適神審査
ある晴れた日の学校でのこと。今日はみんなが待ちに待った「適神審査」の日である。それは読んで字のごとくその人に適した神、眷属、天使などの目安をつけるための審査である。昔は滅多にいなかったらしいが、大昔の戦争から何百年も経った今は、大抵眷属や、天使を身に宿す場合が多い。
「じゃあ、次は…マーク=アルファ君」
「ふふ、僕の番だね」
こいつは、アルファ家の跡取りのマーク。金髪、イケメン、金持ち、プライドが高いと絵に描いたような貴族である。ちなみに俺になにかと突っかかってくる。
「平民の君と違うということを見せてあげるよ」
マークはこちらを見てそういった。
「じゃあ、この水晶に触ってね」
「まぁ、僕にふさわしいものに決まってるがね。」
「おお!これは…!?【グリフォン】か!」
審査官の顔色が変わった。
【グリフォン】…獅子の胴体に鷲の頭を持つ神獣。神ゼウスや神アポローンの車をひいていたといわれている。一説では、七つの大罪の「傲慢」を象徴ともされる動物である。
「ははは!僕にふさわしいじゃないか!これははやく『降神術』を学び具現化させたいものだ!」
クラスに神獣を身に宿す者が出てきて、誰もが彼を褒めそやした。そこで、マークはこちらを振り返りドヤ顔で言った。
「さあ、次は君の番だよ。アーク」
「言われなくてもわかってるよ」
ここで自己紹介といこう。俺の名はアーク。ちなみにマークの様な貴族は名前の後ろに家名がつけられる。年は15。この世界では珍しい黒髪黒目だ。理由はわからん。ただ、父さんと同じなので遺伝だと思う。身分は平民。ただ、親の意向で町の学校に行かせてもらってる。あまり特質したところはないのだが、マークは俺が何か気に入らないのか会った当初から俺に突っかかってきた。まぁ、それはいいとしてつぎは俺の番である。期待は…しないでおこう。そう思い、俺は水晶に触れる。
「あれ?なんかモヤがかかって見えないな」
審査官が不思議そうな顔をして言った。それはそうだ。普通何も宿っていない者は水晶が透明で終わる。マークの様に何か宿っているならばその姿が見えてくるはずである。それなのに俺は見えない。そりゃ不思議に思う。
「う〜ん。何か宿っているとは思うんだけど、これじゃわかんないな。ごめん書類上では無しにしといてもいいかな?」
ガーン!!期待はしていなかったがそこまで酷いとは思わなった。ちなみに大抵の場合は何か身に宿しているのため、何も宿していない者は「無能者」と呼ばれる。
「なんとかなりませんかね?流石にそれはきついのですが?」
「そう言っても規則なもので…すいません」
これ以上審査官のひとを困らせたくないので、俺はお辞儀をして、室内から出た。そこにはマークとその仲間貴族が俺を待ち構えていた。
「やぁ、アーク。君には何が宿っていたんだい?」
本当にこういうところで出てくる嫌な奴である。
「神……だったらどうする?」
「はははは。冗談にしては上手だと褒めておこう。だが、そんなことはあり得ないと確信しているよ。君は平民だ。眷属や天使は僕たち貴族にこそふさわしい。」
マークの取り巻きがそれに賛成の声を上げる。
「さあ、そんな冗談じゃなくて本当のことを教えてくれよ」
このニヤニヤ顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られたが、我慢して、覚悟して正直に言った。
「なしだよ」
「やっぱりね!眷属達は君みたいな平民にはふさわしくないのさ!」
マークは我が意を得たりと言葉を重ねた。
「おめでとうアーク。これで今日から君は無能者だ。これからの人生を思うと同情するよ。精々頑張りたまえ」
マークは終始笑顔のまま大変気分良くそうに去って行った。その後、滞りなく適神審査は終わった。ちなみに俺以外に「無能者」は出なかった。
はあ……これから「無能者」としての生活が始まる。それを思うと明日からとても憂鬱だった。