オレとご主人サマと魔道書
酒の席も進み、なんやかんやとみんなの武勇伝を聞いていると、ふと貰った魔道書が気になってきた。
魔道書三冊、表題には極意書と書いてあった。ざっと見た限り殆どの特級までの魔法の基本的な事が書いてあった。それが属性に回復あと、強化&弱体と。
「おい、これ、どうしたんだ……?」
「合成魔獣の討伐の報酬かな。それとお金ー」
「お金はいいから、僕はそれ貰ってたんだ。ソーマが中等魔法の魔道書ほしがってたから、一足飛びに!」
まじかよ……。なんか、愛されてんなあ、オレ。
「ちなみに、隣国の王は白目を剥いておりましたよ」
そんなことを小悪党の男が言う。未だに名前を覚える気が無い旨を伝えたら、それでもいいです言われてしまった。というか、コイツ小悪党顔の癖に物腰が丁寧なんだよなあ。
まあ本は高級品で実用品しかないし、基本詩人の歌が娯楽の一つだし。
だから、この極意書というのはすなわち国宝に近いものだ。パンピーがおいそれと拝謁していいものじゃあ無いはずだ。
「おまえ、それ殆ど簒奪みたいなものじゃねえか」
「そう? 結構友好的に渡してくれたけどねえ」
「ぜってー友好的じゃねえだろ、それ……」
呆れて物もいえない。
まあでも、貰えたのは正直に言って嬉しい。
今この場で使えそうなものはさっさと覚えてしまおう。
「相変わらず、ソーマは魔法の天才だなあ……」
「そうなのか?」
「普通、一回詠唱しただけで、完全に魔法を把握して無詠唱まで昇華する人はいません」
「そうかー♪」
ううむ、向こうじゃ落ちこぼれだったからあれだけど、天才と言われると素直に嬉しいな。何事も褒められると嬉しい。
特にスィエに褒められるのは一番嬉しいな!
「うわあ、もうなんかずるーい。私も風魔法特級まで覚えるー!」
「あれ、スィエ酔ってる?」
珍しい。うわばみのスィエが酔ってるなんて。まだそんなに酒入ってないのに。
「あらあら、珍しいこともある物ね」
「だなー。ミセリは回復の極意書よまなくてもいいのか?」
「あら、あなたより先に見てもいいのかしら?」
「別にいいぞ。まあ、属性魔法の方は、オレのオリジナル魔法の方が使い勝手良さそうだ。使うことは滅多に無いかな」
「まあ! 流石合成魔道士の素養をお持ちなだけはありますね」
ミセリは誰に対しても丁寧だ。たまに言葉遣いが変になるけれど、それは隠し事をしているときとかである。
それに、このパーティの回復及び支援の一切を引き受ける女傑だ。
前線に出させても強い。そもそもがこのパーティ自体がみんなソロで迷宮下層を探索できるような面子なのだ。
誘われたけど、オレが入っても良いのか……?
「つーか、合成魔道士ってそんなに珍しいのか」
「そうですね。それなりには。いないことはないんですよ。クローネとかは合成魔道士と服飾士の兼任ですしね」
「そうなのかー」
名前だけ知ってるクローネ。多分こいつらの装備も作ってるんだろうなあということは分かる。みんな軽装なのに硬いからな……。
しかし、なんというか、魔法は簡単だなあ。そういうと怒られるんだろうけれど、オレにとって魔法は簡単、便利。
だけど、メド○ーアとか無限の○製に比べたら使い勝手が悪すぎる。多分オレが使うとしたらそっちがメインだろうなあ……。ああ、今度とある賢王様の合成魔法も試そう。似た感じの魔法があったからできそうだ!
これでルー○で使えるようになったら、オレ、ホントに大魔道士名乗っていいんじゃね!? 夢が広がるな!!
ああ、ちょっとあれだ。神○器とか欲しい。壊すために脳内に語りかけてくる幼女欲しい。脳内で壊そう壊そうってはしゃいで欲しい!
「ソーマ、楽しんでる?」
「おう、魔道書ありがとな」
「ううん、僕はソーマが喜んでくれるのが嬉しいからねー。あ、良ければどれか僕に試し打ちしてよー」
「どうしようかなー。じゃあ、弱体の奴で、防御溶かす系!」
それと同時にオレ自身の拳に防御を貫く強化を掛ける。ヤバイ、ちょっとワクワクする。
「おお? なんか掛かったのは分かったけど――あぐふぅっ!?」
こんしんのいちげき! やばい。オレの一撃でご主人が悶絶してる! やばい、これはやばい。なんか、ヤバイしか言えない! やばい!
爽快感はあるけど、封印だな! どうしてもどうしようも無いときだけにしよう……。
「ソーマ!」
「……どうした?」
腹を押さえたまま、歪な笑顔のご主人。
あれだ、笑い顔が気持ち悪い。いまなら、コイツの考えてること手に取るように分かるぞ?
「もっと! もっとして!」
「断る!」
「ええー!」
やっぱり今までくらいが一番良いな、うん。