俺と私が欲しいもの
弓美は椅子を持ってきて座って足を組んだ。
こんなときでもスカートの中身が気になってしまう俺に自己ツッコミを入れながらも、どうしても視線がそこに向かってしまう。
こういう視線に女性は敏感だと言うし、きっと弓美も気づいてるんじゃないと思う。
でも、どうにもその誘惑に耐えられなかった。どうしても視線がはずせない……だってこれってわざとだよなぁ。
俺が立っているのに、座ってる弓美のスカートの中、見えるか見えないかの位置に裾があてるし……。
「ね、私たちある意味同一人物だって話したよね」
「うん、そうだな」
いきなり話が変わったこともあって視線をあちこちにさまよわせていると、弓美は面白そうにくすくすと笑った。
これ、あきらかに軽蔑してないよな?
怒ってもないように見えるし、どういうことだ?
足組んだりとか、顔見るとなんだか悪巧みしてるように見えるんだけど……。
「細かいところは違うけど、趣味とか特技とか、ほぼ同じだったよね」
「あ、ああ、そうだな」
確かに本棚の本は違ったけど、それは作者が存在したり、しなかったりの違いで、内容はほぼ似たようなものだった。
高校時代の得意科目も同じだったし……。
「だったらさ、性癖も同じかも、って思わない?」
俺が絶句して弓美を見ると、弓美は俺に近づいて、首に腕を廻して抱きついてきた。
「私もね、妄想してたの」
「……」
「無理矢理こんなことされる妄想」
「え……」
「女だってえっちなこと考えるんだよ」
堂々とそんなこと言われて、俺は息を飲んだ。なんだ、これ?
「でも少し違うって言ったでしょ?矢的がこういうことしたいって妄想するなら、私はなんだと思う?」
「その、まさか?」
「そう、女の私は矢的と同じだけどちょっと違うのよね」
「……」
「ときどき妄想してたの……こんなことされたい、ってね」
なんだ、この状況。
弓美はある意味同一人物だってわかってるじゃないか、いいのか?
そんな雌雄同体の生物みたいなこと……。
「現実ではお互いが望むものなんでしょ?」
「あ、ああ」
「私、矢的とこうなる事を望んでるんだけど?」
いきなり何もかもステップが飛びすぎる。
せめて『愛』とか『彼氏』を望んでくれ。
いきなり『肉体的接触』を求められるのは嬉しいけと……童貞にはハードルが高すぎる。
会ってまだ数時間しかたってないのに……。
「あ、えーっと」
「死ぬって思っちゃったから、子孫を残したいって欲望が覚醒しちゃったかも……うふふ」
って、肉体的接触だけじゃなくて、その先の結果まで求めるのかよ。
一気に行くところまで行き過ぎだろ。
戸惑う俺に弓美はキスをしてきた。
「ファーストキスなんだよね」
俺も頭のネジが何本も吹き飛んだような気がする。
「それにさ、これはある意味、私の推測の証明したいかなって」
「証明?」
「私は女で矢的は男、ってことは私の推測だけど……」
弓美は妖艶な笑みを浮かべて、耳元で囁いた。
「私たちの間に子供ができると思わない?」
目を見開いて弓美の顔を見つめた俺に弓美は再び耳元で囁いた。
「要するに……」
「要するに?」
「私を抱いてほしいの……矢的との子供が欲しいから」
頭のネジどころか、思考が完全に吹き飛んだ。
反射的に弓美を抱き上げて、ベッドへと運んで押し倒した。