プロローグ
呪縛とか束縛は恐ろしいもので、人は「誰かにされている」、つまり受動的に捉えることが多い。
しかし、その多くは実は「自ら」がそこにハマりに行ってるものだ。
御堂筋を歩きながらジロウは思った。
(なんか、東京の銀座と上野と原宿を足したような町だな)
大阪に単身赴任して1年。だいぶこちらの事情も分かってきた。エスカレーターは左側を空ける。
単身赴任を勝手に決めた。
それは、ぎすぎすしてしまった家庭から逃れるためだった。
冷めきったと思われた夫婦関係だったが、単身赴任が決まると、妻のサキエは少しだけ昔のおしとやかで、優しいサキエに戻った。だが、それもつかの間、いよいよ準備が始まると
「自分でやって、私は忙しいから」
といつものサキエに戻った。
どっちか「いつもサキエ」か解らないが。
生活費としての「こずかい」も単身赴任ということで手当てなどで少し増えた。
何より、ある「ギャンブル」で少々の「小金」を手にしていた隠し口座をこの時の為に蓄えていたこともあり、ジロウは大空へ飛び立つ思い出大阪にやってきた。
そして1年。
その大空が実は地球の真ん中のマグマに向かっていることをそろそろ予感させるのだった。