私も
100%作者の自己満足のために書かれた1話完結の短編小説です。
空を飛びたくなるような、ある晴れた日。結構気になっている男の子に、屋上に呼び出された。
どうして呼び出されたのかはわからないけれど、屋上に呼び出されるのだから告白しかないだろう。
今日から私は彼の彼女だ。
などと浮かれていた過去の私を馬鹿野郎と怒鳴りつけたい。
彼は確かに屋上で待っていた。しかしその場所は、高めのフェンスを超えた先。少しでも足を踏み外せば地上へ真っ逆さま、という所で、彼は待っていた。
「ちょ、何やってるの!」
駆けよろうかと思ったが、変に刺激しないほうがいいのかもしれないと思い、近すぎず遠すぎずの距離まで近づいた。
べつにこれは、実はジャンクルジムの屋上から飛び降りようとしているのを必死に止める五歳児同士の話でした、ちゃんちゃん。などというオチでは断じてない。そもそもジャングルジムは『屋上』じゃなくて『てっぺん』だろう。
人生の半分も生きていないような高校生が、学校の屋上から飛び降りようとしているのだ。
「ああ、きてくれたんだ。ありがと。実は君に、言いたいことがあったんだ」
「いや、遺言とかそういうのやめてよ。私は遺族のいざこざなんかに巻き込まれたくないよ」
「そんな大事な話を君にするわけないだろ……」
それはそれで傷つくが、少し安心した。
「実はさ……」
「いじめられてるの? だったら相談でもなんでも乗ってあげるから、そんな飛び降り自殺なんて馬鹿なこと考えないで!」
「あのさ、話聞いてく……」
「確かに人生辛いこともあるかもしれないけど、辛いことばっかじゃないでしょ? 今日食べた朝ごはんが美味しかったりしなかった!?」
彼は何か言いたそうな顔をしたが、少し考えて、
「今日は朝ごはん食べてないな」
と言った。
「はあん!? 朝ごはん食べなきゃ1日始まらないでしょ。知ってる? 朝ごはん大量に食べたほうが痩せるんだよ」
「そんなプチ情報はどうでもいいんだけど」
「これから飛び降りるから? どうしてそんなことするのよ。まだこれから楽しいこといっぱいあるじゃない。明日の朝ごはん食べられなくなるよ」
「朝ごはんにこだわるね」
「どうやって引き止めればいいかわかんないの!」
一応心からの叫びではあるのだが、それが朝ごはんというのはどうなのだろう。
しかし、彼が馬鹿な考えを捨ててくれるのならばなんでもいいと思った。
「退屈かもしれない、面倒かもしれない。それでもその思い出はかけがえのないもので、捨てたくない思い出になるの! だからそんなことやめなさい!」
彼は、はあ、と大きなため息をついた。もしかして、私の声は、彼に届かなかったのだろうか。
そんなのは嫌だ。彼がいない世界だなんて嫌だ。
どうすればいいの。
「だからさ、僕は」
「わかった!」
「……は?」
きょとん、とした顔で彼は言う。
「私が代わりに飛び降りる」
「はい?」
「私が代わりに飛び降りるから、あなたはそんなことしないで! 私のを見て、なんて虚しいことをしようとしていたのだろう、よし、かわいい女の子の分も頑張って生きよう、みたいな気持ちになって!」
「さりげなく自分のことをかわいいって言ったね」
そんなことは気にせずに、私はずかずかと彼の方へ歩み寄り、フェンスを越えて、彼の隣に立つ。
「見ててよね。どれだけ虚しいか、教えてあげるから」
「え、本当にやるの?」
やめなよ、という制止の声を無視して、私は飛んだ。
どれくらいすれば私は地面とぶつかってしまうのだろう。
これで彼が諦めてくれればいいのだけれど。
まあ、別に地面とぶつかりは……
「!?」
重力に身を任せていたのに、半分くらい落ちた所で急停止した。
「君はもう少し人の話を聞くべきだ」
後ろを見てみると、彼の顔がそこにあり、お腹に両手を回されていること、そして何より、空中で彼と一緒に停止していることを理解した。
「え、え、なんで?」
「僕、空を飛べるんだ。それを言おうと思ったのに、何か変な勘違いしてさ。困ったものだよ」
「空を……飛べる?」
空を飛べるって、彼は言ったのか。
別に翼が生えているわけでもない。ロープでつられているわけでもない。
超能力的な力で、彼は飛べるのだ。
はは、笑えるなあ。
「とりあえずこのまま上まであげるからさ、じっとしててよ……って、あれ?」
彼はきっと今、驚いている。
両腕にかかっている私の体重がほぼゼロになったことに。
「手、離しても大丈夫だよ」
数秒戸惑って、彼は手を離す。
私は彼の腕から解放され、彼と同じ位置に、空中に移動する。
「実はね、私も」
ああ、世界は狭いなあ。
<完>
今回は「空を飛びたいなあ」と思いながら書きました。
作中に出ているとおり、作者は超能力的なやつで空を飛びたいです。