オレとご主人サマと衣装店
「ご主人、腹が減った……」
「ごめんよー……。ソーマが余りにも可愛かったから」
「あーはいはい、どうもありがとうございます。可愛いからって毎回襲われる方の身にもなってみろ、くそったれ」
失態を犯した上に、盛大に辱められて、ご機嫌斜めである。くそう。
しかも屋敷から街まではちょっと距離があるし。朝飯も食わずにヤってたせいで、腹が減った。腹が減るとイライラがどんどん募っていく。
ええい、飯はまだか!
「つーか、先に飯にしようぜ、飯。金なら持ってきてるからさ」
二人分の間食代までを含めた少額が入った袋をポーチから取り出して見せる。
本命はご主人が持ってるんだが、いわゆる治安維持活動の一種でもある。物取りがオレから財布をスったらご主人が捕まえる算段だ。
物取りがなければ、オレのこの財布から飯を食うという算段だ。
この街を暫定的な領地として与えられているご主人の仕事のような物だ。あんまり統治はしてないようだけどな。
しかし、普段いかないような所のせいもあって、なんか場違い感が凄いな。
冒険用品店が建ち並ぶエリアにオレは滅多にいかない。
回復剤やその他迷宮探索に必要な物は、必要であればご主人がいつの間にか用意している。そこらへんのジェなんちゃらさん並に早いのである。
「なーなー、はーらーがーへったー」
「えー……待ち合わせにあんまり時間がないんだけど……」
「誰のせいだよ!!」
「うん、僕のせいだねえ……」
困ったように笑うご主人である。
ご主人がオレを襲わなければ良かっただけの話である。
襲わなければブランチでも作って昼前には街に出られたのに。節操無しのちんこがわりぃ。そのちんこの持ち主であるご主人がわりぃ。理性を持てよ。
「だから、罰として飯だ!!」
「えぇ……もうすぐ着くから我慢してよー」
「しょうがねえなあ……」
ご主人のもうすぐとかいう所は信用できる。距離間は正確だ。だからオレも我儘を言うのは止めることにした。
あと、そろそろ視線が痛かった。微笑ましい目でみるんじゃねえ!
ほんの数分後には目的の場所に着いた。
作っている衣類的にもっとど派手な店を予想していたのに、意外とこぢんまりとした店だ。
「……なるほどなあ」
そして、店先に連なる文字群を見て納得してしまった。
日本語や英語、他にも様々なオレがすんでいた世界の言語で、同じ境遇の人はいませんかと書いてあった。
「ご主人」
「どうしたの?」
「この店の店主、多分オレと同じ境遇」
ましてや、多分オレよりも長くこの世界で生活をしている人物だろう。
なんで服のデザインをみて気付かなかったのだろうか。
「そうなんだ。だからソーマに会いたいって言ってたのか」
ご主人の推測は外れてると思うけれど、まあ、そうだよな。幻想魔獣の素材をここまで綺麗に加工するとしたら、相当な腕か人ならざる力を持ってないとダメだよなあ……。
ホント、なんで気付かなかったんだ。
「まあ、いこうぜ。中で待ってるんだろ?」
「あ、待って!!」
オレはご主人の制止の声を聞かずに店に足を踏み入れる。
目の前に針の山が迫ってきていた。
それも勢いよく、床から起き上がるようにして。
死んだ。
串刺し公よろしく死んだと思った。
しかし一向に痛みは来ない。
恐る恐る目を開けてみると、目と鼻の先に、鈍く光る針の山がせせり立っている。
「はっ……」
ずるりと、腰が抜けてへたり込む。恐怖で腰が抜けるのは本日二度目である。ついでに言うと漏らすのも二度目である。本当に緩い尿道括約筋だことで……。
「ソーマ、大丈夫?」
「おう……この状態見て大丈夫だと思うか……」
「あー……。今日は災難だね……」
じわりと目尻に浮かぶ涙。最悪だ。
よしよしとあやされるように頭を撫でられる。ええいくそ、心外だ!
「なあにー? 店先で騒がないでくれる……ってあら? やーん!!」
……オカマがでてきた。
野太い声のカマ口調の野郎が出てきた。怖い。いや、友達になれるかも知れない。もしかしたら、前世女の可能性!!
「もう、ちょっとぉ、クリスったら、連れてくるなら連れてくるで事前に連絡寄越しなさいよー。ソーマちゃん、大丈夫? お湯とタオル用意するから待ってて、クリス、ソーマちゃんの服はいつもの所だから、適当に一着着せてあげて!!」
オレを無視して店主は店の奥へ消えていった。
まずこの針山トラップの説明が先だろう!! こちとら腰が抜けて立ち上がれないんだぞ!




