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悲しい。やっぱりこんな私を愛してくれる人なんていないんだわ。
どうして。どうして。生きていることに何の意味があるの。こんなに尽くしてきたのに。ーもうイヤ。
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頭が痛い。
目の奥で黒と白の縞々がぐるぐる回ってる。
なんだろう。気持ちが悪い。目をギュッと閉じて耐える。しばらく続いたが急にパチンッという感覚の後
気持ちの悪さが落ち着いた。目を開けるとまるでピントがあったみたいに周囲の様子が見えた。
目を開けると。修羅場の真っ只中にいた。
なんだこれ。周りは王子様とお姫様コスプレしたよく分からない人たちが騒いでいる。
なんだっけこれ。
あぁそうだ。
私はアレクシア・ドレーク公爵令嬢。
婚約者だったはずの第一皇子は涙を愛らしい瞳に浮かべたどこぞの令嬢を抱きしめ、こちらを糾弾している。
王子がその名前も知らない令嬢のために国家予算をつぎ込んで宝飾品だの、ドレスを大量に買い込んだのだ。
この国は北方の国だ。ただでさえ毎年貧しいものから飢えに寒さに凍死していく。
さらに今年は冷夏に長雨。小麦の苗が水没し、日照時間が少なかったため無事だった苗も病気が流行。
今年の収穫量は最悪だったのだ。
この国は貧しい。元々小麦の収量だって多くない。
収穫が少なく、自国の物だけで乗り切れない時は隣国である南の大国から買い付けて備蓄を蓄えそれを分け合うことで厳しくて長い冬を耐え抜くのだ。
その備蓄品を買い付ける金すら無い。
それなのに王子はまだ代々伝わる国庫の財宝を売り払って新しいものを女に買い与えようとしている。しかも、金と豊かな土地を得るために豊かな隣国を攻めようとすらしている。それを諌めたアレクシアが何故か糾弾されてる。
もう馬鹿かと。
「貴様はその力と一緒で氷のように冷酷で可愛くない。
アンナを見習ったらどうなのだ。
魔力が強いという理由だけで婚約させられていたがもうそれも終わりだ!婚約を破棄する!」
あぁ、私が生まれたのはこのためか。
国のために頑張って頑張って頑張り続けた優しいあの子にはもう耐えることができなかったんだ。
あの子の心を守るために私が生まれた。
ふぅとひとつ息をついて王子と向き合う。
「そうですわね。私は氷の心を持っているみたい。
だから許してなんて差し上げません。浮気相手に入れあげて国庫の金を横領した挙句諌めた婚約者を糾弾するような馬鹿な婚約者なんて。婚約破棄に同意しますわ。」
そしてにこりと笑って魔力を右手に纏い渾身の力で王子の左頬に全力ストレートを決めた。
あ、歯何本かいったな。
「きゃーっ!王子様!」
と隣の女が縋り付いているが皇子は気を失っているようだ。
根性がない。