第2馬鹿
茶炉が米丸を拾ってから2日ほど経ったある日のことだった。彼女は手持ち金をみながら憂鬱そうな顔をしていた。
米丸の服、米丸の食事、米丸の防具、そして米丸の武器。出費が激しくなるなぁ⋯⋯と考える。このままワコクに住もうとも思っていた茶炉だがワコクはあまり稼げないことを知ってた彼女は次の行き先を考えていた。
「ちゃーさんアレなんですか!?」
茶炉が考え事をしながら周りを見渡しているというのに、そんなのもお構いなしに無邪気な米丸は茶炉の袖をくいっと引っ張りアレはなんだと指を指す。
米屋、と看板が立てられている。米という字に茶炉は「米だね」と小さく反応すると、また米丸も「コメ? 米丸とおなじですね!」と返した。
「米はもちもちとしていて噛めば噛むほど甘くて、この国の主食でね。ほら米丸もお握り食べたでしょ? あれだよ。美味しい美味しいって気に入ってたよね」
「あれ米なんですか!? おいしかったです! 大好きです!」
「そんなに気に入ってるなら一袋ぐらい買っておくか⋯⋯。うーん、案外荷物がかさばるなあ。箱借りないと大変かも」
そうブツブツと茶炉は米屋で一袋分の米を買っていた、米丸は茶炉が米を買う様子を何が楽しいのか、とても楽しそうにニコニコとみている。「毎度あり~」という言葉にぺこっと軽くお辞儀を返し、米丸に目を向けると、子供の目というものはこんなにも死んでるものなのかと米丸の目をみてそう感じる茶炉。米丸は目が合うなりにっこりと笑い、茶炉にこう言った。
「ちゃーさん! それ自分がもちます!」
「いや、重いからいいよ、無理しないで。私に任せなって⋯⋯コラ!」
素早く米丸は茶炉から米袋を奪い取ってみせると持っていた茶炉よりも軽々ともち、ドヤ顔をしていた。
「米丸は力もちなんです! 足もはやいんですよ!」
「⋯⋯ン"ッ」
ハッ、と茶炉は思わず漏れた声に口を手で覆い隠す。にこにこと米袋を片手で持ち、大好きな人の手を握り「はやくいきましょう!」と急かす米丸。その茶炉に関しては米丸の尊さに大きな衝撃を受けていた。
「ちゃーさん! ちゃーさん! きいてますか? これからどこに行くんですか?」
「えっ? あっ、聞いてるよ。何処に行くかって? スターク王国の王都アルペジオに行こうかと思ってる。私の死んだお父さんとお母さんが遺してくれた家もあるし、何より王都は大きな学校もあるからね」
「そうなんですね! 米丸はずっとここにいるっておもってました」
「まあ、ワコクに住むのも考えてたっちゃあ考えてたけど、ワコクだと色々不都合なことが多いからね」
そこで会話は一旦止まった。不思議と居心地が悪いわけではなかった、茶炉はむしろどこか心地よさを覚える。ワコクの江戸風の美しい風景に、爽やかな風が茶炉の髪の毛を掬った。
「ちゃーさん! ちゃーさん! ひとつおねがいしてもいいですか?」
米丸はまたくいっと茶炉の袖を軽く引っ張ったものだから、茶炉は今度はどうしたのだと目を向ける。
「はいはい、今度はどうしたの」
「いい子にしてたらちゃーさん米丸のこときらいになりませんよね!」
そう照れくさそうに頬を染めてはにかみつつも、どこか墨をそのまま塗りたくったような目で茶炉を見つめる米丸に腹を抱えて笑った。米丸はなんで茶炉が笑っているのか分からないらしい、困惑したように眉を八の字にしている。
「当たり前でしょ、」
一頻り笑うと茶炉は米丸の頭を撫でて慈愛に満ちた笑みを浮かべそう言った。
米丸はパァッと花を咲かせたように笑うと、ぎゅっと茶炉に抱き着く。抱きつかれた茶炉はまた優しく頭を撫でてやる、するとそれに喜んで米丸は顔をすりすりと服に擦り寄ってきた。そんな可愛いことをする米丸に、こういうのも意外に悪くないと頬をだらしなく緩めたのだった。