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第1馬鹿


 

 多分、それもこれも馬鹿でかい子供のお腹の音のせいだ。と茶炉はちらりと隣にいる黒髪の子供に目を向けた。少し痩せこけた顔に幼いのに目の下には隈がある、そのうえ薄汚れた白い服を身に纏っているので茶炉はスラムかそこら辺の子供だろうと考えていた。


 茶炉がその子供と出会ったのは、茶炉がワコクに入国し、特に行く宛てもなくウロウロと見回っていたところであった。向こうに倒れている白い物体がいたのだ。何かを悟った茶炉はそそくさと早足でその横を通ろうとした瞬間だった。


『ギュゥ~~~ギュ~~ル~ギュルギュルギュ~~ル』


「えぇ⋯⋯?」


 唖然する他なかった。茶炉は馬鹿でかい白い物体の音(?)に驚いたと口をポカーンと開けたまま、そろりそろりと近寄り、白い物体を突っついてみる茶炉。モゾッと動いた白い物体、そして茶炉はまた驚いた。なんとその白い物体の正体は幼い男の子だったのだ。そしてその子供は「⋯⋯うぅ」と呻き声をあげた。

 かと思えばまた『ギュルギュ~~ルギュルギュルギュ~~ル!!』と腹を鳴らしたのだ。


 どんどん顔色の悪くなる子供に茶炉は何を思ったのか慌てて抱き上げ、何かを無理矢理子供に飲ませてやる。


体力回復剤(エナジーポーション)だから大人しく飲んで、大丈夫。変なものじゃないから。あとこれお握り、そうゆっくりでいいから食べて」


 茶炉が無理矢理飲ませたポーションにより、少し顔色が良くなった子供は次に渡されたお握りを途轍もない勢いで食べている。しまいには「おいひぃ⋯⋯ですっ」と、ほろほろと大粒の涙を流していた。


 数十分経ち、周りの人間がそんな二人を素通りしていくなかでぼーっとしながらこの子どうするかと考えている茶炉。そんな茶炉にお握りを食べ終えたのだろうお腹を空かせてた子供は、茶炉に#抱き着い__タックルし__#た。いきなりのことで驚いたのだろう茶炉は「ほぐあっ!?」と変な声をあげる。

 抱き着いた子供は茶炉を上目遣いで見上げると死んだ目のまま、はっきりとこう言った。


「一生ついていきます!」


「ん!?」


 茶炉は意味の分からないと言いたげに首を傾げる。道行く人々はまるで二人が見えない。否、見たくもないと言いたげにちらりとも見ずに素通りをかましていく。

 ハッとした茶炉は「いやいやいやいや」と子供の肩を掴み、自分から離した。


「ちょっとそれは困るんだけど」


「おねがいします!やさしくしてくれたのも、ごはんくれたのもあなただけなんです!じぶん、なんでもします!」


 離せ!と言わんばかりに裾を引っ張る茶炉と、離さん!と言わんばかりに裾を引っ張る子供。そんな攻防戦は、結局茶炉が「⋯⋯分かったよ」と諦めたことで終わる。

 一度は思いっきり振り払って大人気なく逃げた茶炉だったが、子供が切なそうに立ち尽くす姿に居た堪れなくなり、結局彼女は戻ってきてその子供を受け入れてしまったのだ。


「ありがとうございます!!あと、なまえ、なまえっおしえて下さい!」


「あー、えっと、ワコクの名前なんだけどね。お茶の茶と書いて、囲炉裏の炉と書いて茶炉(チャロ)だよ」


 ぴょんぴょん飛びながら子供は彼女にしがみつく。あまりの懐きように悪い気はしなかったようで、気を良くした茶炉は自分の名を教えるためにわざわざ土に書いてやった。


「じゃあ、ちゃーさんって呼びますね!」


「⋯⋯まあ、それでいいよ」


 ちょっと目を逸らし照れながら茶炉がそう言うと子供も満足げに「ちゃーさん!」と死んだ目を細めて笑う子供に茶炉の心に小さな不安が生じる。


「ねぇ本当に私でいいの?」


 そう茶炉は不安げに子供に尋ねた。


 茶炉は不安だった、先ほどまでは可愛いな~なんて呑気な事を考えていたが何かの拍子でハッとしたようにそう聞いた。


 きっと茶炉は間違っていないだろう、無責任に子供を育てるというのは実に怖いことである。もし目の前にいる子供が何かあったとき、自分は身を挺して子供を守ることはできるのだろうか。茶炉にはそんな覚悟がまだ足りていなかった。

 小さな手で必死に自分の手を掴んでついてくる子供に茶炉は、余計に考えた。おもむろに「分かった」と返事した自分に後悔していた。


 だが、茶炉がそう聞いたものの少年はだんまりとしていた。しびれを切らして茶炉はもう一度「ねぇ?」と少年を呼びかけた。


「⋯⋯じぶん、「ねぇ」ってよばれるのいやです! なまえつけてくれませんか?」


 しかし少年はどこか悟ったように、茶炉を見上げた。それはまるで「もうはなさない」と目が言っているようで、茶炉の口が歪んだ。


「すてないでください。じぶんはかみませんほえません、いいこにします。おねがいです」


 必死に少年が茶炉の顔を何を考えているか分からない目で見つめる。墨のようなその目が茶炉をうつすものだから、全てを悟られそうで⋯⋯茶炉は何故かふっと笑った。


「⋯⋯わかった、いいよ。君が満足するまで私は君の保護者でいてあげる。君の名前は米丸(コメマル)、でどう?あ、字はこう書くんだけど」


「~~~っありがとう!だいすき! こめまるっ、たいせつにします!」


「うわぁっ」


 勢いよく茶炉に抱き着いた少年もとい米丸、本当に嬉しそうでいきなり抱きつかれた茶炉もその様子に優しい笑みを浮かべていた。


 そして二人は手を繋ぎ歩き始める。ぎゅっと茶炉が握った手を握り返す米丸の手がボロボロで痛々しい、だから茶炉はその上からまた優しく手を包み込んだのだった。


 ───しかし茶炉はまだ知らない。この出会いがすべての始まりだということを


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