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「ほら、犯人はこのなかだよ」
美空は、リコーダーケースを私に見せつけた。
「まさか、中身のリコーダーが犯人だっていうのか?」
「その通り」
美空は言い切る。
となると、犯人は……リコーダーの付喪神だろうか。
私がそう問うひまもなく、美空は、ケースからリコーダーを取り出した。
そして、リコーダーの口先を、噛み跡に当てがう。
「ほら。このリコーダーのマウスピースの丸みと、噛み跡の丸みが一致するでしょう? これは噛み跡じゃなくって、リコーダーがケースにつけた傷だよ」
のぞいてみると、たしかにリコーダーの先端と、噛み跡の丸みが同じだった。
「でも、傷はケースの外側にあるじゃないか」
「そう。このリコーダーは、内側から、外側に傷をつけたってわけ」
私には、まだ意味がつかめない。
美空はリコーダーをケースにしまうと、ケースのお尻をぐいっと押した。
するとリコーダーに押されて、ケースの蓋が盛りあがってくる。
「使い古されて劣化したケースっていうのは、こうやって内側からリコーダーに押しつけられると、表面がリコーダーの口の形に裂けちゃうってわけ。これ、たぶんランドセルに押し込んだり、ケースに入れたまま振られたりすることでついちゃうんだと思う」
「つまりこの事件の真相は……古くなったリコーダーケースを雑に扱って出来た傷が、噛み跡に見えたってことなのか」
もう一つ説明を加えると、ケースの蓋は、リコーダーの形に合わせて皮を折り曲げて留める構造になっている。つまり自然とリコーダーの向きがいつも同じになるから、噛み跡のアーチの方向が揃って、まるで前歯だけで突いたようになっていたのだ。
「そういうこと。この傷はケースが劣化してこないとつきにくいから、上級生のほうに多くなるって寸法。どこにもケースを噛む変質者なんていないから、先生も安心してよね」
美空はにこりと笑った。
ーー今回の、リコーダー噛み噛みおじさん事件。
校内に結構な恐怖をもたらしたこの案件も、この可愛らしい探偵の手によって、見事解決したのであった。