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この学校には、ひばりの探偵がいる。
彼……もとい『彼女』は、鳥であるひばりの姿と、もうひとつ、可愛らしい人間の女性の姿を持っている。
人間の姿のときは、それは可愛らしい栗色ショートカットの美人である。
彼女は自分のことを、美空と名乗った。
会うのは決まって、土曜日の家庭科室。
事件のことを相談するために探偵とコンタクトをとった私は、早速騒動について美空に説明していた。
「ーーというのが、生徒がリコーダー噛み噛みおじさんと噂してる事件の内容なんだ」
「ふうん、なるほどねえ」
年頃の娘の姿で現れた美空は、細い指を這わせて、私が渡したリコーダーケースを検める。
これは、事件を怖がる生徒から私が預かっていたものである。
「このケース、考えれば考えるほど奇妙なことだらけでね。美空ならなにか知ってるんじゃないか?」
私が問うと、美空は「はてな?」と言わんばかりに小首をひねった。
「『美空ならわかる』ならまだしも、『美空なら知ってる』ってどういうこと?」
「ほら、その傷、前歯で何度も突っついたような傷がついているだろう。これは、まるで鳥がやったような仕草じゃないか」
「ん……まるでって、キツツキみたいな動きでってこと?」
「そうだ。……もしかして美空には、発情期になると、なんだか棒状のものを前歯で突っつきたくなるようなクセがあったりしないか」
美空はきょとんとする。
次には、ころころと笑いはじめた。
「あはは。先生、それはちょっと荒唐無稽なんじゃない? どうしてボクが、全校生徒のリコーダーを前歯で突っつかなきゃならないの?」
「まあ……お前は謎が多いからな。発情期になると、くちばしがムズムズするとかあるんじゃないかとね」
リコーダー噛み噛みおじさんよりは、発情した美少女探偵に変なクセがあると考えたほうがありえるんじゃないかと思ってしまった。
「そんなクセがあるわけないじゃない。ちなみにボクの他にも人の姿を持ってる鳥はいるけれど、でも、前歯でリコーダーを突っついたりはしないよ」
「そうか……じゃあまたふりだしだな」
「そうでもないよ。謎はもう解けたから」
「なんだって?」
「うん。犯人は……このなかにいるよ」
美空の言葉に、私は面食らう。
なんせ、この部屋には……。
美空と、私しかいないのだから。