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公爵令嬢参る!  作者: まちせん
序章
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序章・バラク公爵家1

主人公は公爵令嬢のサモエドですが、序章はサモエドの兄視点になっています。

それは、唐突だった。


普段は学園の寮にいるのだが、父から手紙で屋敷に戻るよう指示をされ、昨日から屋敷に戻っていた。


鳥のさえずりで起こされ、タイミングよく入室してきた私の執事に今日の予定を聞き、執事と入れ違いに入ってきたメイド達に洗面用の桶を渡され、温い水で顔を清める。

髪を整えようと鏡を見ると、見飽きた自分の顔が映る。父譲りの銀色の髪は寝癖もなく少しだけ櫛を通しただけでセットが終わった。

身支度を済ませ、朝食をとる為に食堂へ行き…


朝食のサラダに添えてある真っ赤なトマトを食べて


「あ。」


私にかかっていた霧は解けたのだ。



※※※



私の名前はシェパード・バラク。数代辿れば王家に繋がる由緒正しき公爵家であり、現在この国の宰相には私の父が就いている。

私の母は数年前に流行り病で亡くなっており、父はその悲しみから仕事に打ち込むようになり殆どを王宮で過ごしていた。


私は朝食を食べ終え、廊下を歩く。

ふと窓に視線を向ければ、庭を綺麗に整えている庭師が見え、視線をずらすとハナミズキの花が綺麗に咲いているのが見えた。それを見て、私は無性に頭を掻きむしりたくなった。


あのハナミズキは私の妹が生まれた日に植えた記念樹だ。


「サモエドに会いたいのだが」


斜め後ろを歩くメイドはその言葉に「は」という間抜けな声を出す。

「サモエド様…妹様にですか?」

「そうだ」

私は振り向かずに歩を進めている為、斜め後ろにいる彼女の表情は見えないが、警戒している雰囲気はひしひしと伝わってきた。

まあ、無理もないだろう。

血の繋がった兄妹であるのに、この2年間…私はサモエドを憎み虐待してきたのだから。


サモエド宛てに「応接室に来てほしい」とメイドに言付けをすると、私は足早に応接室に行き、適当なソファに座った。


サモエド・バラク。彼女は私の3歳年下の妹で今年の夏で14歳になる。

私と同じ父譲りの銀髪で、母に似た勝気な顔をしている。

2年前までは彼女はその勝気な顔に似合わない温和で優しい性格をしていたのだが…今はどうなってしまっただろうか。

屋敷に戻れば顔を合わせるが、ここ数年まともな会話をした覚えがない。私はあの子を妹として…いや、最早人間としてすら扱っていなかった。


そこまで考えて、私は唇を噛みしめた。


元々私達兄妹の仲は良好だったと思う。

性別が違う為に一緒に外で遊ぶことはあまりなかったが、兄妹で参加したお茶会には必ず彼女をエスコートしたし、悪い虫には牽制をかけたりもした。

妹の弾くバイオリンの音色は公爵家の次期当主としての勉強に励む私を和ませてくれる良き友であった。

母が病気で亡くなってからは、一層私達は兄妹で力を合わせて強く生きていこうと誓ったはずだったのだ。


それが崩れたのは2年前。私が王立学園に通い始めてからだ。


王立学園とはこの国の15歳以上の公子公女の為の学園であり、三年制のそこは勉学よりも他の家と繋がりを作るための場所である。

生徒は8割が貴族の子供達で占めており、優秀な平民出の者が2割いる程度だ。


そこで私は1人の少女と出会った。


亜麻色の髪に鳶色の瞳を持った彼女。2年前…入学式の日に私は彼女を見た瞬間、電流が走った気がした。

私はすぐさま彼女に話しかけた。

そして…彼女と話しをするたびに私は彼女への恋心を募らせていき、それと比例して何故かサモエドを憎たらしく思うようになっていったのだ。


とても不思議なのだが、今日、トマトを食べた瞬間にその憎しみは消えていった。

そして今大きな後悔が私を苛んでいた。


コンコン


控えめなノック音が部屋に響いた。

私は物思いに耽りすぎていたと気づき、頭を軽く振るうと「どうぞ」と声をかけた。


扉が静かに開き、まずはメイドが入ってきて、そして…


「ご無沙汰しておりました、バラク次期当主様」


無表情の令嬢が抑揚のない声で私に挨拶をする。

私は小さくため息をつき、そして「すまなかった」と口にした。


「バラク次期当主様?」

「…不思議に思うかもしれないが、次期当主ではなく、昔のように兄と呼んでほしい」


サモエドを連れてきたメイドに目配せすると、メイドは目礼し「お茶の準備をしてきます」と退室していった。


「仰っている意味が分かりません」

サモエドが漸く顔に表情を作る。困惑、と言った感じのものだが。


「サミー」


私が彼女の愛称を口にすると、彼女は困惑を通り越し目を大きく見開いた。

「どうなさったのですか、バラク次期当主様」

「どうもこうもないさ。それよりこっちに来て座っ…」

ソファに座るよう言おうと思って彼女に向かって手を差し出した途端、サモエドの身体は震えだす。

「……すまない」

たったそれだけの動作で怯えさせるほどになってしまったことに、私は項垂れ、頭を掻きむしる。

彼女との信頼関係を修復するにはどうしたらいいのか。


「……目が覚めたんだよ、サミー。魔女の呪いからね」

「魔女の呪い?」

「今まで本当にすまなかった、サミー。私は…お前に謝っても謝り切れない程の事をしでかしてしまったね」

「何を仰ってるのですか?ご存知の通り私は無知な者ゆえ、次期当主様が仰りたい意図がわかりません。お許しください」


サモエドはまた無表情になり、そして私に許しを乞うように頭を下げる。


「お願いだ、サミー。他人行儀は止めてくれ。それに、君は無知な者ではない」

「他人行儀を強いたのは次期当主様であり、私を無知だと叱り飛ばしたのも次期当主様ではありませんか」


その通りだった。その通りだったのだが!


「何の御冗談か存じ上げませんが…」

サモエドは息を吐き、背中を私に向けた。

「どうぞ、折檻ならば服で見えない場所にお願いいたします。顔に傷が出来ると公爵令嬢としての価値が下がりますので」


どうやら彼女は『此処に呼ばれたのは適当に難癖をつけて折檻をしたいのだろう』とアタリを付けたようだった。

最低かもしれないが、私はこれまでに何度もそのやり方で彼女を殴ってきた。


「サミー、一度でいい。私の言葉を信じて欲しい。私は今までの罪を懺悔し清算したいのだ」

「そうですか。…つまり、私は用済みということですね。……殺すのですか?」

「何故そうなる!」


何を言いだすのかと、驚いて彼女の顔を見たその瞬間、目に飛び込んできたのは拳だった。



「おがっ!」



親にすら一度も殴られたことのない頬が真っ赤になる。鼻はツンとして、口内に血の味が広がる。

突然の打撃についていけなかった体の筋肉はバランスを崩し、その場に倒れるしかなかった。


「あー!すっきりしたー!」


心底晴れ晴れというような朗らかな妹の声。私を殴り飛ばしたのは…信じがたい事に妹、サモエドだったのだ。


「さあ、やりたい事はやったし。もう未練はないわ!さっさと私を殺して下さいませ。次期当主様」

彼女はくすくす笑う。

「ほら、早くやりなさいよ。清算するんでしょう?貴方の汚点である妹を処分して、心機一転したいのでしょう?」

「な…っ!」


悲しくなった。私は…ここまで妹を追い詰めていたのか…!

初投稿です。

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