オレとご主人サマとドM根性
ガッシャンガッシャン。
煩い。そして冷たいし、痛い。
「ソーマぁ、迷宮一緒にいこうよー」
「いかねえ! 平和ぼけした日本人を死地に連れて行くな!」
「ええー! そのちっちゃなおててでヒールしてよー」
「お前、ヒールいらねえだろ!?」
鎧を着込んだご主人が、オレに抱きついて頬ずりをして来ている。正直鬱陶しい。鎧もがしゃがしゃなってて煩いし、それに角張ってるから痛い。なんで気付かないかな!? 普通の人間は鎧姿に抱きしめられても嬉しくないっての!
「いるよぅ。心に傷を負うんだよ!? 僕に生半可な魔物の攻撃効かないからさぁ、それが辛くて辛くて。だから、ソーマがヒールしてくれればそれでいいんだよ!」
「おう、分かった。だったらその鎧脱いでいけよ」
「なっっっ!!!??」
いや、何驚いてるんだ?
痛みが欲しいならその鎧脱いでいけば良いだけだろ。
「ソーマ……」
「どうした?」
「きみって、もしかして天才!?」
「そうだ、天才様だ。ひれ伏せ」
「ははー!」
平伏して、鎧を脱ぎ出すご主人。あれ、マジで鎧脱いでいくの? それって神器だよね。ダメージカット効果がたっぷりついた神器って言ってたよね。脱いでいって良いの?
え、まってまって。お前が死んだら、オレを養う奴いないんだけど!? 流石に異世界で一人ほっぽり出されたらオレ生きていく自信ねーぞ!!
「ちょっと待て待て。せめて盾くらいは持って行け、な!?」
「ええー。男ならここは裸一貫でしょう!?」
「てめえのドM根性は見上げた物があるけど、痛みの快楽も生きていてこそだからな!?」
「ふうむ……。ソーマの言うことにも一理あるなあ。よしじゃあ、今日は中層くらいでどれくらい耐えるかの実験だ! 僕が守ってあげるからソーマも行こうよ!」
「まじかよ……お前、オレ、使えるの初等魔法だけだぞ……? お前攻撃力あんの?」
オレの冒険者ランクってビギナーから毛が生えた程度のEランクなんだけど。迷宮潜ったのも一回だけだし。初等魔法覚えたのも家事の利便性向上のためだけだし。
包丁で指切ったらヒールで治して、竃の火を熾すのにファイアーボルトを使って、お湯を沸かすのにウォーターボールを使うくらいだし。
ご主人みたいな頑強な体ももって無ければ、オンリーワンスキルなんて無いぞ。至って普通の特に鍛えてもいないEランク冒険者のオレが、中層? 無理無理死ぬって。
「ソーマぁ。一応僕これでもSランク冒険者なんだよ? ソロで中層くらい余裕だって!」
「その自信がどこから来るのかわかんねえよ!! 下層で敵にボコられて恍惚としてたのくらいしか、オレ知らねえし!!」
「いやあ、ちょっと下層も物足りなくなってきてねえ……。一撃が軽い……」
「嘘だろ……。猛攻だったろ。一撃受ける度にクレーターできてたろ?」
「軽い軽い」
まじかよ……。化け物だコイツ。
脚絆まで外して、完全に街装になったご主人。背中には白銀に輝く大盾と、腰には幅広の長剣姿だ。
正直この姿で街を歩くと女どもがキャーキャー騒がしいからイヤなんだよなあ。
「で、お前、その格好で行くのはいいけど、マジでオレも行くのか?」
「そうだよー、ソーマと迷宮デートだー!」
「いい大人がはしゃぐんじゃねえ!」
最悪だ。くっそう。コイツを家から追い出して、掃除やら洗濯やらして、ゴロゴロしようと思ったのに。
いらんこと言った。というか、コイツ剣使えるの? あれ、飾りじゃないの? シールドバッシュとか使える系? まさか、リフレクトシールド……!? それはちょっと夢が広がるな。
「で、オレはどの荷物を持っていけばいいんだ?」
「んー、ソーマは何も持たなくていいよ。あ、一応、魔力増幅用の杖と、ソーマが魔力切れ起こした時の為用の濃縮魔力香と……」
「おう……殆どオレの物ばっかりじゃねえか」
「だって、僕、ソーマのヒールが貰えればそれで十分だし! 即席回復とかいらない! むしろ僕よりソーマの方が心配だし!」
神器置いて行くってのに、よっぽどな自信だなあ。
「んで、オレ用の防具はないのか?」
「それでいーじゃん」
「なんでだよ!? 前も思ったが、心許なさ過ぎるんだが!?」
ひらっひらのミニスカに、腹チラ脇チラをよくするキャミソールとか、最悪なんだけど。
「えー、それも一応幻想魔獣の素材から作られた一級品なんだけど? それに実は結界魔法の使い手の魔法を編み込んであるから、かっちかちだよ! この前渡したパンツまで穿けば事実上無敵!」
「はあ!? お前なんでそんな高価なもん人のしかも奴隷の普段着に与えてんだよ!!」
信じられねえ……。ほいほいって投げやるから安物かと思ってたら、とんだ高級品だよ……。
しらんかったわ……。通りで身軽だとは思ってたけど、これ絶対、結界魔法とか意外にも身体強化の魔法も掛かってるだろ。
チートもいい所だ……。
「だって、ソーマには怪我して欲しくないからね。元気に僕を罵って欲しいから!」
「おう……お前の愛が重い」
この装備あれば確かにオレも中層いけるわな……。
迷宮に行って、一泊して帰ってきた。
とりあえずあれだ……。怪我はなかったけど、ご主人の素の防御力がおかしい。中層の魔物の一撃も軽い軽いって。ふざけんなよ。どんだけすげえ音してたと思うんだ!!
オレなんて途中からビビって耳塞いで蹲ってたぞ! すっげえ怖かったんだからな!
「いやあ、楽勝だったねえ!」
「ああ、はいソーデスネ……」
迷宮はもう絶対いかない……。
ちびったし……。くそう。
ただ、ご主人は強かった。なんだあの強さ。伝説の勇者かよ!