見知らぬ女性
『四ヶ月前に起きた通り魔無差別殺人事件の犯人ですが、その身勝手な動機に憤りの声があがっています』
テレビでは四ヶ月前に起きた悲惨な事件の報道が連日行われていた。
死者5人と大きかったこともあるが、その中に俺くらいの年齢の、ロリコンではない男から見ても可愛い美少女の小学生がいたことがさらに悲惨さやネットでの炎上とかに拍車をかけていた。
「酷い事件だよなぁ」
俺はテレビのコメンテーターのコメントに同意しながらも、どこか他人事と傍観者としてテレビを見ていた。
そんな時だった。唐突に玄関のチャイムが押された音がした。
ピンポーン。
土曜の午前、特に来客の予定はない。
「宅配便かな?」
今年就職して気合いを入れて毎日がんばっている仕事もGW、夏休み以来の久々の5連休。
彼女もいないという大きな理由あって、両親には夏に気持ちだけな感じの少額ではあったけど初のボーナスを全部使って温泉旅行と小遣いをプレゼントした。
夫婦水入らずで新婚気分を楽しんでもらおうという、余計なお節介とも言える親孝行だった。
いや、父さんは口数少ない人だけど、息子の目の前で平然とキスするくらいに母さんにべた惚れだし。母さんは母さんで平気で息子相手に父さんとの下ネタを話すような人だし……。
ま、両親揃ってそうなんだけど、俺はそんな2人の息子なだけあって、好きになった相手には一途で熱烈なタイプなんだと思う。
恋人いない歴=年齢の俺では説得力はないけれど、多分俺もそういうタイプじゃないかと思ってる。
未だに好きだと本気で想った相手がいないから、証明はできないけどな。
まぁ、そんな久々に両親の居ないひとりぼっちの時間をだらだらと堪能しようと思っていたら、いきなり朝から来客とはついてないなぁ。
面倒だから宅配便とか郵便とか簡単なものだといいなぁと思いつつ玄関へと出た。
「はーい、どちら……さん?」
そこにいたのは、地味ではあるが意外と美人で俺の好みのど真ん中ストレートの若い女性だった。
米空軍の払い下げの黒いジャンパーに白い男者のYシャツ、膝上5センチのミニスカートに迷彩柄のハイソックス……一般的な男の好みからはかねり外れてそうな装い。
だけど、普段迷彩柄のTシャツ、バイクに乗るときに米陸軍ヘリパイロットのヘルメットに似せた限定生産のバイク用ヘルメットを被るような俺にはまさに理想の女神、いや戦乙女だった。
「えと、どちらさん?」
彼女は俺の顔を見ると、最初は驚いた顔をして、それから……顔をくしゃっと歪めてしゃがみ込んだ。
え、なんだこれ?
「うっ、嘘よぉ、こんなの、ここどこよぉ」
「お、おい、ちょっと、これ、何?」
「お父さぁん、お母さぁん、ううっ」
周囲に誰もいなかったからよかったものの、名も知らぬ彼女は号泣を始めた。
どう見ても俺と同じくらいの年齢、たぶん二十歳は超えていると思うんだけど、そんな女性が子供のようにぎゃん泣き、俺に一体どうしろと?
うまく地面に座り込んだからスカートの中は見えなかったけど……ってスケベ心出してる場合じゃねぇ。
「と、とにかく、中に入って」
「うわぁぁん」
「いや、頼むから、お願い」
俺はそんな号泣する彼女をなだめつつ、必死にどうすればいいのか本気で悩むことになった。
頭の中で『泣きやまない女の子は、唇で口を塞いじゃえ!』とナイスアドバイスと自画自賛している母さんの顔が思い浮かんで、ちょっとだけイラッとした。