した際は一度使っただけでアマリアの体が半透明になり、その日1日は意識が戻らなかったという。


ノリタケ「僕は君がいるこの家に帰りたいと強く思っているからこそ生きて帰れているんだよ、この前だってそうさ。だから、君はこの家でいつもの通り待っててよ。」


ノリタケは荷物を腰に巻きながら恥ずかしげもなしに言う。そんなノリタケにアマリアは少しあきれながら笑う。


アマリア「そんなことを言える元気があるなら心配はいらないわね。」


ノリタケ「そうさ」


ノリタケも大きく笑う。それに反応するかの如く外からマロが吠える。まるで幼い子が早く行こうとぐずっているかのようだ。


アマリア「ほら、マロも言ってるわよ。じゃあ、さっさと行ってちゃっちゃと帰ってきなさい。今夜の夕飯は特別メニューだからね。」


それを聞いてノリタケは嬉しそうに笑いかける。


ノリタケ「本当かい!?じゃあ早く帰ってこなきゃなぁ」


それをきいてアマリアも微笑む。


アマリア「じゃあ、行ってらっしゃいノリタケ。」


ノリタケ「うん!いってきますアマリア。」




 その日の狩りはとても順調だった。最近はノリタケが狩りに来ていなかったからなのか、ノリタケが普段よく狩りスポットにしている箇所に多く動物たちがいた。しかしここで慌ててはいけない、欲張ってはいけない。多くの動物たちがいるからこそ多くの目があり耳がある。ノリタケは警戒しながらできる限り群れに近づいてナイフを構える、そして彼らが気付かないうちにノリタケの手中である。

 これはアマリアの認識阻害の魔法とノリタケが両親から受け継いだスキルがあるからこそできる技である。しかし、難しいのはここから。この森には先述したようにノリタケでは手に負えないような恐ろしい存在が点在する。それらに襲われる可能性が高いのは獲物ともみくちゃになり、大きな音を立てながらも周囲の警戒をおろそかにした時である。前回ノリタケもその時に出会ってしまい、命にかかわるような大怪我をしてしまったのである。

 今回は前回の反省を活かし、群れのそばに来てもまだ取り掛からない。群れの中の一体が集団から少し離れ、ノリタケの前を通り過ぎた瞬間にとびかかる。獲物は暴れるがノリタケは放さない。確実に締め上げ、大人しくなったところをノリタケが獲物の首筋にナイフを立てる。完璧な仕事だ。

 周囲にはほかの獲物はいなくなってしまったが、他の気配もない。ノリタケは獲物の解体を始める。その場で血抜き、乾燥をしている間にノリタケは次の狩りに移り、その間獲物はマロに見はってもらうという寸法だ。マロが狩りをするのもいいが、彼の狩りは少々粗削りで目立つ上に見た目は大きいが実際は1歳にならない程度の幼く未熟な子供なためあまり正確なものではなかった。その為今現在はノリタケが主に狩りをし、マロは見張りという役割分担を行っている。しかし今現在マロの姿が見当たらない。


ノリタケ「マロ?」


普段はマロが見張り場所から離れるということはないが、今回は異例であった。


ノリタケ「どこ行ったんだあいつ。」


 姿の見えないマロを少し心配に思いつつ獲物を回収し、村に帰る準備をする。川辺でナイフの血を落とし、清潔なタオルでふき取る。これはアマリアから祝福を受け、両親から受け継いだ大切な形見のナイフだ。ノリタケはナイフを大切に磨き、腰に収める。


ノリタケ「さて、帰るか。」


 時間はもうすぐ2時間を経過しようとしている。結局マロは戻ってこなかった。だが探しに行ってはいけない。アマリアの魔法はもうじき解けようとしているし、もしかしたら親元に帰ったのかもしれない。寂しいものであるが、ノリタケは1人で帰ることとした。この前大怪我をしながら村へ帰った際、ノリタケは大きく後悔したのである。村のみんなやアマリアの心配そうな顔、そして村のみんなへの肉の供給を途絶えさせてしまったこと。そのときノリタケは自身の体が自分だけのものではないと痛感したのである。


ノリタケ「マロ――!!」


 ノリタケは一度だけ大きな声で相棒の名を呼んでみた。暗い森林の中をノリタケの声がむなしく木霊する。

 本来この行為は危険極まりない行為である。しかし、ノリタケはマロを信頼しており、更に家族として愛情を注いでいたため突然の分かれを受け入れきれずマロの名を呼んだのである。だが、いくら耳を澄ませても、いくら返事を乞おうともなんの反応も起こらない。マロの声どころか危険な存在の気配や咆哮でさえも。ノリタケは諦めて帰途につくことにした。




人生とは不思議なものである。多くの人間は個人差があるが安定で規則的な日々を送り、それを不満に思うものがいれば満足に思うものも存在する。しかし、それがいつ終わりを告げるかは誰にもわからない。それは良い方向に進もうが、悪い方向に進もうが不変である。しかし、誰しもが安定の生活に終わりを告げたそのとき、その人間にとって大きな試練の時が訪れることとなろう。

ノリタケはいつも正確な方角大体の時刻太陽の位置


ノリタケ「……え?」


先ほどは優れぬ天気であったが、木を登り切った際には晴れていた。太陽の位置、村の方向を確認するには十分すぎるほどに。ノリタケが目撃したのはあと少しで隠れきる太陽が生み出した夕焼けに染まる美しい赤い風景を汚し、浸食するような黒い煙。それは焚火でも炊いているような細く弱弱しいものではなかった。

火元は間違えもしない、本来ノリタケが帰るべき愛しい故郷の方向であった。





ここから物語が大きく進んでいきます!

また、これは4話の前半なのですが長いため2つに分けて投稿します。

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