-- : 新たなる始まりのエピローグ
約束の日曜日、オレは指定された桜崎駅南口から遠ざかるように、学校へと足を向けていた。
駅前の道でシリウスの事件の時の若い刑事を思い出し、駅からのびる坂を登るときに『才女』萩原加奈子が殺された日の事を思い、目の前に立ちはだかる神楽山を見上げて梨鈴の事を思い出した。
たった1年。
その間に、オレの身には幾つもの珪素生命体の痕跡が刻まれてしまった。
夙夜の言う事が本当ならば、それは、他の珪素生命体にとって磁石のようなものだという。オレと夙夜と白根という磁石が固まっている限り、永久に珪素生命体を引き寄せ続けてしまう――災厄は終わらない。
学校の敷地に入り、部活動の練習をしている運動部の横を通り抜けて文学部の部室へ。
戸を開けると、見慣れた部屋がオレを出迎えた。
2年前に入学して、運動する予定もなかったからなんとなく文学部に入部して、夙夜に会って先輩に会って、梨鈴と出会って。シリウスがいて、白根が来て……とうとう、望月までやってきやがった。
長いな、2年って。
高校生らしからぬ結論をだして、オレは携帯端末で時刻を確認する。
白根との約束は10時。
そろそろ行くか。
ぱたんと扉を閉じたオレの背後では、数日間この部室に放置していたワレモコウから紅の色が消え、茶色くかさかさに乾いた花が幾らか散っていた。
変化が来る。
オレの望んだ、望んでいない、世界の変化が来る。
逃げたい。
逃げたくない。
逃げられない。
逃げちゃ駄目だ……絶対に。
――オレが世界を選んだのだから
世界の狭間から抜け出したが故、自らの操り糸に絡め取られた道化師は、もはや何処へも逃れ得ぬ。
両手足でもがけばもがくほど、考えを廻らせれば廻らせるほど、さらに奈落へと堕ちて逝く。
ワレモコウの窓向こうに広がる空はどんよりと曇って、梅雨の到来を告げていた。
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シリーズはまだ続きますので、よろしければ続きもご覧ください(8/9現在未掲載)。