オレとご主人サマと緊急事態
店を出ると、俄に騒がしい。
いや、えっと、騒がしいというか恐慌状態?
「た、大変だああああああ!! はぐれ飛竜だああああ!!」
うわあ……。群れで行動する飛竜がはぐれるって、群れが死んだか、強くなりすぎて独立したか。
後者だったら最悪だなあ。人の味を覚えた魔物ほど厄介な物は無いって言うし。
「ご主人?」
「うーん、ソーマ、先に帰っててー」
「いやあ、武装無しのお前一人じゃあいくら何でもはぐれ飛竜は致命傷だろ。野垂れ死んだらもう苛められないぞ?」
「それはやだなあ」
なんつーか、危機的状況ではあるんだろうけど、ご主人いるからなあ。ぶっちゃけ安パイな気がする。
「ほら、兄ちゃんたちも早く逃げないと!!」
「えー、大丈夫だよー。精々下層程度の強さの魔物だし」
おう、下層程度ならオレもさっさと逃げたいんだが?
格好が格好のせいで逃げられないんだけど?
お前、ヒールの靴がどれだけ走りにくいか分かってて、先に帰っててとか言ったのか?
「おう、ご主人、何があればいい」
「えー、それなりに硬い盾と剣があればスキルは使えるよー」
「分かった。作る」
「できるの!?」
しらね。でも、盾も剣も金属だろ。地属性の魔法を応用すれば何とかなるんじゃねーの? 土中に含まれる金属成分だけ抽出して、そこに火属性の魔法で精錬鍛造して固めて、水魔法で冷やす。火力の調節は風魔法だ。いつも料理でやっていることだ。初等魔法でなんとかなる。
屋敷の調理器具はオレの手作りだからな! 流石に包丁とかは買ったけど、鍋はオレのお手製だ! イケルイケル。
イメージはご主人がいつも使ってる武器だ。アレ重たいんだよなあ。よく軽々ともてる。
カイトシールドってタイプだったか? オーソドックスの騎士盾。それと両刃の騎士剣もどき。刃は作れないけれど
どしゃっという音共に、それなりにイメージ通りの盾と剣が目の前にあらわれた。
おー、成功した。やればできるじゃん。
「おう、できたぞー」
「ほんとに!? おお、すごいすごい!」
ご主人が嬉々としてオレの作った武具を装備する。
流石に疲れたぞ。
あー、これ魔力切れだ。一歩も動けねえってか、体が弛緩してるから色々垂れ流しそう。やばい。
「ご主人まずいことになった」
「どうしたの?」
「尿道括約筋と括約筋どっちか一方しか力はいらないレベルで魔力切れ起こしてる」
「濃縮魔力香は!?」
「もってきてねー」
「えええ……僕は別に垂れ流しでもソーマを嫌いにはならないけど」
「おう、流石に人前でみっともなく垂れ流すのはゴメンだぜー」
べらべらしゃべれるのに体に力が入らないってホントおかしな作用だよなあ。魔力切れ。
体に力はいんねーし。正直立ってるのもやっとだから座ろうかな。武器さえあればご主人が負ける要素ないだろうしな。
まあ道具の耐久値は知らんけど。
いやあ、なんつーか、負け要素が見当たらなくなると途端に安心するわ。なんだかんだで耐久力だけは指折りだしなあ。
「分かった、なるべく早く片付けるから、もうちょっと我慢して!!」
「おう。垂れ流す前に頼む」
それからは飛竜を瞬殺であった。
なんだその強さ。ドMだから殴られてるだけかと思ったら、ちゃんと剣も使えるのなあ……。
瞬く間に飛竜の翼を奪ったと思うと、ご主人の身長の優に三倍はある飛竜の足を奪い、迫り来る顎をオレの作った粗悪な盾で受け止め押し返し、粗悪な剣で魔力核を砕く。
流れるような動作で、返り血の一つも浴びてない。
ああ、こうやってオレが買われるまで街中の人達を助けていたから、キャーキャー言われんのかなあ。ちくしょー。格好いいじゃねえかご主人。
「ソーマ、大丈夫? 立てる?」
「ムーリー」
「分かった! 我慢してね」
んあ!? ひょいって。ひょいってオレを抱えやがったぞ!? 体重四十うんキロをひょいだと!?
しかもこれはお姫様抱っこ、ふざけんな見世物じゃねえぞ!!
「俵担ぎにしてくれ」
「それは僕がいやだよ! ソーマみたいな可愛い女の子を雑に扱うなんて、僕にはできない!」
「くそう……ならお前の腕の中で垂れ流してやる……」
「僕は別にそれでもいいけど」
「そうだった……お前にNGないんだったな、ちくしょー」
ああもう、なんだくそ。今日は厄日か。大声でちびって、魔力切れで垂れ流しそうになるとか。
ついでに言うと、魔力が回復するまで要介護者になるから、一人でトイレも無理です。
ご主人が嬉々として世話を焼くから困るんだけど!!
とりあえず魔力が回復したら盛大に罵倒した。
ご主人が喜ぶから困るけど、受けなくて言い辱めを受けた屈辱を晴らしたかった。
翌日、涙目で悪態を吐くソーマは可愛いなあとか言われたから、盛大に燃やしておいた。火傷くらいはできるかと思ったけど、そんなことはなかったぜ……。MDEFも高いのなご主人……。そっちを溶かす魔道書も買って貰わないと……!




