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愛の物語 If~未来の僕たちへ~  作者: タムタン
11/14

決意 (3)

今回ちょっと長いです!

ノリタケはアマリアに支えられながら立ち上がる。全身の傷はアマリアに治してもらったのだが、治療によって多くの体力を消費してしまい動けなくなってしまったのである。

アマリアが行う魔素による回復というのは少しリスキーなものである。仕組みというのがその人間の自治能力を急速に高めるだけのものであり、その際のエネルギーや皮膚などを構成する成分も体内のものを使うため、大怪我であればあるほどリスクが高まり、最悪エネルギー切れで死亡する事例もごくまれにある。しかし、今回の場合ノリタケは長い間大雨の中で出血し続けていたので出血多量の心配もあり行った。その結果、不幸中の幸いなのか今のノリタケには通常のヒュマニでは考えられないほどの体力があり、魔力による回復にも耐えることが出来たのである。

アマリア「ノリタケ…ほんとに大丈夫?」

ノリタケ「ああ、どうやらこの体見た目以外は便利みたいだ。少し休めば歩けると思うよ」


ノリタケはなるべくアマリアに負荷をかけないよう自分の足で立とうとする。アマリアは実体を持つことはできるが、保ちながらノリタケの体のような大きく重いものを支えるのに多くの魔素を必要とするらしい。しかし、急激に体力を使った後でノリタケもさすがに動けないのであろう。二人そろってしりもちをついてしまった。


アマリア「どうしよう。ここじゃ危険よね」

ノリタケ「……いいや」


ノリタケは耳をそばだてる。


ノリタケ「静かだ、人の足音や魔物の気配はしない。大丈夫そうだよ」


ひとまず安全だとわかり安心した二人はひとまず移動することをあきらめ、腰を落ち着けた。風にあおられた葉の音色が二人を包み込む。二人とも口を開こうとはしないがよりかかり合い、手をつないでいる。この長いのか短いのかわからない悪夢の中、二人は常に孤独で希望を何度と見失いそうになっていたがようやくできた再会によって今久しぶりにつかの間の安らぎを感じているのである。



少し長い時が経過し長い沈黙が続いた後、ついにノリタケが口を開く。


ノリタケ「アマリア、僕カコも連れていきたい。」

アマリア「…そうね、こんなところに一人はさすがにかわいそう。眠る場所は選んであげないとね」

ノリタケ「うん。よし、そうと決まれば」


ノリタケはアクロバティックに跳ね起き、そしてアマリアに手を差し伸べる。


ノリタケ「すぐにでも迎えに行かなきゃ、だね」

アマリア「あらまあ、元気になったようで何よりだわ」


アマリアは微笑みながら手を取り立ち上がる。

二人はノリタケの嗅覚を頼りにカコの遺体の元へ戻ってきた。先ほどと何も変わらない、体液が漏れているむごい遺体であった。しかし、ノリタケはそっと肩と腰であったであろう部位に手を回し、お姫様抱っこのように抱き上げる。アマリアは遺体の顔を覗き込み、そっと目を閉じさせ額にキスをした。すると足元に何かが落ちる音がした。


アマリア「ノリタケ、これって」


レッセンジャスのアンクレット、ノリタケがカコに挙げたものである。どうやら足の部分はだいぶ劣化してしまったらしくアンクレットを嵌めることもできなくなってしまったようだ。


ノリタケ「持っていこう、カコが最後までつけていてくれたものだ」


アマリアはアンクレットを大切そうに両手で包み込んだ。


しばらく歩いていると、突然アマリアは「わあ」と声を上げて駆け出した。ノリタケも後を追うとそこには首が痛くなりそうなほど大きい大木があった。レッセンジャスの大木である。この木の皮によってアンクレットを制作したのである。


ノリタケ「…ここって確か。」








10歳もいかないような子供たちが雨の森の中を駆ける。


タクジ「おいおまえらー!おそいぞ!」

マナコ「あんたもうちょい周りに合わせるってことできないの?!協調性を持ちなさい協調性を‼」


これは10年前、村を内緒で抜けだした頃のことである。タクジとマナコが誤って壺を割り、そして罪の擦り付け合いの喧嘩をしているところで仲裁していたノリタケが更なる大惨事を引き起こし、なぜかカコも一緒に逃げだしているところであった。この当時は村の外の危険性を全く理解しておらず、叱られまい、罰を受けまいと村から逃げ出してしまったのである。


ノリタケ「…はぁはぁ。二人とも待って、カコが…。」


あまり運動の得意ではないカコは木の根につまずき転んでしまった。そんなカコに気づいてノリタケは二人を止める。


タクジ「なんだよ、早く逃げないと母ちゃんたちにつかまっちまうよ」

マナコ「ていうかそもそも」


マナコはハンカチを取り出しカコについた泥をはたきながら続ける。


マナコ「カコは何で来たのよ。別に怒られることないじゃない」

カコ「だって…」


カコはもじもじしながら応える。


カコ「置いて行かれるなんて嫌なんだもん」


それを聞いた三人は顔を見合わせると腹を抱えて笑いだす。


カコ「なんで笑うの」


カコは少し赤らめむっとした顔にする。カコはシャイであるため機嫌を悪くしてしまった。それをマナコが気付いてカコの背中をさすり弁明しだす。


マナコ「いやいや違うのよカコ、あなた怖がりなのにいつも怖がってた森の中までついてくるなんてよっぽどのことがあるのかとおもったらね。ふふふ」

タクジ「くくく、そうそう。どんだけ俺らのこと大好きなんだよコノヤロー」


タクジはカコの頭をぐりぐりしだす。カコは必死にタクジの手から逃れ、ノリタケの後ろに隠れる。するとノリタケは優しくカコをなでながらなだめる。


ノリタケ「大丈夫だよカコ、置いてくなんて絶対しないよ。ずっとこの4人で一緒にいるよ。ね?二人とも」


ノリタケがタクジとマナコに問いかけるとマナコはにかっと笑って、タクジは少し照れ臭そうにうなずく。カコは嬉しそうに笑いながらノリタケの背後から離れ、二人に飛びつく。その様子を見てノリタケは微笑む。すると、ノリタケは何かに気づく。


ノリタケ「あ、あの花は…」


三人はノリタケの目線の先に目を向ける。その瞬間カコは駆け出しとても大きな木のほうへ向かい他の三人はその後ろに続く。カコは立ち止まると目を輝かせながら振り向いて三人に声をかける。


カコ「ねえ、みて!これキャメリの花よね!」


カコが立ち止まった木の根元には村の名産品であるキャメリの花が一輪咲いていた。キャメリは常に魔素を纏っており、傍から見るとほのかに光って見える。その光景がとても美しく、さらに特定の環境下でしか生息できないため現段階ではキャリメラ村でしか発見されていない。


タクジ「そうだな、こんなとこで自生してるのは珍しいな」

ノリタケ「それだけじゃない、この木ってレッセンジャスの木じゃない?」


ノリタケは首が痛くなりそうなほど大きい木を見上げる。すると少し脇にいたマナコが声を上げる。


マナコ「ねえみて!木の裏側‼」


カコが指示された方へ目線を向けるとそこには今まで見たことがないほど多くのキャメリの花で埋め尽くされた空間が存在した。辺り一面キャメリの花で沢山、これは人の手が加えられていない場所では信じられない光景なのである。カコは顔全体を輝かせ、更に駆け出す。


カコ「うわぁー!すごいすごい!こんなの初めて」


カコは嬉しそうに歌い、跳ねるように踊りだす。洗練されていないながらも愉快なステップ、村で行われている祭りで村民全員が踊るものである。すると、木々の隙間に風が流れ音を奏でだし、まるで花々が踊りだしたかのように花弁を揺らす。まるで森の音楽界に四人が招待さえたかのようであった。森の中は薄暗かったが花々が空間を照らし、雨は降り続いていたが木々が屋根となってくれた。マナコもノリタケもつられるように踊りだすがタクジは傍から見て笑う。


タクジ「あっははは!お前ら祭りじゃねえのに何踊ってんだよ、ダセえなあ」

マナコ「あらタクジ、べつに踊れなくても大丈夫よ~。私たち以外誰も見てないんだから」


マナコがタクジを煽るとタクジは顔を真っ赤にして「そんくらいできるわ!」と怒りながら三人の環の真ん中に割り込んで踊りだす。

木々の音に合わせて幼い四人が歌い花々と一緒に無垢な四人が踊る、そんな小さな音楽祭が続いた。すると突然声をかけられる。


「おやおや、森の音楽祭に小さな音楽家たちが参加しているぞ」

「楽しそうね、私たちも参加していいかしら」


四人は声の元に目を向ける。そこには武装した男女が二人立っていた。


タクジ「やべ!トオルおじさんとレイおばさんじゃん」

ノリタケ「父さん、母さん!」


そう、この二人はノリタケの両親である。トオルは屈強な狩人で昔は名の知れた冒険者でレイは弓の名手で昔国の弓兵として名を馳せていたようだ。


レイ「まったく、村の人たちが血相を変えてあなたたちがいなくなったって必死に探し回っていたというのに当のご本人方はずいぶん満喫していたようで」

トオル「まあまあ、いやでも」


トオルは周囲に目を走らせる


トオル「こんなところがこの森にあったとはなぁ、長年この森を探索しているとはいえ、まだまだ分からないことがあるんだなあ」

レイ「確かにねぇ」


レイは腰に手を当てながらうなずく。そして突然子供たち四人を掻っ攫い小脇に抱える。


カコ「きゃっ!」

タクジ「うわ!なにすんだよ」

タクジは暴れだし、その被害はほか四人にも及ぶ。


ノリタケ「痛い痛い!」

マナコ「動かないでタクジ!」

レイ「こらあ、反抗すんな~」


すると徹がタクジとノリタケを抱える。


トオル「お手伝いしますよ?レディ」

レイ「相変わらずキザなセリフ吐くわね。聞いてて鳥肌立っちゃう」

トオル「ふふふ、そうだね。」


大人二人は完全に二人きりの世界に入り切っている中子供たち四人は約束を建てる。


タクジ「おいお前ら」

マナコ「なによ」

タクジ「絶対またここに来るぞ、邪魔されない歳になったら」

マナコ「…そうね」

カコ「うん‼絶対行きたい!」

ノリタケ「そうだね、またいつか大人になったら…。」


小さく力のない、でも夢も希望もたくさん持った子供たちがこの時誓い合ったのだった。







アマリア「そんなことがあったのね」


ノリタケの遠い昔話を聞き、うっとりしながらうなずく。


ノリタケ「…もしかして」


ノリタケは木の裏側に回り込んでみる。そこにはあの頃と同じ光景が広がっていた。木々が屋根を作るその下に輝く多くのキャメリの花が首を振っている。


アマリア「綺麗ね」


アマリアはため息交じりに呟く。


ノリタケ「そうだね」


しかし、ノリタケの目は少し曇っていた。もう二度と叶うことのない誓いを思い出し、虚しさで満たされていたのである。あんなにキャメリの花が大好きだったカコが、この誓いを提案したタクジが、ノリタケの目の前で命を落としたのである。マナコは消息すら分からない、またノリタケの目には暗い光がともる。すると、アマリアは強引にノリタケの顔を自分に向け、叱りつける。


アマリア「カコの前でそんな顔をしない!カコが安心できないよ」

ノリタケ「あ…うん、そうだね。」


ノリタケはレッセンジャスの木の根元にそっとカコを下ろし頬を2度叩く。そして立ち上がり、穴を掘り始める。


アマリア「何をしているの?」

ノリタケ「埋めるんだよ、遺体を。土葬といってこれで弔うことが出来るんだって」


キャリメラ村では弔う際は火葬し、灰を風にのせて飛ばすことで自然に帰り、神の一部へ戻るとされている。この世界の自然は全て神の一部とされており、神から人々が生まれ、死によって神の一部に戻るというサイクルによってこの世界は成り立っていると村では語り継がれている。しかし、この場では遺体を灰まで燃やせるような火力を出せるものはなく自然に返すという意味では土葬が最適であろうとノリタケは考えたのである。カコが大好きだったキャメリの花がたくさん咲くこの場で。


アマリア「そうね、私も手伝う」


と周りの草を摘み、かごを編み始める。そして人が入るほどの穴、かごが完成し、カコをかごの中へ入れる。するとアマリアはアンクレットを差し出す。


ノリタケ「これもいれようか」

アマリア「ううん。これはノリタケ、あなたが持っていた方がいいと思う」


ノリタケは黙り込みアンクレットを眺める。そして受け取りカコに向き直る。


ノリタケ「カコ、これ借りてくね。」


風が少しだけ収まる。まるでカコが「いいよ」と返事をしたかのように。

二人は一緒にかごのふたを閉め、そっと穴の中に埋める。そしてノリタケはそばにあった大きめの石を掘り、カコと刻んでそっと上に添える。


ノリタケ「カコ、僕たち行くよ。なんでこんなことが起きたのか、マナコはどこにいるのかを知るために。もしわかったらマナコと一緒にここに帰ってくるから。タクジも、連れてくるから。だから、それまでおやすみ、カコ」

アマリア「おやすみなさい。行ってくるね、カコ」


アマリアは優しく石をなでながらつぶやいた。


ここから冒険が本格的に始まっていきます。

今までは数人のキャラでしたがここから多くのキャラが登場する予定です!

よろしければこれからもお付き合いください。

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